捨て駒の役割
知らせは、朝に来た。
裏市場の隅。
いつもより、人が少ない。
(嫌な予感しかしない)
カインが、立っていた。
顔色が、妙にいい。
「一人、捕まった」
それだけ。
(誰だ)
名前は、出なかった。
出ない、ということは
(もう、いないか)
「検問でな」
カインは、肩をすくめる。
「運が悪かった」
(運じゃねぇ)
俺は、聞いた。
「商会は?」
「切った」
即答。
(早すぎる)
「書類は?」
「最初から、なかった」
(やっぱり)
ミラが、拳を握る。
力を入れすぎて、白くなる。
(こらえてくれ)
俺は、声を落とした。
「次は?」
カインが、俺を見る。
「お前だ」
(選別、完了)
別の倉庫。
より奥。
ここは、合理派の縄張りだ。
ルーファスが、いた。
視線が、冷たい。
「君は、生き残った」
(それだけで、評価か)
「なぜだと思う?」
試す声。
「無駄に動かない」
俺は答えた。
「余計なことをしない」
ルーファスは、わずかに頷く。
「正解だ」
(胸糞悪い)
「捕まった運び屋は、騒いだ」
淡々と。
「結果、損失が増えた」
(人の話じゃねぇ)
「君は?」
「逃げ道を用意した」
ルーファスの口角が、僅かに上がる。
「だから、残す」
それだけ。
ミラが、前に出る。
「それで、終わり?」
ルーファスは、彼女を見る。
「感情か?」
ミラは、引かない。
「違う、値段の話」
空気が、張り詰める。
(来た)
「捨て駒が出るなら」
ミラは言う。
「値段が上がる」
沈黙。
ルーファスは、視線を逸らした。
「……商会長に通す」
(派閥、動いたな)
帰り道。
ミラは、何も言わない。
ただ、歩く。
(今、声をかけると壊れる)
スラムの境。
いつもの匂い。
ここで、ミラが言った。
「生き残ったね」
「……ああ、なんとかな)
俺は答える。
嬉しくは、ない。
(選ばれた理由が、これだ)
あの運び屋は、
俺より、劣っていたわけじゃない。
ただ
捨てやすかった
それだけだ。
夜、眠れなかった。
目を閉じると、
顔も知らない誰かが、落ちていく。
(覚えとけ)
ここでは、
何もしなくても、
人は切られる。
なら。
(せめて、自分で線を引く)
俺は、次の仕事を受ける覚悟をした。
この役割を、
終わらせるために。




