条件の代償
朝になっても、連絡は来なかった。
(……まあ、そうだよな)
裏宿の天井は低く、湿った木の匂いがする。
寝返りを打つたび、肩の古傷がじくりと痛んだ。
(条件は守った。
責任範囲も越えてない)
それでも、胸の奥に残るのは、
妙な不安だ。
外に出ると、朝の王都裏は静かだった。
静かすぎる。
(静かな時ほど、何か起きてる)
市場の端で、噂が流れている。
「昨日の路地、血の海だったらしい」
「回収役が、全滅だとさ」
(……ああ)
耳が、勝手に拾う。
(俺が投げた包み。
あれを奪い合った結果だ)
喉が、少し乾く。
(条件内。でも、結果は最悪)
灰帳連からの合図は、ない。
抗議も、評価も、説明も。
(守ったからこそ、
何も言われない)
それが、代償だ。
ミラと合流する。
顔を見た瞬間、言われた。
「……何も来てないの?」
首を振る。
「来てない」
それだけで、察した顔になる。
(説明、しないんだよな。
もう)
「正しかったの?」
問いは、責めじゃない。
確認だ。
「条件通りなら」
「条件じゃなくて」
ミラが、視線を逸らす。
「あなた自身は?」
答えに詰まる。
(……きつい質問だな)
「生きてる」
逃げた答え。
ミラは、何も言わなかった。
それが、一番効く。
昼過ぎ、裏路地で男に声をかけられる。
「昨日の件、関わってたか?」
知らない顔。
(もう噂が回ってる)
「関係ない」
それも、条件内の答え。
男は、じっと俺を見る。
「助けは、来なかったんだな」
断定だった。
(……見てたな、こいつ)
返事をしない。
「条件を守ると、
誰も手を出せなくなる」
男は、皮肉っぽく笑った。
「便利だけど、孤独だ」
(うるさい)
だが、否定できない。
夜。
屋根の上で、王都の灯りを眺める。
風が冷たい。
(守った結果、誰も助けに来ない)
灰帳連は、正しい。
条件通りに動いた俺も、間違ってはいない。
それでも。
(これが、代償か)
ミラが、隣に腰を下ろす。
「……一人で背負うつもり?」
小さな声。
「条件だからな」
冗談めかして言うと、
彼女は笑わなかった。
「条件、変えなよ」
その一言が、胸に刺さる。
(変えられるのか?俺に)
王都の灯りが、遠くで揺れる。
答えは、まだ出ない。
だが、分かっている。
条件を守るだけじゃ、
守れないものがある。
それを知った夜だった。




