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指輪


泣きはらした目で寝室に戻る。ミーアに着替えを手伝ってもらって、いつもの服に着替える。濡らした布で目を冷やすと幾分か気持ちが良かった。


気付くとソファに横になったままいつかうとうとしてしまっていた。外が紫色の空になっている。もう夕暮れだった。まだ目が熱くて、もう一度目を冷やしてソファに横になった。

ドアが開く音が聞こえた。ノックも声かけもなく足音もしなかったので気のせいかと思った。


「…ユーノ。」


耳元で囁かれてびくりと体が跳ねる。クローネの声だった、囁きは本当に耳の傍で、くすぐったさに肌があわ立つ。


「殿下…?」


できるだけ動揺しないようにこちらも小声で返す。濡れた布をはずして体を起こすと、ソファに座るユーノの前にクローネは膝立ちで座っていた。


「平気…?」


頬に王子の指先が触れそうになって、驚いて身を引く。クローネは上げた手をそっと握りこんで自分の背に隠した。ユーノは心配してくれるクローネに申し訳ない気持ちになってごまかすように話し始める。


「はい、もう大丈夫です…ごめんなさい。」

「謝らなくていいよ。謝るのはわたしの方だ。」


夕暮れはもう宵闇に変わりつつあった。クローネの瞳が宵闇と同じ色に染まる。


「わたしの我儘のせいで、あなたに辛い思いをさせた。…困らせないと誓ったのに。」

「いいえ、殿下は悪くないです。殿下がやりたいと思っていることは自分の為だと言うけど、…それだって国民の為ですもの。」


ユーノの言葉にクローネは眩しいものを見るように目を細めて微笑む。胸のポケットに入れた何かをユーノの手を取りその手のひらに握らせる。


「これを、父上殿から。」

暗くなった室内でも輝く手のひらの上のものが指輪だと分かる。


「パパから…?」

「慌てて、渡すのを忘れていたらしい。帰り際にわたしに託されたんだよ。」


指輪はバラのような花の彫刻が施してあるものだった。くすんだ金色が闇に光る。

「お母様の形見だそうだよ…。」


母の面影はない。ユーノを産んですぐに肥立ちが悪く亡くなってしまったので、しかしその頃からカメラを持っていたジミーは何枚か母の写真を撮っていて、ユーノは写真で母の存在を確認していた。

ユーノと同じビターチョコの色をした髪が柔らかく風にそよいで笑う女性。大恋愛の末ジミーと結婚したと聞いた。ユーノは指輪を握って目を閉じるとまた涙がこぼれた。


「す、すみません…止まらなくて。」

ユーノは手のひらで頬を擦るが涙は止まらない。


クローネはユーノの手のひらから指輪を取り出して左手の薬指にはめた。

ゆっくりした動作で指に入ると、涙で濡れた指輪がきらりと光った。


「もう少し、横になっていなさい。じきに腫れも引くだろうから。」


クローネは微笑んで、寝かせたユーノのまぶたに濡れた布を乗せそっと部屋を出た。


熱いのはまぶただけじゃなくて、頬も熱くなっている事に気が付いてユーノはまた涙が出そうになった。


夜、泣きすぎて痛くなった眉間が冷たい布で冷やされている。誰かが再び布を水で濡らしてくれたのだと思った。湿った前髪を梳かれる。


ふわふわとまどろみの中で誰かに抱かれる夢を見た。


もしかしたらそれは指輪をくれた母だったのかもしれない。


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