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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
王都裏編

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30/71

裏切りの定義 ミラ視点

 歩幅が、合わなくなった。


 それに気づいたのは、ほんの些細なことだった。

 朝の石畳。

 露で少し滑る道。


 彼は、いつも通り前を歩いている。

 速くもなく、遅くもない。


(なのに)


 私の足が、半拍遅れる。


(追いつけないわけじゃない)


(でも、並べない)


 空気の匂いが、違う。

 昨日までと、同じ路地。

 同じ水路の臭い。

 同じ人の声。


(変わったのは、景色じゃない)


 彼の背中だった。


 倉庫での光景が、頭から離れない。

 箱を開ける音。

 粉が、さらりと落ちる感触。


(あの手つき)


(迷っていなかった)


 正確で、無駄がなくて

 まるで、前からそうするつもりだったみたいに。


(いや、違う)


(そうじゃない)


 彼は、悩んだ。

 きっと、私よりもずっと。


(それでも)


 私は、立ち止まる。


 裏切りって、何だろう。


 約束を破ること?

 嘘をつくこと?

 仲間を売ること?


(どれも、違う)


 彼は、嘘をつかなかった。

 私を騙さなかった。

 危険も、隠さなかった。


(それなのに)


 確かに、切った。


 選ばなかった命を、

 なかったことにした。


(それが、裏切り)


 誰かに対してじゃない。

 ルールでもない。


(人として、引いた線を)


 越えた。


 昼の宿。

 薄暗い部屋で、彼が水を飲んでいる。


 いつも通りの仕草。

 いつも通りの無表情。


(何も変わってないように見えるのが、一番きつい)


「……体は?」


 声が出た。

 自分でも、驚くほど普通の声。


「問題ない」


 短い答え。


(引き留めない)


(説明もしない)


 私は、少しだけ息を吸う。


「あなたは」


 一拍。


「間違ってない」


 言葉にした瞬間、

 胸が、少しだけ軽くなる。


(本心だ)


 彼は、こちらを見る。


 でも、踏み込んでこない。


(待ってる)


 私は、続ける。


「でも」


 喉が、少し痛い。


「私は、ついていけない」


 彼は、何も言わない。


 眉も、目も、動かない。


(止めてほしかった)


(違う、と言ってほしかった)


 でも、彼は言わない。


 それが、彼の答えだった。


「……分かった」


 それだけ。


 引き留めない。

 責めない。

 選ばせない。


(覚悟だ)


(同時に、孤独)


 私は、部屋を出る。


 扉の木が、低く鳴る。


(この音、覚えてる)


 外は、もう夕方だった。


 高台に出る。


 スラムの灯りが、少しずつ増えていく。


 一つ一つが、生活で、

 一つ一つが、命だ。


(全部は、救えない)


(それは、分かってる)


 でも。


(だからって、選べるわけじゃない)


 彼は、選ぶことを覚えた。

 私は、選ばないことを捨てられなかった。


 正しさの問題じゃない。

 強さの問題でもない。


(立つ場所の問題)


 夜風が、頬を冷やす。


 遠くで、馬車の音。


(彼は、前に進む)


(私は、ここに残る)


 だから私は、その夜

 彼の隣に立つ未来を、選ばなかった。

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