ちかくて、とおい
今回、短文です。
「ねえ、もし良かったら、わたしの家庭教師をしてくれないか?」
それから落ち葉をひっくりかえして虫を探したり、どんぐりを探したり、「外遊び」を満喫した王子は落ち葉の上に寝転がってそう言った。
「わたしじゃ、殿下に教えることは…何もないと思いますよ。」
帰り支度をするユーノの足元で王子は目を閉じたままつぶやく。
「大学を出ているんでしょう?」
「…はい、あの、通信教育だったんですけど。」
「それでも立派なものだよ。私は、…大学に通ってみたかった…。」
ゆくゆくは一国の主となる身で高い教育をうけていると聞いていたユーノは首をかしげた
「王宮では教わらない事を学んでみたい。民は…私と同じくらいのほかの人はどんなことを学んでいるかを知りたいんだ。」
寝転んでいた半身を起こしてクローネはこちらを向く。
「だから、私の家庭教師になってくれないか?大学の授業やテストでもいい。…君の住んでいる町や周りの人のことでもいい。…教えてくれないか?」
じっと見つめる菫色の瞳がふと細められる
「そして、君のことも、知りたい。」
これまでで一番近くに王子の顔が迫る。ユーノは自分の顔がどんどん熱くなっていくのが分かった。
「わ、わたしのこと…?」
上ずった声をごまかそうとして喉がごくりと鳴る。
「国王陛下が先ほどお決めになった。次に、ヴォルフラウの選定が行われるのは、来年の春…。それまであなたを仮とはいえ、妻として守る義務がわたしにはある。」
義務。そして仮。という言葉になぜか胸がちくりと痛んだ気がした。
「一年だけの辛抱だ。わたしの妻として過ごして欲しい。…それにはわたしもあなたも、お互いのことをもっと知るべきだと思うんだ。」
ユーノは唇を引き結ぶことしか出来なかった。何故かうなずけなかった。




