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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
無所属編

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54/71

噂が、本人を追い始める

 最初に変わったのは、空気だった。


 路地に入った瞬間、音が一拍、遅れる。

 会話が、途中で切れる。

 視線だけが、わずかに残る。


(……なんだ)


 足は止めない。

 止める理由が、ない。


 王都裏の朝は、いつも通り汚い。

 濡れた布。

 焼け残った油。

 パン屑を漁る鳥。


(平常だ)


 そう判断する。

 だが、感覚が否定してくる。


 露店の女が、声を落とす。


「……来た」


 隣の男が、肘で突く。


(俺のことか?)


 いや、違う。

 ここは通り道だ。

 人は多い。


(気のせいだな)


 そう処理する。


 依頼の受け渡し場でも、同じだった。

 帳簿係が、目を合わせない。

 書類を置く指が、早い。


(対応が、事務的になった)


 悪くない。

 感情が混じらない方が、楽だ。


 だが。


 隣の席の会話が、耳に入る。


「加工区画の件、知ってるか」


「箱を奪って、住んでた連中を……」


「名前、知らないけど」


 声が、低くなる。


「切る奴だろ」


(……誰の話だ)


 足を止めそうになって、やめる。


(違う。噂だ)


 裏では、いつも誰かが誰かを切っている。


(俺じゃない)


 次の依頼へ向かう途中、

 子供が走ってきて、急に止まる。


 目が合う。


 数秒。


 そして、後ずさる。


(……?)


 追いかける理由はない。

 だが、胸の奥が、わずかに引っかかる。


 酒場の裏口。

 いつもなら、無言で開く。


 今日は、違った。


「今日は、満席だ」


(嘘だな)


 中の音は、静かすぎる。


(避けられてる?)


 仮説が浮かぶ。

 即、棄却。


(非効率だ)


 情報屋に会う。

 顔見知り。


 だが、視線が落ちる。


「……仕事、増えてる?」


(関係ない質問だ)


「普通だ」


 短く返す。


 沈黙。


 情報屋は、言い淀む。


「最近さ……名前が、出てる」


(名前?)


「正確には、呼び名だ」


 紙を差し出される。

 走り書き。


 《切るやつ》


(……雑だな)


 笑いそうになって、やめる。


(噂に名前がつく段階か)


 情報屋は続ける。


「判断が早すぎる。

 助けない。

 迷わない。

 あと」


 言葉が、止まる。


「……戻ってこない場所がある」


(加工区画、か)


 頭の中で、即座に繋がる。


(合理的に動いた結果だ)


 だから、問題ない。


「気にするな」


 自分でも驚くほど、即答だった。


 情報屋は、目を伏せる。


「……そう言うと思った」


 路地に戻る。


 背後で、足音が消える。


(追われてる?)


 いや。

 違う。


(避けられてる)


 それは、危険ではない。

 距離が取られるだけだ。


(効率は、上がる)


 孤立は、単独行動の延長線だ。


 そう整理して、歩く。


 だが。


 壁に貼られた、古い張り紙。

 落書き。


 線だけで描かれた人影。

 胸に、×印。


(……趣味悪いな)


 剥がして捨てる。

 手に残る、紙の感触。


(噂は、もう俺の前を走ってる)


 本人が追いつく頃には、

 形は、もう固まっている。


(……それでも、止まらない)


 噂が追ってくるなら、

 追いつかれる前に、先へ行く。


 そういう生き方を、

 もう選んでしまった。


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