嘆きの森
本作には、怪異・歴史的背景に関する不穏な描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
ある山の一角に【嘆きの森】と呼ばれ付近の住民が近づかない地区がある。不思議なことに行き止まりの山道は整備され、大型車も通行可能だ。しかも、【嘆きの森】の手前で折り返しができる。
誰かが所有者を調べたが、登記はされていなかった。
どこで知ったのか、肝試し的なスポットになっているとテレビの取材が来た。
【嘆きの森】に入る前に朽ちた鳥居がある。ところどころの朱色が妙に目立っている。すぐに神社の残骸らしきものがあった。ギシッ、ギシッと鳴いている。
森に入ると、まず木の葉がザワリ、ザワリと風のない日も揺れている。
それに構わず森を進んでいくと、人の話し声らしき声がする。ザワザワ、ヒソヒソと聞こえてくる。耳を澄ませば、すすり泣きになる。
それでも森に居続けると、手を引っ張られるような感覚がある。その手は、小さく子供の手らしい。そして、「ネエ、あそぼ。」と誘ってくる。その手は一つではない。その手を取った者がどうなったかはわからない。
しかし、手を取らなかった者は、すぐに逃げ出すものがほとんどだ。【嘆きの森】を抜け車に乗り込む。焦りながらもエンジンをかけ、「みんないるよな。」確認する。「居るぞー。」この会話が必ずあると言う。
そこからは、誰も詳しく話さない。いくらギャラを高くしても言わない。ある老人が「罰当たりな奴らばっかりだ。そんなに知りたいなら、行ってみればいいだろう。」
取材班は、現地に行った。全て、本当のことだった。流石に子供の手は取らなかった。葉が触れる音がサワサワ、ザワザワ、バサバサと徐々に大きくなるなか、駆け足でワゴン車に戻る。自分の息や足音さえ不気味に聞こえる。皆がハアハアしか言えない状態で車を発車させると、「みんないるよな。」「居るぞー。」誰かが聞いて答えていた。取材通りだ。だが、誰も何も言わない。
それでも、ワゴン車を必死で走らせる。聞こえてくるのはエンジン音とタイヤが枝を踏むパキッと言う音だけだ。山道の入り口について、やっと振り返ることができた。山道からドドドと走ってくる足音が聞こえてくる。何かがやってくる気配だ。すぐに車を走らせようとすると「待ってくれー。俺を置いて行かないでくれー。○○だよー。」取材のスタッフだった。○○を乗せて麓の宿まで寄り道せずたどり着いた。
誰かが言った。「○○は足が速いんだな。」誰もが気が付いた。人の足ではおいつけない車に一分もなく追いついていた。
あの時、「みんないるよな。」「居るぞー。」誰が聞いた。誰が応えた。人数は誰が確認したのか。誰も知らなかった。一瞬、周りから音が消えた。
○○に注目が集まる。こいつは子供に手を取られたんじゃあないのか。ほんとに○○か。疑問が駆け巡る。
取材は、そのまま放映された。取材スタッフは全員小型カメラを付けたヘルメットをかぶっていた。全員のカメラに説明できない現象が映っていた。同じ場所なのにそれぞれの映像が全く違うのだ。声もキャハハハ、ケラケラと笑う声だったり、シクシク、メソメソの泣いている声だったりだ。ギャーと言う叫び声もあった。赤ん坊の泣き声もあった。
映像も音声もそのままに現場にいるような緊張感が全国に映し出された。反響がすごかった。
その中に、【嘆きの森】に祖先が眠っていると言うのがあった。それは昭和初期から第二次世界大戦終了までのことだ。【嘆きの森】は、伝染病に罹患した者やその疑いのあるものが処理された地だと言う。反戦者のなれの果てだったというものもあった。国の隠れた処理場だったのだ。身内だったものや、【嘆きの森】で働いたことのある者の日記まで出回った。
確信はなく、情報だけが先走って行った。そして、止まることが無かった。連日、マスコミは事実の検証を行った。否定する材料がなかった。コメンテーターたちは、言葉もなく黙り込んだ。
とうとう政府が発表した。
「事実である。」
その瞬間、シャッター音やフラシュ音、記者たちの呼吸音が消えた。
もちろんフィクションです。




