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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
無所属編

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52/71

最適解が、最悪になる

 最初の判断は、疑いようもなく正しかった。


(危険度、低)


 依頼書を広げた瞬間、頭の中で数値が並ぶ。

 対象は「物」。

 人間は関係しない。

 回収のみ。破損不可。

 殺傷条件なし。


(単独向き。所要時間短。摩耗小)


 灰帳連が、今の自分に回してくる理由が透けて見える。

 完全単独状態での安定性確認。


(テストだな)


 だからこそ、感情を挟まない。

 判断は最短距離で下す。


 場所は王都外縁の加工区画。

 昼間は鉄と木がぶつかり合う音で満ち、

 夜になると、急に死んだように静かになる区域。


 空気が、冷たい。

 油と煤の匂い。

 古い金属の粉が、舌に残る。


(人の気配……薄い)


 それが、最初の違和感だった。


 倉庫の前で足を止める。

 扉は古い。

 鍵はあるが、警戒の跡は薄い。


(見張りなし。巡回なし)


 だから、最適解。


 破壊せず、開錠。

 音は、ほぼゼロ。

 時間、三十秒未満。


(問題なし)


 中に入った瞬間、鼻を刺す匂い。


 金属油。

 防腐薬。

 それに混じる甘ったるい臭い。


(……保存薬?)


 だが、量が多い。

 濃すぎる。


(気のせい、か)


 対象の箱は、すぐ見つかった。

 帳簿どおりの数。

 印も一致。


(回収して終わり)


 そう思った、その直後。


 外で、足音。


(来たか)


 警備ではない。

 揃っていない。

 重心がばらばら。


(……地元)


 加工区画に残った、

 行き場を失った職人崩れ。


(関係ない)


 依頼優先。

 接触回避。


 箱を担ぐ。

 出口へ。


 扉を出た瞬間、声が飛ぶ。


「待て」


 男。

 年齢、四十前後。

 武器、短刀。

 使い慣れてはいないか。


 背後に、三人。


(囲まれる前に抜ける)


「それ、俺たちのだ」


(違う)


 反射で口が動く。


「依頼品だ」


 言ってから、理解する。


(……ああ、余計だ)


 相手の目が、硬くなる。


「やっぱり、そうか」


 空気が変わる。

 感情が、混じる。


(交渉、失敗)


 時間が減る。

 包囲率が上がる。


(突破)


 判断は、即。


 一人目。

 刃が入る。

 叫び声。


(二人目、怯み)


 その瞬間


 甲高い悲鳴。


(……子供)


 奥から、人影が溢れる。

 老人。

 女。

 そして、小さい影。


(住んでた……)


 加工区画の裏。

 捨てられた場所に、

 住処を作っていた連中。


(情報不足)


 だが、止まれない。


(今引いたら、囲まれる)


 箱を守る。

 それだけに集中する。


(最適解、最適解、最適解)


 逃げる。

 瓦礫を蹴り、路地に入る。


 背後で、誰かが転ぶ音。

 叫び。

 泣き声。


(……関係ない)


 そう言い聞かせて、足を止めない。


 成功。


 箱は無事。

 損耗、軽度。

 時間、許容内。


(完璧だ)


 翌朝。


 裏の噂が、耳に刺さる。


「加工区画で死人が出た」


「住んでた家族が、巻き込まれた」


「子供が一人……」


(……奪った、か)


 胸の奥が、静かに沈む。


(俺は、回収しただけだ)


 理屈は通る。

 判断も正しい。

 依頼も完遂。


 灰帳連の返答は、短い。


「処理、適正」


 それ以上でも、それ以下でもない。


(だろうな)


 頭では納得できる。

 だから、余計に逃げ場がない。


 あの甘ったるい匂い。

 あれは、保存薬じゃない。


(人が、暮らしてた匂いだ)


 最適解は、

 常に、誰かの最悪になる。


 そして。


(……それでも、俺は最適解を選ぶ)


 選び続ける限り、

 もう、戻れない。


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