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婚約の儀

その日はとてもよく晴れていて、澄んだ青空が天を覆っていた。


ユーノと三人のメイドは王宮にある教会の聖堂がある隣の部屋で儀式が始まるのを待っていた。


「はー、やっぱり素敵です。ユーノ様。」

一番年下のミーアがうっとりと感嘆する。

「そ、そんなこと…。」


ユーノはいつもとは違う形の衣装が気になって仕方が無かった。首と胸元が出るのを頑なに断ったのでそこは免れたがその代わりに肩と腕の肌が見える羽目になった。


「そうよ~。ユーノ様悪い顔してないんだから、もっとアピールするべきよ~。」

超美人なヘレナに言われても…と思うのだが。これからのことに緊張してあまり声が出ない。


「二人とも、あんまりはしゃがないの。」


シェールはユーノの傍でしゃべりまくる二人を諌めるが、メイドとしてあまり着飾らせることができなかった分、三人ともこれを機会にものすごく張り切ってユーノを飾ってくれた。


ミーアは上等な椿の油で丁寧に髪を結い上げ、ヘレナはこの日のためにドレスの刺繍をしていた。体にぴったりと寄り添うドレスは輝く真珠とクリスタルが縫い付けてあった。

シェールは化粧っけの無いユーノの肌を優しく整えて少女のように上気する肌を作ってくれた。


紅を引かれてヴェールを掛けられる。



ついに時は迫る。


扉から赤い絨毯が真っ直ぐに伸びている。絨毯の終わりには王座に座した国王。その手前に神父とクローネ王子がいた。

ユーノの傍らには父王と呼ばれるクローネの父フィーリップ皇太子がいる。


国王とクローネが交わした約束どおり婚約の儀は宮廷内で密かに行われることになった。

それでも宮廷から集まった多くの人々が見つめる視線を浴びながらユーノは父王と絨毯を歩き、まるで一時間かかったようなゆっくりとした足取りでクローネの元にたどり着いた。国王が宣誓の言葉を述べ、手に持った錫丈をクローネとユーノの肩に置く。


国王の後ろ、司教の隣には今日ばかりは輝く首輪を巻いたリンデが大人しく座っていた。女の人がたくさんいるのに我慢しているのね。と考えていると、そっと肩を掴まれて、クローネと向き合う。


「…」

白い手袋が伸びてユーノのヴェールを摘む。


視界が開けると教会の中はとても明るくて、クローネの後ろにそびえるステンドグラスがその瑠璃色をキラキラと瞬かせていた。


心臓が刻むどきどきとした音が周りの音を何も聞こえさせなくなる。クローネがヴェールを後ろにやった手でユーノのあごを軽くあお向けさせる。


「…。」

じっとこちらを見ているクローネは何故か、目を見開いてユーノを凝視していた。

胸の鼓動がうるさくて、クローネの貫く視線に耐えられなくなってユーノは目を閉じた。



もう片方の手がそっと腰を支えて、クローネ王子はヴォルフラウ・ユーノ嬢の頬に唇を落とした。



国王が錫丈を掲げると、婚約の儀は無事に終わり、教会を拍手と歓声が埋め尽くした。



その後婚約お披露目のパーティーが開かれ、ユーノとクローネは祝いに参上した貴族たちから賛辞の声を頂いた。内密にと言っていたが誰にも知らせないわけにも行かず、ここに集まっているのは国王からの信頼も厚い議院や貴族、警備を任せることになる騎士たちがほとんどだった。女性もいるが、出席している貴族の令夫人で若い女性の姿は見えなかった。


おかげで不躾な目線で見られたり、ひそひそと噂を立てられたりという不安はなかったが、ユーノの心臓は未だにドキドキと早い鼓動を続けていた。



宴は中盤を迎え、ホールの傍らに控えていた音楽隊が楽器を奏で始める。緩やかなメロディーが会場に流れ始めると、談笑していた客達は音もなく中央のスペースを開けた。


婚約をお披露目するこの晩餐会ではまず主役であるクローネとユーノがダンスを踊る。そして周りの客達もその輪に入る。パーティーが一番華やぐ場面。



今にも破けそうな心臓の音が頭の中に鳴り響いて音楽がよく聞こえなかった。厳しいダンスの先生だったレイブンからは「まずまずの出来」と褒め言葉を貰ったが、政務で忙しいクローネと踊ったことはまだ無い。


気がつくとユーノはフロアの真ん中に誘導されていた。クローネの手が腰の辺りを触れるか触れないかのところで添えられている。流れる音楽に乗って、もう片方の手でユーノの手のひらを取って二人は向かい合った。


緊張の面持ちでクローネを見上げると、菫色の瞳が優しく微笑んだ。「大丈夫」と小さな声で囁くと、音楽と同様に流れるような動作でユーノをリードして踊った。


ユーノの二ヵ月に及ぶ努力の賜物か、クローネのリードが上手かったのか、何事もなくお披露目のダンスは終わり、客は各々のパートナーと踊りの輪に入り、パーティーは滞りなく終わった。


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