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海放戦線  作者: あるかぱ
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1話 文字通り絶海

 一面紺碧(こんぺき)に染まる。空との境界が(にじ)み、月光が世界を照らし出す。月は底にその写し身を落とし、揺らぐ。打っては引き、引いては打つ雑音が静寂に響き渡り、その絶景は全てを虜にする。



 というのが『海』らしい。何時(いつ)のものかも分からない文献を読み漁っていると、ふと暗号めいたこのようなモノを発見することがある。

 昔は『詩』だとか呼ばれるものだったそうだ。

 海など見られない今では、本当にただの暗号だ。

 境界が滲む? 写し身を落とす? 打っては引き引いては打つ?

 謎かけか? とでも言いたくなる。

 こういったものでも解説がある場合もしばしば。今回はないらしい。

「はあ……。今度も外れかあ……」

 電気スタンドが照らす机と、向かう椅子。その椅子にしなだれかかる少年、饗庭晶斗あえばあきとは今日も変わらず口にする。

「仕方ないんじゃないの? 海なんて今じゃ御伽噺フェアリーテイルじゃない。正確な情報なんて残ってるわけないじゃない」

「そう言ったってさあ……」

 同じくその場に居合わせる少女は一般論を口にした。

 そう。今日この頃では、『海』はない。

 もっとも、正確に言えば、存在はしている。しかし隔絶されているのだ。


 ことの始まりは、凡そ700年程前のことらしい。

 世界的な連合組織が、持続可能な開発目標を掲げてから幾年もの時が過ぎた頃、人類はブレ始めた。


 最初は、オゾン層の修復だった。

 異常なまでの科学技術の発展で、人為的に大量のオゾンを成層圏にねじ込んだ。宇宙衛星を媒体として、常に記録を行った。


 暫くの間を空けて、今度はグリーンハウスガス、日本でいえば温室効果ガス、つまりメタン、二酸化炭素、水蒸気等のことだが減らすことをやめた。

 ()()に重きを置いてしまった。

 原始的だが少なくとも確立はできる、だがしかし恐ろしい規模でないと効果は認められないであろう案が提出された。

 二酸化炭素は水に溶ける。また電解質である。

 大量の水に二酸化炭素を溶かし、そこに炭酸イオンと結びつく電解質を大量に注ぎ込む。電気的に化合させ、別の物質に組み替えてしまおうというものだっ……。

「シャンとしなさい。みっともない」

「今までの情報を整理しただけなのに叩くなよ」

「誰でも知ってることでしょ? 色々やったは良いけど海面上昇については誰も取り組まなかった。温暖化現象を解決すればどうにかなるものと思われていたらしいのよ。しかしどうにもならなかった。あらゆる海岸線を守るのは何時の日にかテトラポッドではなくなった。人は諦め、巨大な壁を建ててしまう。不屈の……何だったかしら。学校で習ったでしょ?」

 長い黒髪をストレートにしている少女の名は鵜ノ崎(うのさき)叶恵(かなえ)。二人は対()()科の級友だった。

「『不屈の幻想アンブレイカブルファンタジー』。幻想って呼ばれてる時点で結果としては残念なことが明白だけどな」

「自分達で取り返しのつけようがなくなって、お陰で海魔はゾロゾロくるわそれも止められないし分からないってんだからね。ふざけんなよクソが」


 つまり、高い壁を建てたは良いのだが、出入りが極めて難しくなり、文字通り『絶海』、海は絶たれる。

 『壁越え』をして進撃する正体不明の怪物について分かることは何もない。


 そして且つ、具体的な目処もなく、それらを駆逐殲滅させられているのが対海魔科である。


 名目上大変名誉的な配属先であり、これ以上なく世界に貢献するものとされる。


「素が出てるぞー。腹黒め」

「失礼ね。アンタだって相当じゃない」

 本気なのかどうか分からないこの曖昧な距離感は、彼らにとっては心地好いものなのだろう。


 しかし外敵は空気を読まない。

『あーのー! 海魔がそちらの近くに出たようなのでー! 一番近いあなた達がよろしくおねがいしまーす!』

「「だああっ! 毎回毎ッ回うるっせえ!」」

 連絡隊も当然空気を読まない。テレパスで直接脳に情報を差し込むくせに一々響くように調整しているのだ。

(悪質……! あのガキわざとやってんじゃねえだろうな…)

「私重役出勤でいいかしら?」

「ダメに決まってるだろ」

 働くべきであることなどとうに理解している。その上で、だ。

「ヤな予感がするのよね。ちょっとアンタ先に行きなさい」

「仕方ないな」

『駅前のー! 旧給水スポットあたりですー!』

 圧倒的爆音。鼓膜が振動しているわけではないけれど、脳が直接揺さぶられる未だに慣れない刺激。

「少しは落ち着いて連絡してくれたらいいんだが」

『そーですかあ!? 気をつけまぁああす!!』

 ……どうやら類は友を呼ぶらしい。

「悪気があるんだかないんだか。分かんないわね」

「いや悪意でなくて何なんだ。幼心とでも言いたいわけか。幼気(いたいけ)ってか。そうかそうかそんな言葉で許されるような社会だったなそう言えば」

 虚ろな瞳で髀肉(ひにく)(たん)

「アンタ一回出ると引っ込むの時間掛かるわよね。めんどくさいったらありゃしないわ。それと、やっぱりいやな予感通りだったわよ?」

「は?……うわキモっ。何アレ」

 そこには海魔。

 一言に海魔といっても様々だ。今回はすこしドロッとしたネバネバ。

「じゃあ、殲滅開始しますよー」

「行こうじゃないの。バディ君」

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