総都決戦
ひまりと三八小隊の面々は機動歩兵前線部隊に組み込まれていた。
部隊員全員が新型量産機のしきしまに搭乗していた。
目先には大真栄帝国統一戦争の仁王と五大国連合軍のエース級五人の乗った機動歩兵七体が山を下って向かってきている。
和雅国軍は更に強化した戦力で敵の襲来を迎え撃つ。
ドドドドッ。
敵の動きにエイムを合わせ機関銃を連射する。
ピュンピュンピュンピュンッ。
大真栄連合軍は巧みに避けて前進していく。
「いくであります」
素早さなら世界最速と名高い高崎こいわ少尉が和雅国軍前線部隊を突っ切っていく。
こいわはしきしまとの性能差である演算能の遅れをものともせず相手を捲れるの早さの秘訣は判断力と勇敢さにあった。
人馬一体となった機動歩兵は操縦を一つでも誤れば命取りになる。
スピードを重視すればするほどそのリスクも高くなるのだ。
しかし、こいわは即決を恐れない。
その猪突猛進な性格を卓抜な才能が補強する。
それを後押しし技能を裏付けするのは誰よりも高い勇敢さだった。
こうして世界最速の名を欲しいがままにしている。
「先を行かせるかぁ!」
佐藤隊長が激昂しこいわに食らいついていく。
「くそっ! ここまでかっ!」
足止めを食らうこいわ。
「こいわちゃん!」
こいわの後続の綾瀬みう中尉思わずが気を取られる。
「綾瀬中尉はこのまま総都中枢部へ! 霊璃陛下の父上を連れて行くために!」
「うん! 絶対に生きてまた会おうね!」
「もちろんであります!」
みうは和雅国軍の連隊の隙間をするするとすり抜け、攻撃してきた機動歩兵を返り討ちにしつつ、総都の中心市街地にある国防省庁舎まで辿り着いた。
後続の機動歩兵達と共に庁舎を襲撃し、花咲英政元山本基地司令官を生け捕りにし、大真栄帝国へとんぼ返りする。
「お父さん!」
ひまりは父を追いかけた。そして向かった先は首都、京朝市であった。
○
大真栄帝国。京朝市。
花咲英政は拘束された状態で霊璃女王の前に献上された。
「たまり……すまなかった……」
「何ゆえ妾を捨てた?」
「仕方がなかったんだ。妻とひまりとこまりを守る為には異能を持って村から疎まれていたお前を追放するほかなかった」
「姉妹の中で妾以外を優先したという事か!」
「そんなつもりはなかったんだ!」
「しかしその事はもう良い。妾は気づいたのじゃ。このミオンで作り上げた国力を持ってすれば全ての人々を従えるなど造作もない事を」
「すまない。しかし、恐怖政治と復讐はもうやめてくれ」
「情けない父親じゃ。そう思わんかの妹よ」
ひまりは王宮に潜入しダクト裏に隠れていたが霊璃女王にはバレていた。
「たまり。私の双子の姉。十二の時に交通事故で亡くなったと聞かされていたけど、まさか追放されていたなんて……」
「今まで呑気に機械いじりは楽しかったかのう?」
「でもダメだよ。こんな事しちゃ。恐怖で人を従え続けていたら、あなたはさらに孤独となってしまう!」
「やかましいわ!うつけ者が!」
「あなたを失った悲しみで私も覚醒したの」
ブォオオオオンッ。
「ひまりっ……貴様も妾と同じ力を……」
「あなたを止められるのは私しかいない」
「くそっ貴様に妾の何が分かるっ! 死ねぇ!」
ブォオオオオンッ。
霊璃女王はミオンの力を全神経を研ぎ澄まし総力を一点に集約し波動をひまりめがけぶつけた。
ピュンッ。
ひまりはミオンの力で素早く攻撃を避けた。
そして、霊璃女王の背後に周りこみ背中にミオン波を当てた。
「不覚……」
霊璃女王陛下はミオンの力が尽きて負けた。
○
「妾の負けじゃ。煮るなり焼くなり好きにするがよい」
「そんな事しないよ。一緒にお家に帰ろう。お姉ちゃん」
「それはできない。妾にはこの国がある。そして仲間もできた」
「霊璃陛下……ご無事ですか!」
心配になって様子を見にきたみうが霊璃女王の元へと駆けつける。
「大丈夫じゃ。総員に告ぐ。全軍撤退じゃ! 和雅国の停戦案を受諾する!」
「女王陛下。もう吹っ切れたんですね」
「ああ。今まで苦労をかけた。これからまた友達に戻ろう。みうちゃん」
こうして戦いは終わった。