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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
スラム編

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孤児仲間と、信用の値段

 路地裏の朝は、静かじゃない。

 誰かの咳。罵声。瓦礫を踏む足音。

 生きている証拠みたいな音が、あちこちから響いてくる。


 俺は、ゴミ山で拾った布包みを抱え、例の露店へ向かっていた。

 昨日より少し重い。

 それだけで、胸の奥に小さな達成感が湧く。


(ブラック企業時代より、成果が分かりやすいな)


 露店に近づくと、視線を感じた。

 孤児が三人。近くにいるが、寄ってこない。


(監視中、っと)


 その中に、一人だけ違う空気の子がいた。


 痩せている。

 動きが静かで、視線だけが鋭い。

 汚れた服の補修が、妙に丁寧だ。


(……あれ、縫い目きれいだな)


 俺が布包みを露店に置く前に、背後から声がした。


「……それ、今日だけなら損してる」


 低く、乾いた声。

 振り向くと、その少女ミラが立っていた。


(いきなり核心突いてくるタイプかよ)


「理由は?」


 短く返す。


「量が増えてる。継続できるなら、値段は上がる」


(正解)


 露店の男が、面白そうに口角を上げた。


「ガキにしちゃ、目が利くな」


 ミラは肩をすくめるだけだ。


「ここ、継続する奴は少ない。死ぬか、逃げるか」


(耳が痛い)


 男は、しばらく俺とミラを見比べ、パンを三切れ置いた。


「今日だけだ」


(勝った)


 パンを受け取ると、周囲の孤児たちの視線が一斉に集まる。

 羨望と、敵意と、計算。


(来るな……)


 案の定だった。


「分けろよ」


「一人で独占か?」


 声が近づく。距離が詰まる。

 数は四人。


(殴られたら終わる)


 そのとき、ミラが一歩前に出た。


「昨日、パン投げてもらったの誰」


 一瞬、空気が止まる。


「……お前だろ」


 指を差された少年が、目を逸らした。


「じゃあ、今日は受け取る資格ない」


(理屈が正しいのが一番怖い)


「関係ねぇ!」


 少年が掴みかかろうとした瞬間。


「露店の前で揉めると、次から投げてもらえない」


 ミラの声は小さいが、はっきりしていた。


 露店の男が、こちらを睨む。


「……やるなら、向こうでやれ」


 孤児たちは舌打ちし、散っていった。


(助かった……いや、貸しだな)


 俺はミラを見る。


「助けた理由は?」


「助けてない。自分の取り分守っただけ」


(正直すぎる)


「俺に借りを作ると?」


「信用は、借りじゃない」


 ミラは、俺の布包みをちらりと見た。


「一緒に動けば、生き残る確率は上がる」


(数字で来るタイプか)


 しばらく沈黙。

 俺は、パンを一切れ差し出した。


「対価だ」


 ミラは受け取らない。


「要らない。条件」


「条件?」


「明日、ゴミ山。私も行く」


(そうきたか)


「理由は?」


 ミラは、淡々と言った。


「私は見張る。あんたは拾う。役割分担」


(俺が拾う側かよ)


 俺は少し考え、尋ねた。


「……期間は?」


「三日」


(短期契約は、悪くない)


 ミラはそれだけ言うと、踵を返した。


 背中を見送りながら、思う。


(信用ってやつは、随分と高いな)


 でも、独りで生きるには、ここは危険すぎる。


 パンを噛みしめながら、俺は決めた。


(仲間じゃない。協力者だ)


 スラムで生きるには、それで十分だった。


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