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幕間 ミラ視点(値段を知らなかった日)
その言い方は、嫌いじゃなかった。
「報酬が安い」
彼が、そう言ったとき。
胸の奥が、少しだけ動いた。
スラムでは、命に値段なんてない。
奪うか、奪われるか。
それだけ。
でも
(値段を口にする人は、簡単には切れない)
昔、同じ匂いを嗅いだ。
薬草と、金属と、紙。
商会の倉庫の匂い。
父の手は、いつも苦かった。
薬のせいだと、思っていた。
あの日。
大人たちは、説明をしなかった。
ただ、連れていった。
理由も、値段も、何も。
名前だけが、消えた。
(安かったんだ)
今、隣を歩く少年は、
怖いくらい冷静だ。
でも。
(同じにならないで)
そう思った瞬間、
もう遅いことにも気づく。
この道を歩くなら、
計算できないものは、置いていくしかない。
それでも。
彼は、値段を決めた。
それは
切られる側じゃなく、
生き残る側の選び方だった。
私は、少しだけ安心して、
そして、少しだけ怖くなった。




