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生まれ変わってもスラムでした  作者: 灰原ノア
王都裏編

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21/71

商会の亀裂

 朝の王都は、うるさい。


 荷馬車の軋む音。

 金属が触れ合う高い響き。

 人の声が、重なって反響する。


(これが“表”か)


 石畳はよく磨かれていて、

 靴裏に、スラムの泥が残るのが恥ずかしい。


(いや、落とす気はないけどな)


 商会の建物は、相変わらず大きい。

 白い壁。

 飾り気のない正面扉。


(善良そうな顔してやがる)


 中に入ると、

 紙とインクの匂いが鼻につく。


(数字の匂いだ)


 受付の男が、ちらりとこちらを見る。

 一瞬だけ。


(覚えられてるな)


 通された応接室は、静かだった。

 椅子が柔らかい。


(座り心地がいいのは信用できない)


 少し遅れて、

 二人の男が入ってくる。


 一人は、細身で眼鏡。

 書類の束を抱えている。


 もう一人は、体格がよく、

 指に指輪が多い。


(分かりやすいな)


 眼鏡の男が、先に口を開く。


「最近、裏で妙な噂が流れている」


 前置き。


(長いやつだ)


「商会の仕事で、生き残った子供がいる、と」


(俺のことだ)


 視線が、俺に向く。


 指輪の男が、鼻で笑う。


「運が良かっただけだろう」


(ああ、こっちは短いやつ)


 眼鏡の男が、書類をめくる。


「だが、運にしては、整いすぎている」


 紙の擦れる音。


(聞き覚えのある音だな)


「禁制品の流通で、痕跡が消えている」


 そこで、ミラがわずかに動く。


(察したか)


 指輪の男が、椅子にもたれる。


「それが何だ」


「下請けの処理が、雑だった」


 空気が、変わる。


(来た)


「責任者の印が残っている」


 眼鏡の男が、俺を見る。


(……知ってるな)


「君が、それを見たと」


 断定。


(噂、早すぎるだろ)


 俺は、肩をすくめる。


「見たかどうかで、値段は変わる」


 指輪の男が、笑った。


「交渉する気か?」


(するに決まってる)


 眼鏡の男が、咳払いする。


「我々は、無駄な切り捨てを好まない」


(温情派)


「管理できる駒は、残すべきだ」


 指輪の男が、即座に返す。


「感情論だ」


(合理派)


「切るなら早い方が安い」


 ミラの指が、きゅっと握られる。


(分かる)


 眼鏡の男が、俺に言う。


「君には、選択肢がある」


 指輪の男も、続ける。


「生き残りたいなら、黙って運べ」


(ああ、割れたな)


 空気に、見えない線が引かれる。


(これが、亀裂)


 俺は、息を吸う。


 インクの匂いが、喉に刺さる。


(ここで媚びたら終わりだ)


「一つだけ、確認したい」


 二人が、同時に俺を見る。


(この瞬間が一番好きじゃない)


「俺は、捨て駒ですか?」


 沈黙。


 眼鏡の男は、答えない。


 指輪の男は、笑った。


「値段次第だな」


(正直で助かる)


 俺は、頷く。


「じゃあ、値段を見直しましょう」


 ミラが、こちらを見る。


 目が、強い。


(逃げない目だ)


「俺は、どちらにもつかない」


 眼鏡の男が、眉をひそめる。


 指輪の男が、舌打ちする。


(いい反応)


「使うなら、ちゃんと使ってください」


 俺は、立ち上がる。


「切るなら、その後で」


 扉を出る。


 背中に、視線が刺さる。


(これで、噛み合った)


 廊下の空気は、少し軽い。


 ミラが、小さく言う。


「……大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


 即答。


(でも、戻れない)


 商会の顔は、笑ったままだ。


 だが。


(中身は、もう割れた)


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