慰問
しばらく降り続いた雪が止み、曇天から久しぶりに青空が顔を覗かせた。
城の中は先日の積雪によって、ヴォルフバルトの北方で起きた地滑りの被害が深刻になったとの報告でその対応に追われていた。
数年前に起きた地滑りの後、瓦礫の撤去や植樹を重ね、やっと回復の兆しが見えたと思った矢先での事に大臣達も頭を悩ませた。
地滑りが起きた辺りの地区は山脈の麓の肥沃な土地で昔から多くの薬草が群生する国の重要な収入源とも言える地域だった。現在は父王の従兄弟であるリヒテンシュタイン侯爵が管理をしている。
「リヒテンシュタインから慰問に来てくれないかと打診があった。」
国王とフィーリップ、ロゼッタ、クローネとが同席した応接室でフィーリップが侯爵印の押された封筒を広げた。
「まあ、マルドリック様から?」
マルドリックとは侯爵の名だ。
「ああ、やっと復興した頃にこの仕打ちで、領民もだいぶ疲弊しているようでな。」
「そうだな、しかしワシとロゼッタは建国記念式典の準備もあるし、国王はあまり遠出できる状態ではなさそうだからな。」
国王の病は現在悪化を免れてはいるが無理をしていいというほど回復はしていない。厳しい寒さの中、山を越えるには不安はぬぐいきれない状態だ。
「では、わたししかいないのですね。」
クローネが名乗り出るが、両親はまだ渋い顔をしたままため息を落とす。
「どうしたのです?」
「そう、そうよね、クローネしかいないのですものね~。」
ロゼッタが眉をひそめてつぶやく。
「母上?」
疑問が頭に浮かぶクローネに父から声がかかる。
「では、お前に慰問にいってもらうことにするが、供に連れる人数は最小限にさせてもらう。いいな。」
「はい、それは構いません。」
「では、明日には出発されるのですか?」
クローネは休憩がてら遊びに来たユーノの部屋で慰問のことを話した。
「ああ、北にある領土なんだけど、薬草農園や自然群生地があって、ケニスと一緒にそこの視察もしようと思っているんだ。」
「それは、賑やかな旅になりそうですね。」
ユーノはふふと笑いながらクローネの前にセルヴィナのお茶を置いた。
「侯爵領にセルヴィナを育てている農園があって、是非ユーノと一緒に視察したかったのだけど…。」
言いよどむクローネにユーノは苦笑で答えた。
「わたしは連れていけないのですよね。」
「すまない、その、まだ非公開だし…。」
一緒に視察したかったと言ってくれたことが素直にうれしかった。
「お帰りをお待ちしています。皆さんと一緒に。」
「ユーノ…。」
いつか、彼の傍にいられなくなる日が来るのだ。これはその日のため心の準備をするのに必要な事かもしれない。




