ナイト
ここは『長崎県立鶴港小学校』の運動場。
難波蝶子は、男子イレブン対女子イレブンでのサッカー対決のさいちゅう。蝶子はオレンジと白のポロシャツに、藍色デニムのスカート型ズボンと白の運動靴であった。そして今、髪の色素が薄いクラスメートからパスを受け取った。
「あはは! ミッちゃんナイスアシストや」
「こんまま決めじゃ、蝶子!」 黒髪おかっぱ頭の眼鏡娘から声援を受けて、蝶子はゴールへ向けて突進。ディフェンスする男子三人を次々とスルーして行き、時には当て身もして、遂にはゴールネット目掛けて球を蹴飛ばした。斜めから蹴った球は見事に緩やかな弧を描いて、飛びつくキーパーをすり抜けネットの横にめり込んだ。
女子イレブンの勝ち。
「やってン! ウチらの勝っちゃで!」
「勝った! やっぱ蝶子がおっての勝ちったい!」
「ミッちゃん、相変わらずアシストの上手か!」
「あははは! 蝶子の必殺技が決まった!」
と大喜びしている女子イレブンを余所に、男子イレブンの面々は。
「うう……。あ、アイツら化けモンやっか」
「あん美千恵が習い事のお嬢様て、やっぱ嘘やろ」
「なぁ、たまには勝とうで」
「あんキーパーも化けモンじゃ。絶対擬態やろ」
「病人ごたん格好とにな……」
ご愁傷様。
放課後の夕刻、と言っても外はまだまだ明るく青空が顔を見せているが多少は薄暗い。蝶子を含めて三人の少女達は、一緒に下校していた。
海原美千恵。十二歳、六年生。蝶子が居るクラスの中でも、一番大人びている少女。百五八の身長はスラリとしている。髪の色素も薄く栗色で、肩まであり、真ん中分け。瞳は切れ長で大きく、瞳孔も栗色。十二歳で既に端正な顔。服は愛用しているクリーム色のワンピースに、褐色のベルトとサンダル。習い事は日本舞踊に合気道に華道。
白峰雪那。十二歳、六年生。身長は百四五と蝶子と同じ。緩やかな卵顔が、可愛い少女である。瞳は垂れ目。黒髪は腰まであり、分け目無し。市松人形にも見える。躰は華奢なのだが、並外れた力強さに瞬発力は潜在的な物。異様な色白さは、病人に見られるほど。青いデニムのワンピースに、運動靴。
三人の少女は帰宅途中、電柱の下で丸まって寝込んでいる男を発見。まだ若いようだ。青年の肩を揺すってあげる蝶子。
「おい兄さん、風邪ひくで」
そんな男の顔には、血の気が無かった。