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02:待ち合わせもカフェテリアで

 今までは伯爵家が入る寮で過ごしていた私が、正確には私だけがファレノプシス寮と言う上位貴族の寮になった事を妹のロゼッタは文句を言っていた。姉妹の時、限定で。

「お姉様だけズルくないですか?」

 ともう一人の妹であるジョリーに今日も同意を求めたんだけど。

「ズルくないよ。私も1年から4年まではファレノプシス寮じゃなかったし、これは領主コースに合格したお祝いだから。」

 そう言ってしまえば、二人は何も言えない。

 特にロゼッタは、『Aクラスの女生徒は生意気で可愛くない。』と言われている事を知ってのBクラスだし。

「おじいさまが上位貴族とつながれ、と言っているんだと思うんだ。」

 そうなんだ。

 おじいさまからのお祝いなんだよ。だからね、私に文句を言うのではなく、両親かおじいさまに言って欲しいんだ。

「お姉様。私、お姉様のお部屋にお泊りしたいです!」

 ロゼッタの言いたい事を解っているのか、解っていないのか、そうジョリーが言ってきた。

「その件については入寮してからね。」

 としか言えない。

「どうしてですか?」

 と言われてもね?

「その辺の規則が解らないから。だから、入寮したら確認してみるね。でも、お茶会はしようね。」

 これは知ってるから言える。

 研究会でお世話になったし、フランからも何度も招待されているし。だから、今度は私の方が招待すれば問題ないだろう。

 そう簡単に考えていたら、ロゼッタの表情がおかしい。何て言うのかな? 私の返事を受け入れるべきかどうかを悩んでいるのかもしれない。

「楽しみに待ってます!」

 とジョリーは素直に言ったけど、今後の事を考えると頭が痛い。

 絶対にロゼッタは何か言いだすだろうから。今までだってそうだったし。頭は痛くなるが、楽しみでもある。





 と、こうして始まった新学期。新入寮生の案内役をしてくれたのはフランだった。どうやら、この寮だけの代々の決まりらしい。本来なら、上級生が担当するのだとも聞いた。

「珍しいのよ、高等科からの入寮は。」

 だよね。

 私もそう思うし。

「随分前になるのだけど、伯爵家のご令嬢が問題を起こしたの。だから、伯爵家の入寮は推奨されないのよ。」

 あーそんな事件もあったね。

 基本的には公爵と侯爵専用で、部屋に空きがある場合のみ伯爵家でも入寮出来るんだよね。だから、空きが無ければ入寮出来ない。空きが無ければ、優先順位は当然、上位の貴族になる。

 その〈当たり前の事〉を受け入れられなかった伯爵家の令嬢が問題行動を起こしたんだよね。商売で儲けていた宮廷伯だったって聞いてる。なんつーか、領地の無い場合は領地がある同格よりも下に見られるって話は聞いていたから、その話を聞いて驚いたんだもの。

「一人娘や一人息子だと、勘違いする場合があるらしいの。だから私、その辺はみっちりと教え込まれたわ。」

「そうなの?」

「そうなの! 家でも領でもちやほやされるじゃない?」

 ちょっと怒り気味のフランは珍しい。

 よっぽど思う所があるのだろうな。

「あー否定出来ない。私の場合、家では違うけど商会だとそうなんだよね。」

「はい?」

 と聞き返されたけど。

「家だと、『姉なのだから譲ってあげなさい。』が定番なのよ。」

 そうお母様が言うから。

 だから、叱られないと思いこんだ妹が無双する場合もあるんだよね。何かあれば面倒な事になるのが確定なので、ある程度は受け入れ、後はのらりくらりとかわしているんだけど。

「姉妹って、そうなの?」

 怒りがどこかへ飛んでしまったらしいフランにそう聞かれた。

「よりけりじゃない? ほら、私は跡取りで総取りになるから、ってそんな感じで言われてるけどね。」

 ウチの財産、この国では屈指らしいから。

 自分だってその恩恵にあずかっていながら、何を言っているんだか。家政だって実家から連れてきた侍女に任せている事も多いのにウチの母は本当に嫌になる。

「逆に、長男だからって崇められている場合もあるみたいだし? 本当に色々よ。一人っ子だってそうでしょう?」

「そうなのよ。」

 と案内中、入寮した下級生の問題発言や問題行動の愚痴を聞かされた訳なんだけど。

 確かに、そんな問題は伯爵家の集まる寮でもあったわ。何て言うか、自分が〈特別〉じゃないのはおかしい、みたいな感じで。

「似たような問題は、ウチの寮でもあったわ。」

 と言えば、「やっぱり?」と言われた。

「だから初等科からの入学が推奨されているとも聞いたのよね。」

 そう言ったら、中等科から入学したフランは露骨に驚いていたんだけど。

「その辺の話はカフェテリアでしない? タチアナが待っているし。」

 知られていないけど、知っていて欲しい事でもあるからね。

 人の多い所で話したらさ、聞き耳を立ててくる人もいそうだし。ほら、なんて言うのかな、あれよ、たった10人しか入れない領主コースに女子4人ですから! しかも、4人が仲がいい。

「そうね、行きましょう。」

 とカフェテリアに向かったのだけど、タチアナはいなかった。

「あら、どうしたのかしら。」

 いつもの場所で、と言う事だったのだけど。

 一緒に教室を出て、荷物を部屋に置いたら集合、となっていた。

 ただし、私がフランから寮の説明と案内をされるから、少し時間はかかると言っておいたけど。本来なら入寮日にされる事なのだけど、どうやら案内係を決めるのに時間がかかった、とフランから聞いた。まぁ、私よりも学年が上なのは最終学年と言われる6年生だけだしね。

「何かあったかな?」

「かも知れないわね。」

 ファレノプシス寮以外は、初等科、中等科、高等科、と寮は別棟になっている。

 その方が管理をしやすいのだそうだ。だから、高等科は確実に〈新入生故のやらかし〉はない。新入生の募集は中等科までだから。

「じゃ、さっきの話をしようか。」

 これ、タチアナは知っているから。

 そう言われて初等科から来た、って聞いているし。

「ん~」

 と辺りを見渡して、空いた席を探す。

 放課後のカフェテリアは、それなりに混んでいた。寮に入ってしまえば、ここか部屋かくらいしかゆっくりとお茶は出来ない。とは言っても、伯爵家の私の部屋でもそこまでも広さはなかった。

 そう考えると、ゆっくりとお茶を飲みながら友だちとはなすのならカフェテリア一択になる。

「先にケーキでも取りに行っておく?」

 と聞けば、「そうね。」と同意してもらえたので、いくつかのケーキを選ぶ事にした。

「そんなに食べたら太るわよ。」

 そうフランに言われたけどさ。

「気にしたら負けよ!」

 とポットの紅茶を選んで終了。

 ランチで使うような仕様の大きなトレイはどっしりと重い。始めの頃はこの重さがきつかったけど、4年も過ごせば気にならない。

「本当にディオンヌは………」

 呆れるようにフランは言うけど、デビュタントも終わったし、当分ドレスを着る予定も無いから大丈夫なんだよ。

 だって私はフランとは違うから。

「いいじゃん、気にしない。」

 本当にそれ。

 実際問題として跡取り娘になってはいるけど、伯爵家の方は妹に継いで欲しいと思っていたりする。私はおじいさまと一緒に商売の方がしたいのだ。

「それよりもさ、席を探そう?」

 と矛先をそらす。

 そうねぇ………と二人で辺りを見渡して、ここ! と思った席に向かう事にした。たったこれだけで、フランは私の意図を理解した。

「さて、」

 とテーブルにトレイを置いて、椅子に座る。

 対面ではなく、隣に座ったのはタチアナを待っているとの意思表示だ。聞かれたらそう言えばいい、と思っていたんだけどフランはその上を行っていた。

「フランチェスカ様。」

 トレイを持った下級生がフランを呼んだ。

「あら、ありがとう。早かったわね。」

 どうやら彼女が代表として声をかけたらしく、テーブルの上にはこのカフェテリア名物と言われている取り分けする大き目のケーキがおかれた。それだけではなく、とりわけ用のナイフやケーキサーバーとケーキ皿にフォークも、だ。

 何人かの下級生によってセッティングされたテーブルは、いかにも人待ちになった。

「またよろしくね。ミリー、ヘンリエッタ、マイラ。」

 名前を呼ばれた令嬢たちは嬉しそうにフランを見て、頭を下げた後に立ち去った。

「寄子の下級生なの。中等科の侍女コースを卒業後はうちに来る予定なのよ。」

 さもありなん、だ。

 きっと、子爵令嬢か男爵令嬢辺りなのだろう。侯爵家クラスになれば当然とも言いたくなるような事だ。周りがどう思うかは別として。

「あれ? 名前は知らなかったけど、一番年上の生徒はファレノプシス寮で見かけた気がする。」

「そうね。寮に居るわ。今回はいなかったけど、もう一人ね。」

「え?」

 どうしてそうなる? と実情を知らない私は思うのだ。

「あるのよ。寄子とは限らずに、配下の生徒用の部屋が。」

「………………知らなかった。」

 真面目に知らなかったよ。

 部屋に帰ったら、貰った案内を熟読しよ。

「侍女の他に、2人程連れてきたの。それもあっての中等科からの入学なんだけどね。」

 あ、そうなんだ。

「他の家がどうなのかは知らないけど、ガラハドの家は彼女たちの学費もだしているわ。」

 真面目に知らなかったぞ、と。

「下位貴族だと、次女や三女、下手したら長男以外は指定された学校に入学をさせない事も多いのよ。よほど裕福な領か商売でもしていないと、ね。」

 あー聞いた事はある。

 実例も知ってる。

 だけど、そんな話は出来ないからね? 詳しくは知らなかったんだけど。

「あら、驚かないのね。」

 そう聞かれたけど。

「父方がそうだったからね。」

「はい?」

「嫁の実家に借金してまで学校に入れた、っておじいさまが。」

 当時は未だ、商売が軌道に乗っていなかったらしいし。

「そうなの?」

「そうみたいよ。おじいさまから聞いたから。」

 その事を父と叔母が知っているかどうかは不明だけどね。

「その借金は倍にして返してくれたのよ、っておばあさまは笑ってたけどね。」

 子どもが学園に居る間に、商売が軌道に乗ったそうなんだけどね。

「領地無しの子爵の家よ? しかも、王領とはいえ当時は寒村の代官の。お金なんてある訳ないじゃない。」

「………考えてみれば、そうね。」

「でしょう?」

 だから、おじいさまの友人でもある先代の国王陛下の弟殿下から侍女に、って話が叔母様に来た事は知っていたのよ。

 おじいさまは断ったそうなんだけど。そうか、そんな絡繰りがあったのか、と今になって知ったわ。王弟殿下はきっと、叔母様の学費を出すつもりだったんだろうな。でも、そうしてもらうと叔母様の未来が決まってしまうから断ったんだろうな。うん、納得。

「本当にあなたの家には驚かされるわ。」

 さっきの女子生徒が色々と届けてくれた事で、更に注目を浴びている事に気付きながらの話だ。

 聞き耳を立てている生徒もたくさんいるし、がら空きだったこの場所の周りのテーブルはどんどんと埋まって行っている。その事にも気付いていない訳がないんだよね、フラン。

 なんて言うか、フランは目立つ。そして、私も目立つ。

 嫋やかで儚げで可憐なフランと、大柄で派手な顔立ちの私。全く正反対な外見なのに仲がいいのが不思議らしい。

 その一方でタチアナはある意味、天然である。興味のない事は全く気にしない。

 そんなタチアナは、いまだに来ないけど。



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