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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
スラム編

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3/71

ゴミ山は宝の山

 匂いで、場所が分かる。


 生ゴミの甘ったるい腐臭。

 湿った布と、錆びた金属が混ざった重い空気。

 スラムの外れ、誰も近づきたがらない場所、ゴミ山だ。


(近づきたくない気持ちは分かる。鼻が死ぬ)


 瓦礫と廃材が積み上がり、小山というよりは小さな崖に近い。ハエが群れ、時折、何かが崩れ落ちる鈍い音がする。


 子供の姿は、ほとんどない。

 理由は簡単だ。


 危ない。

 汚い。

 そして、何もないと思われている。


(だからこそ、だ)


 俺は布切れで口元を覆い、足場を確かめながら登り始めた。

 ぬかるんだ土が靴代わりの薄布を通して染み込み、冷たさが足の裏に伝わる。


(前世だったら即労災案件だな)


 崩れかけた木箱をどかす。

 中は空。だが、底に金属片が残っていた。

 錆びているが、厚みがある。


(鉄……いや、鋼か?)


 指で弾くと、鈍い音。

 完全なゴミじゃない。


 周囲を見回す。

 割れた陶器。

 裂けた革。

 曲がった釘。


(ここ、資源の墓場じゃん)


 前世で何度も見た光景が、頭をよぎる。

 廃棄されたパソコン。

 まだ使える部品。

 価値を知らないだけで、捨てられるもの。


(世界が変わっても、無駄は同じか)


 俺は、使えそうな物を分別し始めた。

 金属。布。革。

 特に、紐状のものは念入りに集める。


(縛れる、吊れる、繋げる。用途が多い)


 汗と汚れで、手が黒く染まる。

 臭いは最初より気にならなくなっていた。


(慣れって怖いな)


 しばらくして、背後に気配を感じた。


「……何してんだ?」


 振り向くと、昨日の顔に痣のあるやつが立っていた。

 距離は保っている。警戒している目だ。


「宝探し」


「ここに?」


 露骨に疑う顔。


(正常な反応です)


「お前、何も出ないぞ」


「知ってる。だから拾う」


 俺は、手に持った金属片を見せた。


「これ、使える」


 少年は一瞬黙り、鼻で笑った。


「そんなもん、腹の足しにもならねぇ」


「直接はな」


(間接って概念、まだ早いか)


 説明はしない。

 説明する価値があるほど、成果は出ていない。


 少年は興味を失ったのか、肩をすくめて去っていった。


(今はいい)


 さらに奥へ進む。

 崩れた家具の下から、革袋を見つけた。破れているが、修理すれば使えそうだ。


(収納、大事)


 しばらくして、集めた物を布に包む。

 量は少ないが、確実に“何か”だ。


 帰り道、スラムの端にある小さな露店に立ち寄る。

 裏市場と呼ぶには小さすぎる、非公式な取引場所。


 男が、俺の包みを覗き込む。


「……子供が持ってくるもんじゃねぇな」


「価値は?」


 男は、金属片を噛み、革を引っ張り、布を撫でる。


「パン一切れ」


 少ない。だが


(ゼロじゃない)


「二切れ」


「欲張るな」


 一瞬、睨み合う。

 俺は視線を逸らさず、静かに言った。


「明日も、持ってくる」


 男の眉が、僅かに動いた。


「……毎日か?」


「拾える限り」


 沈黙。

 そして、パンが二切れ、置かれた。


(交渉、成立)


 パンを受け取り、路地裏へ戻る。

 昨日より、足取りが軽い。


(殴られてない。腹も満たせる。進歩だ)


 ゴミ山を振り返る。

 誰も見向きもしない場所。


 だが、俺にははっきり見えていた。


(ここは、宝の山だ)


 スラムの底で、俺はようやく“稼ぐ”という選択肢を手に入れた。


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