戦国狙撃人 壱
稲葉警部補は細面の精悍な色男。だが、神経質な感じも見て取れる。切れ長な瞳は、獲物を射抜くような厳しい印象もあり。縁無しの眼鏡を掛けていた。鼻筋は細く高い。黒髪をショートから襟足辺りまでに伸ばしている、分け目は無し。身の丈は百八〇強もある細身であるが、その下には、けっこう鍛え上げた躰を持つ。上下グレーのスーツに、青いネクタイ。彼は警察署内で一番の熱血漢でもある。
上下ブラウン系のスーツ姿の松本刑事が、稲葉警部補へと駆け寄り、何かを話していく。そして顔色が変化したときに、部下と共にその場を離れて行った。蝶子がその様子を見て、歯を食い縛り拳を強く握り締める。
「あーっ、あかんっ! どこ行くんや!」
「後追うんじゃ!」
柚菜も拳を強く握り締めた。そして、稲葉警部補を追跡開始。
稲葉警部補は、同期で部下の松本刑事と廊下を急いでいた。玄関先で待ち構えていた、もうひとりの女刑事と合流して現場へと向かう。この女刑事の名は鬼束あかり。薄い色素の髪の毛な上に、細い猫っ毛が特徴的。しかも、色白で可愛らしい顔立ち。あかり刑事も、稲葉警部補と同期で部下。
「相手は、かなりなベテランらしかな」
稲葉警部補が、あかり刑事へ質問すると、女は持ち前の柔らかい声で答えてゆく。
「はい。殺さず生かすの戦闘不能にさせて、怪我人保護に人手を回さすていうヤラシか戦闘方法ば使うてきます」
「なるほどな。―――ああ、そいとな、後ろば着いて来よる子供二人ば避難させてくれ」
「あ、え? 後ろっ……」
女は少しばかり驚いて後ろを振り返ると、蝶子と柚菜に目が合った。二人へと自然と出た満面の笑顔を見せて、警部補に向き直る。そして、耳打ち。
「了解、任せて」
「ああ、悪かな。頼む」
「あかん! あん女刑事はん、むっちゃ可愛いやんか」
蝶子が焦る表情を柚菜に向けた。柚菜は深刻な顔になるなり。
「ワシら、バレとったのーォ……」
少女二人はその場から“そそくさと”離れて行った。
ただ今、長崎県の各地域で機動隊と屍人達陣営との合戦が起こっていた。各時代と武器が入り乱れるも、奇跡的に陣営を取りまとまっていたのである。だが各機動隊は好戦していたのだが、屍人の凄腕狙撃人の出現により悩まされていたのだった。