街道の罠2
すらんぷ
「あーーっ!あいつか!」
俺は水晶玉が没収されてからずっと引っかかってた問題を解決して、不本意ながらもスッキリした。
どこかで見たような気がしていた騎士は、王都の前に乗り合い馬車を襲った賊の一人だった。
かなり遠くだったので肉眼では分かるはずもなかったが、俺はその時、小型で高性能として有名なドイツ製単眼鏡をそっと出して観察してた。
手のひらに包んだら隠れるので皆には気づかれてなかったはずだ。
これであの時のオッサンの落ち着いた態度にも納得できる。
あの襲撃は、多分ザザで処分した水晶の噂か処分先が商会に繋がったかで、オッサンが異国の得体の知れない俺達を調べるか、試すか、きっかけ作りの為に起こした茶番に違いない。
で、その時偶然見たメノリの水晶玉に執着し、俺達を引き込んで契約し水晶の取引を独占した上、秘宝クラスの水晶玉をも手に入れる為の罠だったわけだ。
これでオッサンは欲しい物は全て手に入れたと思ってるだろう。
だが、俺があの騎士が賊と同一人物と見破ってるのは想定外のはずだ。
そして俺がオッサンの罠を全て見破ったことも…。
まあ、あの水晶玉を知ってるのはコーニングのオッサンだけなんだから、あの検問が怪しさ満点だった時点でほぼ結論は出ていたわけだが。
オッサンはそれで俺を誤魔化せると思ったんだろう。
随分なめられたもんだ。
にしても早い罠の仕掛けだったが、こちとら礼子の嘔吐で足止め食ってるし慣れない馬車の運転で順調とは言えない工程だから当たり前ではあるのか。
「さてと、どうするかだな。」
『何を?』
「うわっ!」
物思いに耽って没頭していた俺は、両サイドからの見事にハモったステレオ音声に驚いた。
「なんだ 居たのか!」
俺が思考に耽ってた様子が落ち込んでたように見えたらしい。
「ヨシユキ。落ち込んでるの?」
「…ん。まあそうかもしれんな。俺が不甲斐ないせいで大事なものを取られたからなぁ…」
「ううん。ヨシユキは悪くないよ!優しいだけだよ!だって私達みんな無事だったじゃない?傷つけ付け合って色んなものを失うより損してでも私は皆が無事なほうがいい」
(いい声…いやいい娘だウンウン)
「そうです師匠!ヘタレで変態でロリコンでも優しさがあればそれでいいんです!」
(グフッ……悪い娘だ)
「ロリコンて何?」
「メノリちゃんそれはね、幼「やめんかあああーっ!!!!」パシーン!!!
はぁはぁはぁ
俺は、こんな事もあろうかと仕込んでいたハリセンで礼子ひっぱたいた。
「さすが師匠。いい突っ込みでした(はあと)」
「はあとぢゃない!有ること無いこと要らん知識も吹き込むな!」
「やっぱ有ることなんですね。どうもありがとうございました」
「もうええわ……ぢゃねーよ!ったくお前ってキャラ迷走してないか?」
「うっ、…だって最近師匠構ってくれないし、掛け合いに工夫を入れて刺激を与える事でマンネリ化した夫婦生活もより快適になると言いますし…」
「えっー?ヨシユキは礼子さんと夫婦なのーーっ!?」
「ち、ち、ちょっと待てーーいっ!誰が夫婦ぢゃあああ」
パシーン!
「さすがあなた、いい突っ込みだわ(はあと)」
「やっぱりそうなんだ!」
メノリのジトーっとした視線が俺に注がれる
(まずいぞ、純真なメノリが信じ始めてるぞ…何とかせねば)
俺は通常比3割り増しに目を開き眼力を込め、眉毛をキリッと真っ直ぐにしてメノリに体ごと向き直った。
イメージはカリオストロンのルパソのクラリヌへの告白シーンだ。
「クラリヌ……じゃなかった、メノリ。」
今までの人生でこれ以上ない真摯な表情を作り上げトーンを一段下げる。
「神なんて信じちゃあいないが、礼子とは夫婦どころか恋人でもないしあくまで弟子としてしか考えたことないんだ」
「そ、そうなんだ」
彼女は、いきなり俺が目を見て真剣な表情になったんで、そわそわさせ視線を時々外し戸惑った様子。
「俺はメノリの生い立ちを知ってから、どうにかしてやらなくちゃとずぅ~っと思ってるんだ…」
「生まれてすぐ1人ぼっちになって、寂しい道を歩んできただろう君に幸せになって欲しいのさ…いやその権利が君にはあるんだ。そして、幸せにしてやる事がいつの間にかこれからの俺の生きる標にもなってる事に気が付いたんだ…」
「ヨシユキ…」
「人生は辛いことと同じくらい幸せも無くちゃいけない。君は辛い時をもう充分経験した。これからは幸せな時が待ってる」
「…うん」
(おいおい、俺の口が何か勝手に喋り出してるぞ、しかも何か安いラブソングのパクリみたいだな)
一方の冷静な自分が分析する。
「…ヨシユキ」
純真なメノリは捻りのないストレートな言葉がよかったのか銀色の眼が潤んでくる。
「君の幸せの手伝いを俺と2人で一緒にやら…「告白タイムか!」
スパーン!!
いつの間にか俺のハリセンを奪ってた礼子の渾身の一撃が後頭部に炸裂した。
「いい突っ込みだ礼子!」
まじで俺の口が勝手に告白しそうになったので礼子に感謝する。
メノリもモテ期皆無人生の俺なんかと連んでもレベルの低い幸せしか感じられんだろうから可哀想だ。
何か壮大にコントネタをやった後みたいにグッタリした俺は全てを元に戻してこれからの事について話す。
「……メノリ、礼子。脱線してすまんかった」
「脱線だったんだ…」なぜかしょぼーんとするメノリ。
その様子に動揺しながらもヘタレパワーで押し切り話を進める。
変なテンションの口説きモードから、いつも通りの情けなさ全開に戻ってすこしホッとした事自体にまた少し鬱になった。
俺たちはちょっと作戦会議するために街道沿いの食堂に入る。
かなり王都から離れたのですっかり田舎の食堂の風情だったが、以外に素朴で美味い飯に皆の気分も幾分晴れたようだ。
「さてと、これからの予定だが、水晶玉が無くなった今、未開の目的地に行くのはリスクが高いと俺は思う。」
「手持ちの武器と水晶では万が一の事態が起こると正直皆の安全を保証する自信がない。だから今回のお宝探検…諦めて…ザザに向かおうと思う」
2人の視線を受けながら言い聞かせるように淡々と喋った俺だが、少しの悔しさが滲み出てたようだ。
気持ちを切り換えた様子のメノリが俺を見てきっぱりとした口調で話す。
「ヨシユキがそうしたいなら私はそうする。だけど、護衛の私の事が理由の一つにあるんだったらやめて。私は守る自信があるから」
真っ直ぐな瞳が眩しい。
だからこそ生半可な決断で彼女を不幸にするわけにはいかない。
メノリは俺が彼女の魔法の正体を感づいてる事を分かってるのだろうか…
今までの行動や言動を再考証した結果、その可能性は無いと判断した。前と変わらず彼女にはちょくちょく魔法をお願いしているし、その回数を減らせてもない。俺が魔法に疎いと思ってるのは間違いないし、魔法そのものに対してそれ程興味を示す態度を取った覚えもない。
いずれにしてもメノリに魔法を酷使させる事の無いようこれからも気づかれず配慮していこう。
俺はこれからのルートを探る為、バッグから地図を取り出した。
「ありがとうメノリの魔法は千人力だからな。これまで通り頼りにしてるよ。」
メノリに心配掛けないよう優しく言った。
満足そうなメノリの顔を確認した後再び視線を地図に向ける。
「だいたい今このあたりだから、王都へ引き返すよりもこの先の三差路をザザへ向かうのがいいと思うが皆はどう思う?」
ちょっと考え事をしてたのか暫く黙ってた礼子が口を開く。
「師匠。私はコーニング商会との契約を破棄しに王都へ向かうのがいいと思います」
「…どうしてだ?」
意外な強気を見せる礼子嬢に俺は少し驚いた。
「なぜって悔しいじゃないですか?あのニヤニヤおやじに騙されたんでしょう?」
(礼子もわかってやがったか…)
またまた意外な洞察力に俺はびっくりする。
「騙されたって?」
純真なメノリにはわからなかったようで少し安堵した。
これ以上汚い世界をあまり見せたくない。
「おれが情けなかっただけさ。大したことじゃないよ」
「ヘタレ師匠!何て情けない!こうなったら魔法少女メノリの力で、コーニングおやじのどたまの上に必殺技メテオクラッシャーアルマゲドンシャイニングボンバーをお見舞いしてやりましょう!さあ師匠よ!その石に愛されし千里眼によって無二なる石を探し出し、ゴミクズどもに聖なる雷をお見舞いしてやるのだ!そして再び全世界は我の元にひれ伏し一族の悲願を叶「もおええわーーーパルス!!」スパーン!
…しーん
息苦しいまでの静寂に包まれた俺達は、まるでビデオの停止ボタンを押したように固まってる食堂全員のぽかーんとした顔を見ることができずただ俯くしかなかったのだった。
…