戦国狙撃人 弐
稲葉警部補が向かった先は、長崎県警察署と市民会館に公会堂がある、巨大な十字路。そこは路面電車の線路がT字に交差する。その場所に、機動隊と屍人達の陣営が合戦の最中であった。機動隊は途中まで、屍人達の弓矢隊に鉄砲隊に対しカーボンシールドで応戦して、連中を追い込んでいたのだ。屍人達の足軽や鎧武者に維新軍人が徒党を組み集まる以前に、大多数を倒し込んでいたお陰で、連中にまともな陣営を組ませないでいた。だが、全軍を全滅出来ると思えたそんな矢先に、突然と何処からともなく鎧姿の狙撃人が現れて戦況が一変したのだ。
稲葉警部補が状況を見ると、機動隊の数が大多数減らされていた。怪我人の保護に運んでいる者や応急処置に移動する者などが次々と出て、元々少ない機動隊が、更に減らされていたのだった。隣りの松本刑事が報告する。
「屋上に居た狙撃班が皆、殉職なされました……」
そう報告を受けて、稲葉警部補が建物の陰から他の建物をうかがう。すると、それぞれの建物内部と物陰に、三体の屍人を発見。とそこへ、ブラウン系の上下姿のひとりの女刑事が、警部補と松本刑事の元に歩いて来た。女は朝倉香里刑事、三六歳。端正で凛とした美人。警察署内の空手部顧問でもある。艶やかな黒髪長髪を真ん中分けして、後ろに纏めていた。朝倉刑事が凛とした声で、稲葉警部補に報告する。
「警部補、奴らは三人居るぞ。まずひとりは弓矢使いだ。頭に額の防具を巻き付けている。もうひとりは、クロスボウガンを使う。弩とも云われていたな。コイツは足軽のような格好だ。そして最後のひとりは、ライフル使い。詳しくは種子島銃だ。奴は烏帽子を被った狐顔だ」
「連中、三人共に、自身の武器の射程距離を熟知している様子だったな」
「因みにな、稲葉。奴らは鎧がバラバラでな、肩当てから胴巻きまでに至るは、屍人達の骸から剥ぎ取り身に着けている様子だぞ。所持武器も怪しい」
香里刑事の言葉を受けて、稲葉警部補は薄笑いを浮かべた。
「なるほど。弘法は、筆を選ばずか」
「分かっていると思うがな、奴ら三体は、破片や残骸を武器として扱える可能性ありだぞ」
「ああ、有難う。気を付ける」
その頃、市民会館ホール。
「蝶子。お前、何しとるの」
瓜子から治療を受けながら、母虎子が尋ねた。
「パチンコ作っとんのや」