第7話 これに正解したら一万点!
――ピコン、と軽快な電子音が鳴る。
予想外の出来事にジェイドが眉を潜めると、ガーネットも何やら胡乱な目で虚空を見詰めた。
この電子音は大抵の場合、プレイヤーに対して特に重要な通知を送る際のものであり、何があったのかと二人でメニューイングをしようとした矢先、クエストメニューに変化。
焦点を合わせた時やクエストに変化があった時にだけリアクションを示すクエストメニューの丸形アイコンのインジケーターが一回転。直後、クエストが発生した。
それ自体は特別におかしなことではない。何らかのクエスト進行をトリガーに、別のクエストが発生する。よくあることだ。特筆するようなことではない。だが、だからこそ、わざわざ通知音を鳴らしてクエストを報せた意味が分からず、二人で黙ってそのクエスト情報を見る。
【特殊クエスト:運命の寵児】
推奨レベル:20
推奨人数:3~4人
推奨属性・ジョブ:なし
報酬:特殊ジョブ《開拓者》の解放・開拓者専用武器 《黎明》
クリア条件:運命からの挑戦を乗り越えること
失敗条件:いずれか一つのジョブのレベルが10に到達すること
発生条件:メインクエスト各章のボスを最も早く討伐したチームに発生
注意:特殊クエストは受注の絶対数が限られるクエストです。ゲーム体験の都合上、存在及び発生条件の秘匿を推奨していますが、これは必須ではありません。
「おい、ジェイド」
「多分同じクエストが発生してるよ、《運命の寵児》だ」
「これ『ちょうじ』って読むのか」
「『うんめい』は読めたんだな。偉い偉い、飴ちゃんあげようか?」
「『さだめ』かもしれないだろ。お前に鞭をやろうか」
――さて、平静を取り戻すために他愛のない雑談を繰り返したが、高揚は収まらない。
ゲーマーとは『特別』に弱い生き物だ。『絶対数が限られる』という文言を見た瞬間、脳から何か怪しい物質が分泌されているのではと錯覚するほどの快感に襲われる。
特殊クエスト――まるで予想もしていなかった出会いに、ジェイドもガーネットも喜びつつ、しかしそれを受け入れて呑気に歓喜できるほど能天気ではない。色々と気になる点が多い。
一つ目、推奨レベルが現時点の二人を大幅に上回ること。
殆ど雑魚との戦闘をせず走ってきた二人は、ボス戦を経てレベルが5だ。これを大きく15も上回るクエストが急に発生したということは、今、挑戦するものではないのかもしれない。そう思いはしたものの、しかしそれを否定する文字も掲載されている。
二つ目、レベルが10に到達すると自動的に失敗扱いとなること。
これは推奨レベルとの兼ね合いを見るに――
「――推奨レベルってのは名前だけだな。要はそのレベル相当の敵が出るって話で、そいつは強引なレベリングじゃなくてプレイヤースキルで倒してくださいねってお達しだ」
ジェイドが目を細くして分析を語ると、ガーネットは鼻を鳴らして傲慢な笑みを見せる。
「なるほどね。まあ、発生条件――『ワールド最速のボス討伐』ってのを考えるに、『それができる人間はゲームが上手い。だからそういう試練を課してやる』って感じか?」
「だろうな。で、察するにこれは一章以降のメインクエストでも発生するんだろう。だから、ボス討伐時点のプレイヤーレベルを参照して、推奨レベルと失敗条件が設定されると見た」
「他プレイヤーには話さないことを推奨だってよ。どうする?」
ガーネットが判断を委ねるように瞳を覗いてくるので、ジェイドは軽く肩を竦めた。
「他人に伝えるメリットが無い。お前を止める気はないが、俺は口外しないよ」
ガーネットも意見は相違ないらしく、目を瞑って同意を示す。
「金を稼ぎに来てるんだ。限られたリソースの食い合いをするんだから、わざわざ他人に塩を送る理由もない。同意だ。俺も黙っているべきだと思う」
見解が異なれば或いは一触即発もあり得る程度の関係ではあるが、それはそれで面白いと思い合える程度の関係だ。寧ろ、後にも先にもエイリアン・ブラザーズでのあの一線を越える死闘を経験したことは無い。少し惜しい気持ちもあるくらいだ。
「ただ――」
ひっそりと曖昧な笑みで惜しんでいると、ガーネットが唇をへの字に曲げて唸る。
「――少し気になるのは、『クエスト受注の絶対数がある』って点だな」
その意味を尋ねるようにジェイドが無言で視線を送ると、ガーネットは碧眼の流し目を返す。
「特に何か問題がある訳じゃねえけどよ、ゲームデザインとしてこれが許されるのかは気になる。当然、先行者利益はあって然るべきだと思うが、この仕様じゃ後発のプレイヤーは間違いなく《開拓者》のジョブに触れる機会が無い。参入モチベーションに関わりそうだが」
『アナザーワールド』がNFTである以上、継続的な新規参入こそがこの金脈を金脈たらしめる必要最低限の要素だ。それを危惧しているらしい彼の指摘を「ふむ」とジェイドは受け止め、自分なりに幾つか仮説を立ててみる。前提として――基本的なゲームの完成度は高い。それも、面白さをシナリオではなくゲーム体験で成立させている点も見事だ。シナリオは実況動画で見たら満足する層が多いが、ゲームプレイへの欲は、触れないと満たされない。だからこそ、その『欲』足り得る隠しジョブなどという要素を、限定配布にしてもいいものか。
「……取り敢えず、一度報告に戻って考えるか。挑戦のタイミングもその時に」
いつまでも落ち着かない場所で立って考えても仕方がない。ジェイドがふうと肩の力を抜いて伝えると「だな」とガーネットも同意を示し、二人でマップを開いてワープを――
【現在特殊クエストの進行中です。ワープできません】
「構えた方が良さそうだな」
ジェイドがやれやれと頬を綻ばせながら頭を振って思考を振り落とすと、
「らしいな。さて、失敗条件に『敗北』は書いていなかったが……」
ガーネットは虚空から鞘と剣を取り出し、しゅりん、と気持ちいい音で抜き放つ。記憶を辿るように虚空を眺めながら呟く彼の言葉に、ジェイドは手斧を片手に、挑発の笑みで返す。
「なんだ、戦う前から負けを前提に考えてるのか? 意外と気弱なんだな」
「ちげーよ、話は最後まで聞け馬鹿――負けが失敗でなくても、負ける気は……」
瞬間、森の奥に暗がりに何者かが着地するような茂みの音。そして、それらは着地した直後、凄まじい速度でこちらに近付いてくる。輪郭は判然としない。姿は真っ黒だ。
「――無い」
実力に裏打ちされたガーネットの不遜を皮切りに、影が森から白日の下に飛び出す。
【運命からの挑戦状を受け取り、影を倒せ】
クエスト目標が変化すると同時に現れたその二体の影は、一瞬にして二人へと肉薄。
そして、目にも止まらない速さで接近したかと思うと、ジェイドの首に手斧を。ガーネットの心臓に直剣を。そして、二人はそれぞれ全く同じ得物を持って一撃を防いだ。
鋭く爆ぜる火花が木漏れ日を犯すように飛び散った。真昼の太陽の下、その容姿が判然とする――否、判然としないことが明らかになった。その二体の影は、影だった。
明らかに人型だと分かる輪郭は色も細かい造形も塗り潰すような闇の靄に覆われ、ただ、明らかに分かることは片方が片手斧を持った中背の少女、もう片方が長身の直剣使いの男。
そして、今の太刀筋を受け止めて二人は同時に確信し、微かに目を見張った。
「――相手は、俺達か!」
ジェイドの驚愕に頷くように二体の影は同時に動き出す。
動き出すと殆ど同時、その得物には黒いパーティクルが集い始め、瞬間的にそれがスキルであることを察した二人は、ほぼ同時に後出しでスキルを発動。《野蛮な一撃》同士、《不意打ち》同士が衝突し、両者の武器耐久値が削れた残滓が火花として飛び散った。
直後、ジェイドの影が四者の中間地点に身を踊り出す。どれだけ精密な連携を取れる両者であろうとも、全く示し合わせていないこのタイミング。一瞬、どちらかが出るかとお見合い。動きを固めた瞬間、そこで身を屈めたガーネットの影が、ジェイドの影の死角から出現。ジェイドへと肉薄。そして、大きく剣を引くと、黒いパーティクルが集まり、爆ぜた。
《飾り気のない十字》――ただ洗練された、無垢な直剣十字二連撃。
しかし、細長く息を吐いたジェイドは血の気が引くほどの集中力で剣の軌道を見切り、一撃目を手斧の柄で逸らし、二撃目には手斧の石器部分を当ててジャストパリィを起こす。大きく仰け反るガーネットの影。だが、得物を振り抜いたジェイドも流石に隙を見せる。当然、ジェイドの影がそれを見逃す道理も無く、気付けば足下で黒いパーティクルが集まる。スキルCTを完全に無視した二回目の《野蛮な一撃》――だが、それがジェイドの腹を穿つ寸前、差し込まれたガーネットの直剣がジャストパリィを取る。そして、この中で最も早く硬直が終わったジェイドが自身の足下に居る影の顔面へと《兜割り》を落とし、クリーンヒット。
黒いポリゴンのダメージエフェクトを散らしながらその身体がノックバックと呼ぶには大袈裟に吹っ飛ぶと同時――ジェイドの影が、その手斧をガーネットへと投擲した。
当然、ガーネットはそれを即座に弾き返す。甲高い音を立てて虚空を泳ぐ手斧。
だが、その一瞬の隙を突いたガーネットの影がジャストパリィによって生まれた硬直を終え、ジェイドの死角を縫うようにしてガーネットに肉薄し、その脇腹に一撃を入れた。
「づっ――!」
反射的にジェイドがガーネットの影の身体を蹴飛ばすと、彼はその方向に自ら吹っ飛んで衝撃を殺し、危なげなくジェイドの影の隣に立つ。そして、ジェイド達も横に並んだ。
「すまん、ガーネット。カバーが遅れた」
「いや、俺もAIがあのレベルの陽動を入れるとは思わなかった」
専用スキルを習得していないプレイヤーが得物を投擲するという発想が無く、一瞬、その行動の意味を勘繰ってしまった。だが、本命はジェイドを上回る機敏さを持つガーネットの影による奇襲。完全にタイミングを合わせた精密で緻密な連携だ。
ガーネットは赤いパーティクルを漂わせる傷口に触れながら自分のHPを直視。
スキルでも何でもないただの直剣一撃が四割近いHPを持っていっている。対して、ジェイドのスキルをクリティカルで叩き込んだはずのジェイドの影は、殆ど減っていない。せいぜい、五パーセント程度だろうか。幸いにもこちらには初期配布の回復アイテムがあるが、使用にはクールタイムが設定されている。乱発はできないし、きっと回復狩り――回復アイテムを使用するという分かりやすい隙を突いた攻撃もしてくるだろう。
案の定、ジェイドの影は虚空から黒い全く同じの手斧を取り出して投擲の構えを見せている。「何でもありかよ」と頬を引き攣らせるガーネット。ジェイドも流石に笑うしかない。
「回復使ったら投げてくるぜ、あれ。俺こういうゲームのAIに詳しいんだ」
ガーネットが興奮を隠せない獰猛な笑みでそう呟くので、ジェイドもそれに感化される。
「奇遇だな、同意見だ。スキルじゃなければ一撃は耐える、タイミングはよく考えろ」
「今使ってもいいか? 俺を守ってくれよ」
「仕方の無いパートナーだ、飲んでみろよ」
ジェイドが集中を尖らせる中、対峙する影たちはこちらの動向を探っている。
猛攻を仕掛けられると厄介だったが――流石に、理解しているらしい。迂闊に踏み込めばやられる手合いだということを。その辺りの警戒心まで学習できるものなのだろうか。
インベントリから初期配布のポーションを取り出したガーネットは、それを一気に飲み干すと空き瓶をそこら辺に放り投げ、親指で唇の端を拭い――その様にジェイドの影は投擲の構えを見せたが、静かに睨むジェイドを見て気勢を削がれ、忌々しそうに手斧を下ろす。徐々に回復していくHPバーを尻目に、身構えたままこちらの隙を探り続ける相手を眺める。
「それにしても、相手が俺達。しかもレベルが上とは中々に困らせてくれる。戦闘は俺だが、攻略はお前だ。何か分からないのか? ジェイドちゃん」
さっきから妙な呼び方にふん、と鼻を鳴らしたジェイドは観察と分析の結果を言語化。
「取り敢えず、クエスト発生から敵が出現するまでのタイムラグは――ゴブリンロードとの戦闘データを分析して反映するためのものだろう。その仮説が正しければ、通常のAIがする『学習』とアイツらが模倣するレベルの『学習』は別物であり、仮に『過学習』とでも呼ぶべきそれは、リアルタイムでの反映はできないってことになる。つまり――」
もちろん、これらは推論に過ぎない。だが、ゲームシステムとして明確に勝ち筋を用意するとすれば、設計者はそこに抜け道を作るような印象。『最速』に報酬を与えるような運営だ。強さとは不変ではなく流動であることを理解していると信頼していい。だとすれば、単純。
「――向こうの俺達よりも早く成長しろってことか。いいね、楽しそうだ」
ガーネットが不敵な笑みをこぼしてジェイドの話を継ぎ、そして、事態が動く。
ガーネットの影が焦りに突き動かされたように駆け出し、膠着状態が解除された。殆ど同時に突っ込むのはジェイドの影。二体の得物が爛々と黒いパーティクルを帯びる中、
「ジェイドの影はこっちの連携を試すような動きを見せることがある――さっきはそれで隙を作った。だから回答を明確にしておこう……全部、ガーネットが対処しろ」
「了解」――飄々としたガーネットの呟きを切り裂くような一撃が、ガーネットの影から本人の首に繰り出される。《飾り気のない十字》の一撃目。だが、ガーネットの爛々と輝く目で軌道を完璧に見抜くと、一撃目からジャストパリィを合わせ、その体躯を大きく仰け反らせる。当然、二撃目は中断。だがそれをフォローするようにジェイドの影が再び両名の間に踏み込み、どちらが処理するかの選択肢を提示し、硬直を狙う。だが、今度は僅かも足を止めず、そのままガーネットが直剣で首へと斬りかかり、面食らったように影は手斧でそれを防ぐ。
瞬間、その顔面にジェイド本人の《野蛮な一撃》が炸裂。再び顔面を抉って身体を吹き飛ばすのと殆ど同時、スキル発動後の硬直最中でも動く足を無理やり前に踏み込ませる。そして肉体をどうにか《兜割り》の姿勢に持っていくと、硬直を踏み倒してスキルが励起。赤いパーティクルの中に極彩色のスパークが生じ、それが何かを確かめる間もなく、そのまま、仰け反りから回復しようとしていたガーネットの影の顔面に、《兜割り》を叩き込む。
《スキルチェイン》――後にチュートリアルで言及される、現時点でも戦闘ヘルプに記載のある戦闘技術だ。スキルの後隙に完璧なタイミングで次のスキルの初動を乗せることで、硬直の一部を踏み倒すというもの。当然、ジェイドは把握していなかったが――使った瞬間にその技術の存在を確信。そして、ヘルプ用のアイコンが点滅するので焦点を合わせると、空気を読んだようにオーバーレイでそのシステムを解説してくれた。
吹っ飛んでいく二名を驚いた顔で眺めるガーネットへ共有。
「なんだ今の⁉ スキルの連続発動⁉」
「《スキルチェイン》らしい! コツはスキル終了後の動きを二個目に近付ける!」
吹っ飛んだ二名は宙で身を翻して着地すると、靴が地に着いた瞬間に駆ける。
戦闘中故に手短な共有しかできなかったが、彼ならこれで充分だろう。案の定、ガーネットは聞き返すことなく全てを理解したようで、「了解」と獰猛に笑う。
ジェイドはガーネットの影による《不意打ち》を防ぎ、ガーネットは《兜割り》を弾く。
そして、一瞬でも集中を切らせば遠慮なく首が刎ねられる緊張感の中、剣戟の二重奏を響かせる。最初は切り結べば徐々に綻びが生まれ、それを突かれる形でガーネットはダメージを受けた。しかし、個々人の能力で劣ることは無い以上、向こうの有効打は連携の綻びを叩くことだけ。そして、その隙を少々荒いものの回答一つの共有で埋めた今、戦況は互角以上に。
そうなれば必然的に、《自分達》というボスの行動パターンをあっという間に理解し始めた二人のゲーマーの方が優勢だ。当然、基礎的なステータスの差は歴然。筋力や体力、即ちダメージ量には極めて大きな差があるし、敏捷性を理由とした速度も劣っている。だが、浅い傷は初級アイテムで回復しきることができ、何より、
「案外――プレイヤースキルの模倣っていうのは難しいみたいだな」
ポツリと、肩透かしを食らったように戦闘狂が呟き、ジェイドも無言で頷く。
反応速度や反応の癖は分析できるだろう。だが、例えばさっき、ジェイドの影は連携を試すように二人と同一距離の間合いに踏み込むという動きを見せた。しかし、自分の影に言うのも情けない話だが、それはウケた一発ギャグを二回するようなもので。意表を突くからこそ意味のある動きを二回も繰り返すのは――特にそれが成立する確証も無いのに擦るというのはあまりにもジェイド本人の思考からかけ離れた愚行だ。同時に、ガーネットの影も反応速度や動きの癖は本人に近いが『判断』の速度が本人より著しく劣る。例えば先ほどの膠着状態、打破したのはガーネットの影だが、それは容赦なく初撃にジャストパリィを合わせられた。もしも本人なら、見ているだけで腹の立つようなフェイントを入れるだろう。
「学習データが俺達の上っ面だけだったんだろう。一章ボスで作り出されたのが残念だ」
「だな」とガーネットは呟きながら意趣返しのように二体の影の中間地点に踏み込む。
そして――自分達から仕掛けたやり口だというのに、流石に二人をコピーしただけはある二体の影は一瞬、動きを止めた。瞬間、その背からぬるりとジェイドが現れ、左右に踏み込む。そして動きを止めてしまった二人の影に、勢いを乗せた二人のスキルが先行発動。
《野蛮な一撃》と《不意打ち》が炸裂し、HPを更に激しく削って体躯をノックバック。
しかし、少し距離を置いた場面で体勢を直した二人は再び武器を構え、
「教えてやるよ――」
その二人の中間地点に、再び、ジェイドが足を踏み入れる。そして再びの硬直。だが、学習した影達は停止するよりはマシだとばかりに同時にジェイドへと斬りかかるが、それは最悪ではないものの二番目には悪い悪手だ。何故なら、単一動作で対処され、その後に対応する方が居なくなってしまうから。読み切っていたジェイドはひょいと跳んで身体を逆さまに。そして、不甲斐ない自分の影の頭を掴むと、逆さまから顎に向けて片手で斧を振りかぶる。
逆さまの頭。前髪が下りてよく見える顔で、ジェイドは嫌な笑顔で吐き捨てる。
「――戦略を擦る時は、二回目でも意表を突け」
《兜割り》――もとい、仮称・顎割り。それをジェイドの影に叩き込む。
凄絶なダメージエフェクトと黒いパーティクルを炸裂させながらその矮躯は吹っ飛んでいき、着地するジェイドの頭へと反撃のスキルを発動しようとするガーネットの影だが、当然、最初からこの状況を見越して構えていた本人の方が早い。
「俺の姿をするなら、無様なことはしないでくれよ」
《不意打ち》。今まで一度も背中から繰り出していない高速の刺突が防御に構えられた剣ごと身体を吹っ飛ばし、斬撃は直撃していないものの、衝撃自体が僅かながらダメージを生む。
吹っ飛んだ二人のHP残量は二割前後。状況は完全にこちらが優勢。
「よーし、随分な肩透かしを食らったが、このままさっさと片付けちまおう」
残りは消化試合か――そう思った矢先だった。何かのトリガーを踏んだらしい。
追撃をしようとしたジェイドとガーネットは思わず足を止め、そのモーションを観察。
二体の影は虚空に手を伸ばした。すると、虚空がうねり、渦巻き、太陽の下に闇を生む。そしてその闇が歪みによって絞られると、血液が滴るように闇を零す。
「何だ……?」
怪訝なガーネットの呟き。
或いはモーションの出だしで動いていれば止めることはできたかもしれないが、確実に優勢な場面で初見のモーションを出だしで止めようというのは無謀な話だ。
滴る闇を両手の皿で受け止めた二体は、それを一気に呷って飲み干した。
瞬間、黒いパーティクルがあちこちの影から集まって渦巻き、奔流を生む。それは徐々に力強い風となって突風を生み出し、周辺の木々から葉を引きちぎりながら雑草を平伏され、枯れ枝を撒き散らして――数秒後、徐々に、徐々に風は勢いを衰えさせていく。
残ったのは黒い光を漂わせる二体の影。そして、そのHPバーの下に見慣れぬ青いアイコンが七つ並んでいた。冷や汗と共に、バフを示すそのアイコンに焦点を合わせると、
【運命からの挑戦状・A――バフ】
《運命からの祝福・一》――STR+100%
《運命からの祝福・二》――AGI+100%
《運命からの祝福・三》――INT+100%
《運命からの祝福・四》――RES+100%
《運命からの祝福・五》――スキル発動速度+200%
《運命からの祝福・六》――スキル後硬直-70%
《運命からの祝福・七》――スキルクールタイム-100%
「クイズ番組の最終問題かよ⁉」「これ考えた奴ァ馬鹿だ!」




