アイツとコイツと
話が前後します。
今回はちょっぴり、過去になります。
痛い。
意識が戻った瞬間、感じたのはなんとも言えない痛みだった。
あぁ。また、やってしまった。
身体も痛いが、なにより心が痛い。
やっと暗闇に目が慣れ、辺りを見回してみても
俺以外には誰もいない。
ただ、少しだけベッドに寝てる俺の横が温かい。
そして微かに、アイツの匂い。
ふいに泣きそうになる。
だから、俺は悪態をつく。
お前は死神は楽しいなんて言ったけど、俺は哀しいばっかりだ。
この嘘つきっ!
って。
まぁ、そんなことしているのは自分でも女々しく、あほらしいと思う。
それでも、俺はそんなことをしなければ、泣いてしまうから。
泣いたら駄目だ。
だって、俺は知ってるから…。
コンコン…
ドアをノックする音と共に、今一番聞きたくない声がした。
「カイ…?今、いい?」
嫌だ嫌だ…。
今は駄目だ。
そう、言おうとしてたのに俺の手は勝手にドアを開けていた。
「…何?」
ドアの前にはリツが
いつもと変わらない無気力そうな様子で立っていた。
「…おはよ。」
だけど、リツはいつもと違った。
この違いはきっと俺にしか解らない。
…誇らしいんだか、虚しいんだか…。
「どうか、したの?」
中に入れよ、と仕草で示し促す。
リツはコクンと頷き、入ってきた。
正直、今悩んでいるのは俺の方で、よっぽど誰かに相談したい。
それでも、リツは俺以外には心を開いてないから
俺にしか相談できないことを知っているから、無下にするわけには、いかない。
「…カイ、は…好きなやつ……いる…?」
一言一言、悩む様に、搾り出す様に告げられたその言葉に俺は固まる。
「………いない…。」
…本当は、嘘。
俺には好きなやつがいる。
大好きなやつだ。
でも俺はそれを…少なくともリツには言えない。
「え…だってカイは…」
『いない』
俺のその答にリツは驚いていた。
「…アレは…違うんだ。」
何が違うのか…
俺だって解らない。
『俺とニーヤは付き合ってる。』
『頻繁に身体を繋げているらしい。』
一時期、そんな噂が出回った。
まぁ、直ぐにデマだった、と片付けられたが、
あながち間違いでもない。
いや、2つのうち、1つは合っている。
というべきか。
そう、確かに俺とニーヤはセックスをする。
頻繁に。
だけど、だからといって恋人同士なのか、と言われたら、否。
俺たちは、付き合ってはいない。
セックスをする=恋人
なら、恋人になるかもしれないが…。
お互い好きなやつ=恋人
なら、絶対に恋人には、なれない。
だって、ニーヤは俺のこと、好きじゃないから。
ニーヤには、好きなやつが
いるから。