表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
王都裏編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/71

毒の行き先

 箱は、軽かった。


 軽すぎる、というのは危険な感覚だ。

 中身の重さじゃない。

 判断の重さが、足りない。


(嫌な予感は、だいたい当たる)


 王都裏の倉庫。

 昼なのに薄暗く、石床がひんやりと足裏に張りつく。


 木箱を開けると、乾いた匂いがした。

 薬草でも、酒でもない。


(……粉)


 布袋に詰められた灰色。

 指で少し摘むと、さらりと落ちる。


(毒だな)


 舌が、苦味を想像する。


(想像だけで十分だ)


 帳簿を確認する。

 数量、経路、最終受取。


 行き先の地名を見た瞬間、

 目が止まった。


(……は?)


 スラム外縁。

 廃水路沿い。

 旧・孤児院跡地周辺。


 喉が、きゅっと縮む。


(病人じゃない)


(貴族でもない)


(市場用ですらない)


 そこにいるのは

 腹を空かせた子供と、

 行き場を失った大人だけだ。


「どうしたの?」


 ミラの声。


 振り向くと、彼女は箱の影に立っていた。

 光が当たらず、表情が読めない。


(読めないのに、なんとなく分かる)


「行き先が、変だ」


 帳簿を渡す。


 ミラは、目を走らせ息を止めた。


「……使い道は?」


(聞かないで欲しかった……)


「噂だと」


 俺は、ゆっくり言葉を選ぶ。


(嘘は言えない……)


「水に混ぜる」


 沈黙。


 倉庫の外で、荷馬車が通る音。


(世界は、普通に回ってる)


「……死ぬ?」


 ミラが聞く。


(直球だな)


「量次第だろうな」


(最悪の答え)


「子供は?」


(だから聞くなよ俺に……)


「子供は効果がでやすい……」


 ミラの手が、ぎゅっと握られる。


 革手袋が、きしんだ。


(ああ、これだ)


(この音が、判断を狂わせる)


「止められない?」


 ミラの声は、低い。


(止められるなら、もうやってる)


「商会は」


 言葉が、重い。


「想定内なんだろ」


 ミラが、俺を見る。


 正面から。


(逃げ場、ゼロ)


「それを、運ぶの?」


(選択肢は、二つ)


「……運ぶ」


 一拍置いて。


「でも」


 箱に、手を伸ばす。


(これしかない)


 布袋を一つ抜き、

 別の袋に移す。


「量を、減らす」


(完全に止めたら、即切られる)


(でも、ゼロじゃない)


「意味、ある?」


 ミラの問い。


(ないかもしれない、

 それでも……)


「遅らせられる」


(助かるやつも、出る)


(出ないやつも、いる)


 ミラは、何も言わなかった。


 ただ、目を伏せる。


(責められないのが、一番きついな)


 箱を閉じる。


 木の音が、やけに大きい。


(戻れない)


 運び出しの途中、

 外の空気が、生暖かい。


 水路の匂い。

 腐った藻と、生活排水。


(ここに、混ざるのか)


 歩きながら、思う。


(俺は、善人じゃない)


(英雄でもない)


(ただ、知ってしまっただけだ)


 ミラが、ぽつりと言う。


「次は?」


(次か……)


「帳簿が、ズレる」


「気づかれる?」


(もちろん)


「時間の問題だろうな」


 ミラが、俺を見る。


 今度は、覚悟の目。


「それでもやるの?」


 俺は、頷く。


(知らなかった頃には、戻れない)


「知った以上」


 言葉が、乾く。


「選ぶしかない」


 馬車が、動き出す。


 箱の中で、

 毒が、音もなく揺れた。


(命に、音はつかない)


 だからこそ

 重い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ