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幕間 王都裏の噂
酒は、薄かった。
王都裏の店では、いつもそうだ。
味をごまかすために、声が大きくなる。
「聞いたか」
「何を?」
「最近な、商会の仕事で」
男は、指を二本立てる。
「残ったガキがいる」
笑い声。
「ガキ? 運が良かっただけだろ」
「違う」
別の声が割り込む。
「逃げ道を作ったらしい」
店の奥で、誰かが鼻で笑った。
「運び屋が捕まった夜だろ」
「ああ」
「なのに、一人だけ無事」
杯が、置かれる。
音が、重い。
「商会が切ったんじゃない」
「商会が、選んだ」
沈黙。
「名前は?」
「知らねぇ」
「顔は?」
「子供だ」
それだけで、十分だった。
情報屋が、紙を折る。
「厄介だな」
「何が」
「子供は、軽い」
誰かが言う。
「軽いから、投げやすい」
別の誰かが、笑った。
「でもな」
情報屋は、紙を懐に入れる。
「軽い駒が、生き残るときは」
言葉を、切った。
「だいたい、長生きしねぇ」
笑い声が、戻る。
薄い酒が、喉を通る。
王都の裏で、
名前のない噂が、
また一つ、形を持った。




