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疎開


 和雅国。時川(ときかわ)県山崎市。


 大真栄帝国の山本県占領により森川村のひまり達は隣県で避難生活をしていた。


 しきしまは鹵獲されなかったものの大破。


 ひまりはしばらく戦場復帰できる見込みがないので、山崎市の山崎清祥(せいしょう)高校へ二年生として編入した。


 編入時には「花木ひな」という通名を使用した。しきしまのパイロットであり開発者と知られれば他国のスパイに暗殺される可能性があるからだ。


 休み時間。教室にて。


「花木さんって山本県から来たんだよね」


 ひまりは利発そうな女子のクラスメイトに話しかけられた。


「うん。そうだけど」


「ニュースで山本県を観た時、惨い状況だったけど無事だったの?」


「うん。私の住んでいるところは基地から遠かったから爆撃とかは来なかったよ」


 ひまりは軍の機密を抱えているので元戦闘員だった事を話せないため、仕方なく誤魔化す。


「そうなんだ。巻き込まれなくてよかったね」


「うん。ありがとう」


 それから他にひまりへ絡んでくる生徒はいなかった。


 単に興味本位で訊いただけで仲良くなる気はなかったのだろう。


 高校二年の半ばにひまりのような目立たない生徒が転入してきても既に仲の良いグループで固まっている同級生達にとっては存在がノイズでしかない。


 元々、森川学園でも浮いた存在だったひまりにはどうでもいい事だった。


 昼休み。


 ひまりは特にやる事もないので校内を散策し人気のないピロティに行きついたところで地味で大人しそうな女子生徒に声をかけられた。


「あなた、花咲ひまりでしょ」


「いいえ。違います」


「二年前の科学雑誌に載っている写真と顔が同じじゃない。私、その後の活躍も追っててしきしまを開発者になったと踏んでる。素性を明かしていないのは軍事機密を抱えているからでしょ。安心して。私はスパイじゃなくてただのミリタリー&サイエンスオタクよ」


「本当に別人なんです」


 ひまりはそれでも機密を漏らすわけには行かないので否定する。


「そう……」


 少女はしゅんっ……とした。


「でもミリタリーとサイエンスは好き」


「じゃあお友達にならない? 私もあなたと同じ二年生なの。上履きの色が同じでしょう」


「ほんとだ。ふふふふっ」


 ひまりは無事、友達を作る事ができた。


   ○


 旧和雅国領地。大真栄帝国占領下の山本基地。本部棟地下司令部室。


 大真栄帝国陸軍山本基地司令官は総都侵攻作戦を雑談を交え画策していた。


「花咲英政は現在、総都にいる」


「陛下の伝令でこいつは生け捕りにしなくちゃならないからな」


「陛下は竹閣諸島資源を分配する密約を五大国と交わしているそうですが、売国行為ではありませんか?」


「口を慎め。広田中佐。不敬罪だぞ」


「先日の侵攻で五大国連合軍からも多数の犠牲者が出ている。相応かそれ以上の見返りがないと向こうも納得しないからな」


「和雅国との戦いに勝った先には五大国との利権争いが待っている」


「それは文民達の範疇だ。我々が今杞憂したところでなるようにしかならない。我々は毎日、今日国が生き残るように対応する事だけ考えていれば良いのだ。だから国内の反戦論や停戦案を全て跳ね除け、与えられた予算内で自国を守り他国へ打撃を与え続ける。それでいいんだ」


「五大国連合軍は総都攻略の為、更に戦力を増員すると言っております」


「しかし、自国に家族を置いて派兵されている以上、最前線には出せない。どう使うか」


「和雅国もかつてはアジア共和国に並ぶ大国の一つと呼ばれていました。ユーラシア連邦に一度勝った事もあります。総都で総力戦となるとかえってうちが不利なくらいです」


「女王陛下は無条件降伏以外の向こうが打診してきた停戦案を全て棄却しているらしいな」


「じゃじゃ馬に振り回されるのもいい加減我慢ならなくなってきたよ」


「クーデターでも起こすんですか?」


「あのわけわからん超能力で捻り潰されるのが関の山だよ」


「あのミオンとかいう力が暴走したら我々はどうなってしまうんですかね」


「その時は世界の滅亡だろうな」


「とんだ爆弾を抱えてしまったよ。我々の国は」


「女王の逆鱗に触れないためにも総都侵攻でも総力挙げるしかなさそうだな」


   ○


 和雅国。総都。


 国防省地下大会議室。


「回収したしきしま機体の解析と花咲ひまりからの研究開発資料提供により進んでいた時川工場での新型機動歩兵量産体制がついに整いました」


「これで向こうの七人のエース級に太刀打ちできるな」


「向こうの君主は総都侵攻を行うとメディアに訴えかけています」


「竹閣諸島の資源狙いで五大国も積極的な軍事介入が見られます」


「大国のパワーバランスが脅かされそうになった途端に五大国が世界一斉軍縮論に基づく警察行為をやめてしまった」


「真っ先に敗戦国の我々がまたしても狙われるとはな」


「出る杭は打たれる。でもいつだって本当に悪いのは杭を打つ金槌の方さ」


「しきしまの操作系統はやしまに似ており、特殊装甲と機動演算処理能は世界随一だ。やしまのエース級をしきしまパイロットとして投入すれば世界中を敵に回したとて引けを取らない」


「そうだ。前回はしきしま操縦者の操作技術が未熟だったため負けただけだ。次は必ず勝てる。いや勝たねばならん」


「ところで、そのパイロットの花咲ひまりをまた登用しますか?」


「その必要はない」


「花咲元基地司令。私情を挟むな。皆家族を犠牲にして国の為に身投げしているのだぞ。当の本人も義勇を志願しているそうじゃないか。君も娘さんを見習った方がいい」


「……失礼いたしました」


   ○


 和雅国。総都。


 山本県と総都を隔てる尖沢(とがりさわ)山脈の境界警備隊は山本基地に五大国連合国軍連隊輸送機が続々と集結してくる様子を感知し総都へ伝えられた。


 和雅国軍もほぼ全軍が総都に駆り出され集結していた。


 しきしま量産型も国軍エース級全員に装備された。


 その面子の中には時川県山崎市から義勇兵として志願し予備官でなく正規の軍人として出兵した花咲ひまり特務少尉の姿もあった。


 ひまりは、なぜ大真栄帝国の女王が父の身柄を狙うのか分からなかったが、父を守りその真相を突き止めるためにも戦う決意だけは固めてきていた。


 こうして、和雅国対大真栄帝国の総都決戦は幕を開けた。


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