ストーカー礼子
誤字脱字あると思いますがすみません
日本側の水晶洞窟に戻った(以後この表現で)俺は、車をぶっ飛ばし研究室に戻った。
土曜日の夜だから誰もいないハズの研究室は明かりが点いていた。
嫌な予感がした俺は、音を立てずそーっとドアを1センチ開け部屋を覗き込む。
じぃ~
「うわっ!」
隙間に見えた大きなまん丸い鳶色の目に
俺はみっともなく尻餅をつく。
ドアを開いて礼子嬢が仁王立ちで立っていた。
「おまえもかっ!」
「?何の事です?」
訝しむように見つめる礼子嬢。
「い、いやこっちの話……」
またまた動揺する俺。(こんなん続いたら心臓が保たん…)
「で、君はこんな時間に何やってるの?」
「ええ。師匠に置いてきぼりにされて、研究室で石達に慰めてもらってましたが何か?」
咎めるように冷たく言い放つ彼女の眼に偽りは無かった。
(痛い奴…)
「遅くなる前に早く帰りなさい。」
何とか邪魔者を排除しようとする意図を計られないよう、落ち着いて大人な対応をしてみる。
「師匠は何しにここに? …手伝わせてください」
と、後半の台詞は俺を見ずにリュックをロックオンしながら喋る。
(獲物狙いかっ!)
だがしかし!
「今日は空振りですから~残念!」
ジャジャン
とリュックを開けて見せる。
だが風化したギャグも彼女には通じない。
何せお笑いは一切見ないらしい。ちょっと悲しそうな表情をした彼女は自分の指定席にちょこんと座った。
「でもお手伝いしますから何でも言って下さい。何か仕事しに来たんですよね?」
(し、しぶとい)
俺はリュックの中を片付けながら、彼女を追い出す策を練るが、中々良いアイデアが浮かばず焦って出任せを言う。
「いや、明日もう一度トライしようかな~と思って、装備を整えに来ただけだよ。リベンジ リベンジ」
また、じぃ~と見つめられ汗が滲む。
(おまえら、どうせならもっと熱い視線で頼むよ……トホホ)
「じゃあ今度こそ連れて行って下さい。」
(し、しまったぁー!そうなるか!
まあ、すっぽかして月曜日にでも適当な言い訳して謝りゃいいか。)
「ああ、分かった分かった。俺の負け負け。明日ここに昼1時な。俺の車で行こう!」
どうよこの魅力提案的な顔をして彼女の出方を伺う。最後に多少声が上擦ったが気が付いては無いだろう。
「絶対ですよ。約束破ったら入学の時みたく騒ぎにしますよ」
瞬間、彼女の奇声冤罪寸前事件を思い出し、その言葉に心底震え上がる俺を、彼女はまた探るようにじぃ~っと見つめる。
「わ、わかったわかった(汗)だから今日は早く帰りなさい。寝坊するぞ」
どもりながらの俺の言葉にようやく従った彼女を玄関まで見送った後、大きく長いため息を吐いた。
(やれやれ。明日どっか連れてかないとマジでやりかねん。)
「まあ、違うシマに連れてきゃいいか 」
となると、あと10時間しかあっちに居られない計算になる。
元来呑気な俺は、まあ何とかなるなる~と楽観論で締め、準備に取りかかる。
登山用の大きなバッグパックに必要な物を詰め込み愛車のジムニーに積む。
(おっと!肝心な物を忘れた)
急いで研究室に戻り、鉱物コレクションの最上級の水晶を数個選びポーチに詰め込む。
(こっちじゃ安いが向こうならお宝…ふふふふふふ えへへひひひ)
後半一部声に出てたようで、居残ってた他の研究室の人達に恐怖を与えたという後日談等はまたの機会に…。
メノリが起きて騒ぐまでに帰らなければと焦って車に乗り走らせる。この焦りが後々俺を悩ませる原因となったが後の祭だった。
途中メノリの為のお菓子類と食事用袋麺にその他諸々を買い込み目的地に急ぐ。
林道の脇に車を停めGPSで場所を確認する。便利だがあっちじゃ使えないので置いていく。幸い満月で周りは充分明るい。
トランクのバッグパックを取り出すためリアハッチを開けた瞬間、ルームランプに照らされた物体を見るな否や0,1秒ですぐ閉めた。
ハッチを握ったまま固まった俺の顔から汗がダラダラと滝のように流れ出る。
因みに決して汗かきではない。
と
ハッチの中からそれが起き上がり地獄の底から聞こえてくるようなうなり声がした。
「あぁぁぁ~けぇぇ~~てぇぇ~~」
(ひいっ)
「しぃぃしぃょぉぉぉ~ぅっぷ」
(クソッ!何てこった!)
(何で彼女がいるんだ!?いつ入った!?)
(小柄だとは言え気が付かないとは…)
背筋がゾクっとしながらも俺は仕方なく現実を受け入れ開けてやった。
どうやら改造ジムニーの乗り心地の悪さと、急いで来たためにかなり揺れたのですっかり車酔いしてしまったらしい。
さっきのおどろおどろしい声は吐き気からくるうなり声だったようだ。
彼女を侮っていた事、後悔先に立たずをしみじみと実感する俺であった。
彼女によると、やはり俺の言動に不信感を抱き何か隠してると確信して、もしかしたらと思ったらしい。
(エスパーかっ?お前は七瀬か!?)
で、俺が忘れ物を取りに戻った隙に後ろに潜り込んだようだ。
さて、どうしたもんか悩む俺。
彼女は助手席で休ませてる。
早く跳ばないとメノリが起きてしまう。
かといって礼子をここに放置もできないし、彼女の執念だと置き去りにする事自体ほぼ不可能。
何が彼女をそこまで駆り立てるのが不思議というか…はっきり云おう!異常であると!
だが、またそこがいい…なわけないが。
どうも選択肢は一つしか無さそうである。
彼女を洞窟に連れて行くしかない。
「はぁぁぁぁ~」
盛大にため息をつく
気が狂いそうになった俺は、心境を思わず古典的ギャグで表現した。
「何でこ~なるの!?」
間違い無く女難の相がくっきり出てるに違いないと確信する俺だった。
酔いも回復した彼女にこれからの行動を説明して洞窟に向かう。
だが転移のことはまだ話せずにいた。
崖は月明かりとライトで問題なくクリアして洞窟に無事到着した。
彼女はすぐさま晶洞に釘付けとなって、愛おしそうに撫でてはぶつぶつ呟いている。
(危ない奴…)
さてここからが難問だった。
(どうしたもんか)
(どの道話すしかないよなぁ…)
「礼子くん。少しいいかな。心して聞いてくれ」
愛おしい水晶達と別な意味のあっちの世界に逝っていた彼女が戻ってきて振り返る。
俺の真剣な様子を見て姿勢を正し俺を見上げる。
「実は俺と」
「?」
「俺と一緒に寝…」「嫌っ!」
早っ!
拒否早っ!
軽く鬱になる俺。
「い、いや変な意味じゃなくてだな」
そして俺は全てを彼女に告白した。
愛じゃないぞ。念のため。
初めは信じなかった彼女だが、俺が撮り貯めてたデジカメの写真を見て取り敢えず半信半疑までは信じてくれた。
結局壁にもたれて彼女が寝るのを待って俺が彼女に触れて瞑想する事にした。
「師匠を信じてますら」と言ってさっさと眼を閉じた彼女。
(って何!?)
またも傷付いた俺。
(色気も素っ気もないくせに!)
なんかこいつを本気で置いて行きたくなるなる俺。
ただ、石を愛してる彼女なら、ここの水晶とシンクロして跳んで追いかけて来そうな気もする。
いや、きっと来るに違いない。
彼女が睡眠状態に入ったのを確認した俺は、メノリの魔法のかかった水晶を握りしめ瞑想に入った。
ちょっと乗ってきました