沈黙の神父
難波三姉妹は路面電車とタクシーを乗り継いで、大浦天主堂教会へと向かった。その間にも、電車で屍人達を轢き倒し、タクシーでも轢き倒しながら天主堂に到着する。長女は、母に携帯電話で繋いだ。美貌が神妙な顔付きになっており、心配していたようだ。
まだか。まだ出てくる様子がない。呼び出し音が何度となく鳴るも、繋がらない。母と叔母は無事であろうか。
まだか。
まだか。
まだか。
まだか。
まだか。
まだか。
まだか。
『はい。難波です』
瓜子は安堵の中に慌てが入り混じってくるのを感じつつ、無事を確認。
「お、お母ん。無事やってん!」
『この通り生きとるで。京も無事や』
「街ん中は今どないなっとるんや」
『過去ん連中がギョーサン暴れまわっとるんよ。今な、アタシらの家に怪我した人達を匿うとるで。―――瓜子。咬まれて連中の仲間入りちゅうんは、嘘やってん。お隣さんな、咬まれて亡くなってしもうたー』
「なっ、何やて!?」
『せや瓜子。お前、今どこんおるん?』
「ウチらな、大浦天主堂に居るんよ」
『あんの神父さんとこか! 鬼に金棒じゃな!!』
「今から神父サん連れて来るさかい。お母ん、気張って待っとってや」
『おお。ほな、切るで』
瓜子は安堵して通話を切ると、携帯電話を後ろのポケットへ収めて、教会の入口に目を向けると、可愛い二人の妹達がひとりの大男を連れて来たではないか。女は思わず二度見してしまった。
その男は、巨大。身長が百九〇を超えて、黒服越しからもうかがえる筋骨隆々さ。長四角い輪郭に彫り深い造形、顔の中央にどっしりと座った高い鼻。艶やかな黒髪長髪をオールバックにして、ポニーテールのアンダーで結んでいた。野太い首は、到底折れそうにもない。その男の名は。
瀬峨流蔵。
大浦天主堂教会神父。
前歴は刑事。
別名、沈黙の神父。
ポニーテール神父。
と、囁かれている!当たり前ではないか、面と向かって云える筈がない。デカいし強いし。
驚き戸惑う瓜子は目を剥いて、転けそうになりながらも巨大な神父を指差した。
「なっ何や!? そんオッサンは」
「瀬峨神父やで」
鹿子が笑顔で紹介。末っ子の蝶子は興奮気味に瞳を輝かせた。
「瓜子姉ちゃん! こん神父はんゴッツいなぁ!!」
「どうも。儂、瀬峨流蔵云いますネん」
と、自己紹介。