試験の終わり
呼び出しは、なかった。
それが答えだと理解するまで、半日かかった。
(……不合格なら、次は来ない。
合格でも、来ない)
灰帳連は、そういう連中だ。
評価を言葉で伝えるほど、親切じゃない。
肩の傷は、まだ痛む。
だが、動ける。
命の値段としては、十分に安い。
(生きてるってことは、
まだ“使える”って判断か)
夜になり、裏道の空気が冷える頃。
いつもの古物屋の前を、何気なく通った。
扉は、閉まっている。
灯りもない。
(……今日は、ここじゃない)
だが、歩みを止めると、足元に紙が落ちているのに気づいた。白い。
文字は、ない。
(合格通知にしては、雑すぎるな)
紙を拾う。
重さは、ほとんどない。
裏返すと、角が一箇所だけ、折られていた。
(方向、か)
折れた角の示す方へ、足を向ける。
誰にも見られていない。
見られても、意味を持たない。
辿り着いたのは、王都の裏にある小さな橋。
水音が、低く響く。
橋の影に、人がいた。
昨日と同じかどうかは分からない。
分からせる気が、ない。
「生きている」
それだけ言われた。
(……確認か)
「失敗したが?」
「生きている」
繰り返し。
評価は、変わらない。
(なるほど。結果より、残り方か)
外套の内側から、包みが一つ、置かれる。
前より、少し重い。
(……増えたな)
だが、喜ぶほどじゃない。
これは報酬じゃない。
次の“試験”だ。
「これで終わりか?」
聞いてみる。
返事は、少し遅れた。
「終わった」
「次は?」
「必要になれば」
(結局、それか)
包みを受け取ると、紙切れが一枚、添えられていた。白紙。
だが、指で触ると、わずかな凹凸がある。
(……痕跡)
俺は、何も言わずに頷いた。
人影は、音もなく消える。
追う意味は、ない。
橋の上で、包みを見下ろす。
中身は、確認しない。
(試験は終わった。
だが、所属はしていない)
それが、灰帳連の評価だ。
使える。
だが、信じない。
記録しない。
守らない。
(悪くないか)
少なくとも、切られるよりは。
俺は、橋を渡りきると、包みを懐に入れた。
水音が、背後で続く。
合格でも、不合格でもない。
それが、
灰帳連のやり方だった。




