デイ
「ほな、行ってきまぁす」
三姉妹、一斉に。
「気ィ付けてな」
虎子と京も声を揃えて。
「お母んもミヤコはんも、気ィ付けてな」
再び、三姉妹一斉に。
「な、何でや?」
虎子が少し焦ると、母によく似た長女の瓜子がひと言。
「昨日からやけどニュースでしよるやんか。ゾンビ連中が暴れよるて」
「ゾンビちゃうで。」
鹿子の訂正。
「まぁ、暴れよる連中に気ィ付けてや。ほな、行ってきまぁす」
長女がそう云ったのちに、姉妹ともに家を離れてゆく。三姉妹が通う道のりは、途中まで一緒だった。
その中で、まず初めに通過する所が、鹿子の通う、墨色の学ランとセーラー服とに碇の刺繍が特徴的な『長崎県立黒船高等学校』。女子のは更に、セーラーカラーにラインのかわりに碇の爪を白で染め抜いていた。また、その白黒逆転もある。これは女子生徒のみ。
通学路を歩きながら蝶子がふと疑問に思ったので、姉二人に尋ねてみる。
「なぁ。連中ゾンビちゃうの?」
それを次女が笑顔で受け止めた。
「蝶子。ゾンビはちゃうで。“あっち”はなぁ、ハイチにあるブゥードゥー教ん云う宗教的お仕置きなんや」
「お、お仕置きて何やの?」
「あんなぁ、例えばやぁ。親が自分んとこの子供を、くたばる寸前までど突きまわしたり。浮気やら不倫。あと殺人や窃盗などやらかすとな、ブゥードゥー教のお偉いさんに裁かれるんや」
「どないなんの」
「『ゾンビパウダー』ちゅう粉薬飲まされてな、いっときばかりの全身麻痺になるんや。それが、一回“死んだ事”になるんよ。―――でな、日にち経つと目が覚めてな、街ん中ふらふらっと歩き廻るんやな。薬ん副作用で一時の記憶障害起こしてんねん。そしてそん後に、他の家で労働力として使うんよ」
「げっ! ホンマか!? なら、ずぅっとそん家で使われるんかいの……」
「心配あらへんで、蝶子。薬ん副作用が切れた頃な、身内ん者が探しに来てや、引き取るんよー。―――けどな、お仕置き受けた本人は間ん記憶が、のおなっとるちゅうワケや」
「厳しイなぁ、鹿子姉ちゃん!」
「そや、厳しいんや」
「鹿子、お前……エッライ詳しいんやなぁ……」
長女が引き若干気味に驚きながらも、感心していた。