砂塵の街
初投稿です。世の中で起こっている事を小説にしてみようと試みました。なお、このお話のは某国のある街をモチーフにしています。
私は午後四時頃、再びこの街に辿りついた。
再び、と言ったのは、私が何度かこの街に足を運んでいるからだった。
理由は一重にこの街の発展にある。私は暇を見つけてはこの街を訪れていた。
信じられるだろうか。この街は、わずか二年前まで、寂しい農村だったのだ。
今では天を突くような高層ビルが造られようとしている。
人々が街に流入し、かつての農村の面影は既にない。
私は地方の大学で非常勤の講師をしている。学者の卵である私の心がこの異様な発展ぶりのこの街に興味を示したのだった。
この街は坂が多い。元々はちいさな農村であったのだが、林を切り倒し、丘を削り、たくさんの人々が生活出来る場所を作ったのだった。
かつての農民たちは村を追い出され、それに変わり沢山の人々が稼ぎの良い仕事にありつこうとやってきたのだった。
「よう、あんた、また来たのかい」
見ると、ぼろを身に纏い、大きな荷物を背負った男が私に声をかけた。
私は笑顔で挨拶をした。
この男とは何度か出会っている。不思議とよく出会う。彼は荷物運びの仕事をしている。かつては遠方で農夫をしていたのだそうだ。
「おじさん、今日も仕事なんだね」
荷物を背負った男は嬉しそうに笑顔を作った。顔は真っ黒に日焼けしていた。
「ああ、今月に入ってから、一度も休んでないさ」
男はその事が誇りであるかのようにそう言った。
しかし、私はなぜこの男と良く出会うのだろう。ひょっとしたらこの男、街中を歩き回っているのではないだろうか。
背中に大きな荷物を背負って。
「俺は子供達にいい学校に行ってもらいたいんだ。その為なら昼でも夜でも働いてみせるさ」
男はそう言って、急な坂道を登って行った。私はその背中を見送った。
*
その時、風が吹き荒れ、路上の砂が舞った。それはさながら砂嵐のように、周囲を砂で覆った。
私は思わず空を見上げた。先程まで見えた青空は砂に覆われ、見ることが出来ない。
目に砂が入り込んできて目を開ける事が出来ない。私は思わず路上に屈み込んだ。
砂の吹き荒れる音に混じって人々の悲鳴が聞こえた。
「あらあら、大丈夫かい、さ、早く中にお入り」
心配した宿の女将が慌て、私のところに駆け寄ってきた。私は女将に手を引かれて、宿に辿り着いたのだった。
体中に砂が入り込んできて気持が悪い。早くシャワーを浴びたいと思った。
私は宿の部屋に入り、直ぐ様シャワーを浴びた。
耳の中まで入った砂を綺麗に流し、服を着替えると、先程、砂嵐の中から救い出してくれた女将に礼を言うのを忘れていた事を思い出し、私は女将の元へ向かった。
「わざわざいいのよ。あなたは良くこの宿を使ってくれる常連さんだもの」
女将は笑顔でそう言ってくれた。
この宿は新館と旧館とがあり、私は専ら旧館を好んだ。
旧館は昔ながらの宿であり、この街に昔から残っている唯一の建物だと言っていい。
この宿はかつてこの場所が農村だった頃から続いている。当時、宿と言えばこの宿ただ一軒だったそうだ。
「あの頃は行商の人がたまに泊まっていく程度だったねえ」
女将は目を細めながらそう言った。
しかし、今は昔とは違う。連日、沢山の人々がこの宿を利用する。中にはわざわざ外国から長期滞在目的で利用する人もいるという。
商売は右肩上がりで真新しい新館も建てた。元々家族経営であったが、今では従業員を新たに五人雇っているそうだ。
「確かに豊かにはなったけどねぇ……」
女将は連日の激務で凝った肩を叩きながら、小さくため息を吐いた。
砂嵐は止み、綺麗な夕焼けが見える。白亜のごとき新館が夕陽を浴びて輝いていた。
*
次の日の朝、ちょっとした事件があった。
私は、早朝から市場に出かけていた。市場にはかつて見られ無かった様々な嗜好品が並んでいた。
「しかし、最近は新鮮なものが手に入りにくくてなあ」
という市場の親父の話しを聞いていた時だった。
突然、大勢の人々が手に鍬や鎌を構えて、後進している様が目に写った。
私は不用意にも、何事とかと思い、行進の列に近づいた。
行進の集団は口々に何かを叫びながら歩いている。彼等の歩いた後には砂埃が舞い。私は思わず咳き込んだ。
集団は次第にエスカレートし、一人が屋台を叩き壊したのを皮切りに、暴徒へと豹変した。
「俺たちの土地を返せ!」
果たして彼等は土地を追われた元農村の住民であった。
私はその様を呆気に取られながら見入っていた。不意に私の目に火花が散った。誰かが私の頭を思い切り殴り飛ばしたのだった。
その後の事は私は覚えていない。私は気を失ってしまったらしい。
それから随分たって私は独房の中で目が覚めた。
暴動鎮圧に乗り出した警官隊が私を暴徒と勘違いし、連れてきたらしい。
私は朦朧とした頭を抱えながら、身の潔白を証明しなければならなかった。
私は夕暮れ時になってようやく解放された。暴動の起きた場所にやって来ると市場の人々は片付けに躍起になっていた。
片付けながらも商売を続ける彼等の横顔に私はある種の逞しさを感じた。
*
私は宿に戻り、少し眠ろうと思った。私はくたくただった。
シャワーも浴びず、着た服もそのまま、私はベッドへと倒れ込んだ。
暫くの深い眠りの後、私は大きな騒音で目を醒ました。
例の砂嵐が吹き荒れはじめたのだった。
窓の外を見ると、灯かりの消えた街に縦横無尽に砂が舞っている。月明かりがその様を不気味に照らし、さながら悪魔の行進のように見えた。
この街、そしてこの土地は砂漠になろうとしているのだろうか。
かつて、たった二年前までは静かな農村であったこの場所が砂漠になろうとしている……。
この砂嵐の原因は周囲の木と言える木を根こそぎ伐採してしまったせいだと、友人が言っていたことを思い出す。
世界的に見ても、此ほどのスピードで発展した街はそうそう無いと、ニュースでは誇らしげに言っていた。
しかし、これが本当に発展と呼べるだろうか。
私は更に、この街に来る度に出会う、あの男の言葉を思い出した。
「俺は子供達にいい学校に行ってもらいたいんだ。その為なら昼でも夜でも働いてみせるさ」
私はため息を吐きながら、窓の外を凝視した。
砂嵐は止む気配もない。
読んでいただいて有り難うございます。読んで、何かを感じて頂ければ幸いです。




