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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
無所属編

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条件を出す

 呼ばれたわけじゃない。


 それでも、来いと言われている気がした。

 王都裏の空気には、そういう圧がある。


 朝方の路地は、まだ湿っている。

 石畳に残る水が、靴裏に張りついた。

 鼻を突くのは、鉄と油と、昨日の失敗の匂い。


(……まあ、生きてるだけ上等か)


 灰帳連の連絡場所は、変わっていない。

 だが、目印はない。

 看板も、合図も、合言葉も。


(覚えてる時点で、まだ試験は続いてる?)


 古い倉庫の裏。

 壁際に立つと、影が一つ、音もなく滲み出た。


「来たな」


 声は低く、感情がない。


(呼んでないくせに)


「生きてる」


 俺は、同じ言葉を返した。


 わずかな沈黙。

 評価は、もう済んでいる。


「次がある」


 それだけ告げられた。


(だろうな。

 生き残った“記録外”は、便利だ)


 包みが、地面に置かれる。

 前より少し厚い。

 中身は、見なくても分かる。


(仕事だ)


 俺は、手を伸ばさなかった。


 一瞬、空気が変わる。

 冷えるというより、張る。


(あ、これ怒らせたか)


「どうした」


 問いは短い。

 警告でもある。


 喉が、少し乾いた。

 唾を飲み込む音が、やけに大きい。


(ここで黙ったら、また“使われる側”だ)


「条件がある」


 自分でも、声が落ち着いているのが分かった。


 影の動きが、止まる。


(あー……言っちゃった)


「聞こう」


 即否定されなかった。

 それが、すでに異常だ。


(通る余地があるってことだ)


「責任範囲を、事前に決めたい」


 空気が、さらに重くなる。


「俺が触るのは、どこまでか」


「失敗した場合、切られるのは誰か」


「撤退判断は、俺に委ねる」


 言葉を、区切って並べる。

 感情を挟まない。


(ビビってるのを悟られたら終わりだ)


「……報酬は?」


 探るような声。


「後回しでいい」


 正直だ。

 金は欲しいが、命より安い。


(安い命だからこそ、条件を付ける)


 影の向こうで、誰かが息を吐いた気配がした。


「ずいぶん、図々しい」


「自覚はある」


 即答。


(図々しくないと、ここじゃ生き残れない)


 沈黙。

 数を数えたくなるが、やめた。


 倉庫の隙間風が、首元を撫でる。

 寒い。


「理由は?」


 短い問い。


「切られる前に、引きたい」


 それだけだ。


(格好つける余裕はない)


「灰帳連は、守らない」


「知ってる」


「記録もしない」


「承知してる」


「失敗すれば、死ぬ」


「今までもそうだった」


 言い切ると、喉の奥が少し痛んだ。


(……それでも、言わなきゃ進めない)


 長い沈黙。


 その間、俺は一度も包みに触れなかった。


(これが“条件を出す”ってことだ)


 やがて、影が一歩、近づく。


「いいだろう」


 短い了承。


 思わず、息が抜けそうになるのを堪える。


(通った……?)


「ただし」


 続きが来る。

 来ないはずがない。


「責任範囲を超えた瞬間、切る」


「撤退判断が遅ければ、切る」


「判断が早すぎても、切る」


(要するに、失敗したら切る)


「理解した」


 頷く。


 影が、包みを足元に滑らせた。


「これが条件付きだ」


 俺は、ようやく包みを拾った。


 重みが、手に馴染む。

 嫌な馴染み方だ。


(主導権を握った気がするが、

 実際は首輪が細くなっただけだな)


 それでも、一歩だ。


 使われる前提から、

 交渉する前提に変わった。


「もう一つ」


 俺は、顔を上げた。


「ミラは、条件外だ」


 影が、初めてわずかに揺れた。


「彼女は、俺の判断で動く」


 言い切る。


(巻き込むなら、せめて俺の責任で)


 短い沈黙のあと。


「……承知した」


 その言葉で、全部が決まった。


 俺は包みを抱え、倉庫を離れる。


 背中に、視線が刺さる。

 だが、振り返らない。


(格は、上がった)


(同時に、

 切られた時の音も、大きくなった)


 路地に戻ると、朝の光が少し強くなっていた。


 俺は、息を吐く。


「さて」


 内心で、笑う。


(条件を出したぞ、俺)


(次に切られる理由も、

 はっきりしたけどな)


 それでも、歩き出す。


 無所属のままで、

 少しだけ前に進むために。


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