裏の倉庫
倉庫街は、静かだった。
王都の外縁。
人通りも、装飾もない。
ただ、同じ形の建物が並んでいる。
(ここに金が集まるとは思えない)
扉を開けた瞬間、匂いが変わった。
木材。
油。
薬草。
そして、微かに、鉄。
(箱の匂いだ)
床には、無数の擦り跡。
荷車が何度も往復した痕。
(ここを通ってる)
表の倉庫。
だが、奥が深い。
ミラが、棚を指さす。
「帳簿と、違う」
俺も、気づいていた。
数量が合わない。
(表の数は、少ない)
奥の壁。
木目が、不自然に途切れている。
(隠し扉)
開くと、空気が冷えた。
石造りの通路。
(倉庫じゃない)
木箱が、積まれている。
印は、消されている。
(消しても、癖は残る)
釘の打ち方。
紐の結び。
(同じ職人だ)
ミラが、箱の一つに触れる。
指が、止まった。
「……これ」
箱の底。
小さな刻印。
(見覚えがある)
ミラの肩が、僅かに揺れる。
「父の」
声は、小さい。
俺は、何も言わなかった。
(ここで言葉は邪魔だ)
倉庫の奥。
もう一つの帳簿。
紙は古い。
名前はない。
数字だけ。
(切り捨て前提の記録)
毒の量。
運び屋の回数。
失敗数。
(人じゃない)
ミラが、深く息を吐く。
「……ここは」
「道だ」
俺は言う。
「表も裏も、同じ道を通ってる」
倉庫は、嘘をつかない。
嘘をつくのは、人だけだ。
外に出ると、空が低かった。
雲が、重い。
「壊す?」
ミラが、聞いた。
「まだ」
俺は首を振る。
「ここは、価値がある」
場所。
流れ。
人の癖。
(押さえたら、世界が動く)
ミラは、黙って頷いた。
倉庫街を離れる。
背後で、扉が閉まる音。
(覚えたぞ)
この倉庫は、
金と命が、同じ箱に入る場所だ。
そして
置き場所を知った者が、
次に、値段を決める。




