表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
スラム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/71

切り捨てる判断

 朝のスラムは、湿っている。


 夜の冷気と排泄物の匂いが混ざり、

 靴底にぬめりがまとわりつく。


(今日も最悪なスタートだ)


 俺とミラは、裏市場へ向かう前に、孤児仲間の集まる廃屋に寄った。

 情報の共有、そのはずだった。


 だが、空気が違う。


 視線が、合わない。

 声が、少ない。


(……一人、足りないな)


 名前を呼ぶ前に、気づいた。


 床に落ちた、革紐。

 裏市場の袋を縛るためのもの。


(昨日、俺が渡したやつだ)


 胸の奥が、ひくりと動く。


(最悪の可能性、当たりか)


 ミラも気づいたらしい。

 だが、何も言わない。


 外から、足音。


 重い。

 複数。


(来た)


 扉が、乱暴に開いた。


「よお」


 盗賊だ。

 昨日と同じ皮鎧。


 後ろに、二人。


「情報、助かったぜ」


 視線の先

 路地の影に、孤児の一人が立っていた。


 目を逸らしている。


(……ああ)


 喉が、渇く。


「で、約束通りだ」


 盗賊が、孤児の肩を叩く。


「こいつは、見逃す」


(代償、そっちか)


 ミラが、俺を見る。

 判断を、委ねている。


(助ける?無理だ)


 頭が、異様に冷える。


(ここで騒げば、全滅。

 見逃される保証もない)


 盗賊が、俺に視線を向ける。


「どうする?」


 選択肢は、三つ。


 殴りかかる。

 命乞いをする。

 切る。


(正解は、一つ)


 俺は、一歩前に出た。


「そいつは、もう仲間じゃない」


 言葉が、乾いている。


 孤児が、顔を上げる。


「な、なに言って」


「ルールを破った」


(ルールなんて、今作った)


 盗賊が、口角を上げる。


「ほう」


「情報を売るなら、売る前に言え。

 黙って売るのは、信用違反だ」


(理屈は、合ってる)


 孤児が、泣きそうな顔になる。


「生きたかっただけだ!」


(……それ、全員同じだ)


 ミラが、口を開く。


「あなたの命で、何人守れる?」


 冷たい声。


 孤児は、言葉を失った。


 沈黙。


 盗賊が、満足そうに頷く。


「いい判断だ」


(褒められたくない)


「じゃあ、こいつは?」


「好きにしろ」


 俺は、目を逸らした。


 音がした。


 短い、鈍い音。


(聞くな)


 風が、抜ける。


 盗賊たちは、去っていった。


 廃屋に残ったのは、

 血の匂いと、沈黙。


 誰も、俺を見ない。


(当然だ)


 ミラが、低く言う。


「正しかった」


「……ああ」


(正しい。だから、きつい)


 外に出る。


 朝日が、眩しい。


(前世では、こういう決断を他人に押し付けられた)


 今回は、自分でやった。


(重さが、違う)


 拳を、握る。


(戻れないな)


 俺は、知ってしまった。


 切り捨てる判断は、

 生きるために必要だ。


 そして


 それを選んだ夜は、

 一生、残る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ