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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
スラム編

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7/71

盗賊に目をつけられる

 最初に気づいたのは、足音だった。


 路地裏では珍しくない。

 だが、その音は揃っている。

 不規則に聞こえるのに、距離が縮まる感覚だけが、妙に正確だった。


(……追われてる)


 俺とミラは、裏市場からの帰り道を急いでいた。

 空気が、重い。

 風が止み、腐臭が濃くなる。


 ミラが、俺の袖を引いた。


「走らない」


「わかった」


(走る=獲物、だよな)


 足音は、三つ。

 いや、四つか。


(逃げ切れない。路地も狭い)


 曲がり角の影に入った瞬間、声が落ちてきた。


「止まれ」


 低い。

 遊びのない声。


 前に二人、後ろに一人。

 退路はない。


(包囲、完成)


 近づいてきた男は、皮鎧を着ていた。

 刃こぼれした短剣が、腰で揺れる。


「最近、裏で動いてるガキがいるって聞いてな」


 視線が、俺に刺さる。


(来たか)


「誰の許可で稼いでる?」


 ミラが一歩、前に出た。


「稼いでない。拾ってるだけ」


 男は、鼻で笑った。


「同じだ」


(ですよね)


 男の指が、俺の布包みを示す。


「見せろ」


 拒否は、死。

 俺は包みを差し出す。


 男は中を見て、満足そうに頷いた。


「悪くない」


(評価されても嬉しくねぇ)


「ルールを教えてやる」


 男がしゃがみ、目線を合わせてくる。

 酒と汗の匂いが、鼻を刺す。


「裏で稼ぐなら、上に納めろ」


「……どれくらい?」


 口が勝手に動いた。


(聞くなって)


 男は、にやりと笑った。


「全部だ」


(あ、無理)


 沈黙。

 ミラの肩が、僅かに動く。


「断るなら?」


「腕、一本」


(選択肢、ひどい)


 俺は、息を吸う。


(今は、逆らう場面じゃないな)


「……今日は、何もない」


「嘘つくな」


 男が、俺の頬を掴む。

 力が強い。視界が歪む。


(くそ、痛ぇ)


 そのとき、ミラが言った。


「この子は、使える」


 空気が、止まった。


「拾う。分ける。継続する。

 殺したら、得る物は何もない」


(ミラ、売り込み始めたぞ)


 男は、ミラを見る。


「お前は?」


「修理ができる」


 ミラは、自分の袖を引き、縫い目を見せた。


 沈黙。

 男は、舌打ちした。


「……ガキにしては、度胸あるな」


(俺もそう思った)


「次は納めろ。分かるな」


「割合は?」


 俺が聞くと、男は笑った。


「三割」


(……現実的だな)


 男たちは、去っていく。

 足音が消えるまで、俺は動けなかった。


 路地裏に、静寂が戻る。


 ミラが、ぽつりと言った。


「次は、やられる」


「だろうな」


(フラグ立てるな)


 俺は、拳を握る。


(奪われる前提の稼ぎ……)


 裏市場は、確かに入口だった。

 だが、その先に待っていたのは


 牙だった。


 スラムで生きるということは、

 奪うか、奪われるか。


 俺は、ようやく本当の意味で理解した。


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