沈黙はん
「セガール?」
「ちゃイます。瀬峨流蔵や云います」
瓜子のボケを、瀬峨神父が突っ込む。鹿子が自信有り気に拳を振り上げた。
「姉ちゃん、蝶子。瀬峨はんが居れば、百人力やで!」
「ホンマやー! ホンマに百人力やで!」
蝶子が巨大な神父を見上げて、大きな瞳を輝かせる。ポニーテール神父は一旦手の平を合わせて、また離す仕草をした。
「難波はん、事情は聞きました。降り懸かってくる火の粉は、祓わんといけんでっしゃろ。儂で良ければ、手伝わして頂きマす」
「なっ! なっ! 瓜子姉ちゃん、話ん分かるオッサンやろ!?」
末妹が瞳をキラキラとさせた。瓜子は後ろ頭を掻き掻き、笑顔で瀬峨神父に訊いてみた。
「あーの神父はん、車あります」
「おお、デカいのがあるで」
「頼んます! ウチらとお母んに叔母はんを、乗せて貰えんでっしゃろか」
「ええですよ。ほな決まったんなら、急ぎまひょ」
難波三姉妹は、瀬峨神父の自家用車エスティマの黒に乗り込み、家路を目指してアクセルを噴かせて飛ばした。巨大な神父は運転が大味なものの、なかなか上手い腕前であり、襲いかかって来る屍人達を的確に効率良く跳ね飛ばして轢き倒していく。そして難波家に帰り着いた三姉妹は、颯爽と飛び降りて家に入った。瀬峨神父も後から続く。
家の中は町内の住人が母虎子と叔母京を含めて、三十人ほど。殴られ傷やら引っ掻き傷に噛み傷などが、住人達に確認出来た。それは、虎子と京にも見られたのである。末娘と次女とが、二人の痛々しい怪我を発見するなりに泣きついた。
「ああ〜〜! おかん! ごめんなぁ〜〜!」
「阿呆か、蝶子。痛ないで。アタシらよりも他ん人達が重傷やさかい、早よ移動しよな」
虎子は末娘の頭を撫でて、目の前の瀬峨神父と長女の瓜子に笑顔を送る。
「神父はん、この方々を先に頼んます」
「分かりました」
そう返事した瀬峨神父は、町内の住人達の内八人、怪我人含めて車に誘導してゆく。
母と叔母は疲れて傷だらけの多少ボロボロだったが、自慢の三人娘の無事な姿を見て爽やか笑顔になった。そんな姿に、長女の瓜子が胸をうたれて半泣きの表情になるも、堪えつつ、笑顔で返した。
母虎子と叔母の京は美しかった。普段からも美貌の双子姉妹だが、今回はより一層に美しかった。