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幕間 合理派会議録
帳簿の紙をめくる音だけが、部屋に残っていた。
「対象番号、二七―四。処理結果は?」
白髪混じりの男が、顔も上げずに尋ねる。
名前は呼ばれない。必要がないからだ。
「爆発は予定どおり発生。周辺被害は最小。
回収班は接触せず。現地確認は不要と判断しました」
淡々とした報告。
声に感情はない。
「遺体は?」
「未確認です。
記録上は“死亡推定”。行方不明扱いで問題ありません」
男は、ペン先を止めた。
「推定でいい理由は?」
「生還率が基準値を下回っています。
探索コストが、回収価値を上回ります」
即答だった。
別の席から、短い補足が入る。
「仮に生存していた場合でも、
既に切り捨て対象です。再利用価値はありません」
沈黙。
男は、帳簿に一本線を引いた。
「処理完了とする」
それで終わりだった。
誰も、名前を確認しなかった。
誰も、後処理を提案しなかった。
会議は次の案件へ移る。
その裏で、
一つの命が「誤差」として確定した。




