霊璃女王
大真栄帝国。京朝市。
霊璃女王は山本基地再侵攻作戦失敗の報告を聞いた。
「今度は国のエース級パイロットがいる機動歩兵部隊を投入したのに失敗じゃと……和雅国め……手強すぎるぞ」
「しかし吉報もあります。ただいま国防長官が会談で五大国を中心とした連合軍の同盟国へ正式加入が認可されたようです」
「やっとか。和雅国の新型が勝手に出てきてくれたおかげで思いのほか話が早く進んだようじゃな」
「やはり新型の機動歩兵と奇人・花咲ひまり氏の技術力は大国からしても脅威なのでしょう」
「彼女を暗殺したくてもあの新型機動歩兵の固い殻がある限り遂行できないかつ、うまく利用したいのが大国共の本音か。しかしそうはいかせないぞ。あやつは必ず私の手で葬り去られ散りゆく運命なのじゃ」
ふふふ。と、霊璃女王は不敵な笑みを浮かべた。
「五大国連合軍と連携して再度、山本基地侵攻作戦を練り直すのじゃ! 次こそはあの地を占領するのじゃよ!」
「かしこまりました」
○
西暦2020年。
栄都国栄南市。
「こいわちゃーん。もう帰ろうよ」
「もう少し奥まで進んだら帰還するのであります!」
十二歳の少女、綾瀬みうは怯えながら同い年の幼馴染、高崎こいわのTシャツの裾を引っ張った。二人は夕暮れ時の薄暗い森林を探検している最中であった。
「ねぇ。ちょっと見て。女の子が倒れている」
二人の目線の先にはみう達と同じくらいの背格好の女の子が行き倒れていた。
「水……のどが……」
「大変……麦茶あるよ! 飲んで」
みうはリュックサックからコップ付き水筒を取り出して麦茶をコップに注いで行き倒れていた少女に手渡した。
「ごくごくごく」
「どちらから来たのでありますか?」
こいわは訊いた。
「和雅国……」
「貴様、不法入国者か!?」
和雅国と栄都国は実質断交状態だ。一介の少女にビザが降りるはずがない。
「和雅国を……追放された」
「追放……ひどい」
「信じてはいけません。スパイかもしれないであります」
「うるさい……スパイなんかじゃない。通報なりなんなりしろ。強制送還を申し出ても断られるだけだ。そうなれば別の国に逃げる。それだけだ」
「こんな私と同じくらいの小さい女の子がスパイなわけないよ。集落に連れて帰ろう」
「うーん。大人に訊いてみないとなんとも言えないし、彼女を連れて帰るしかないでありますね。貴様、名はなんという?」
「花咲たまり」
「吾輩は高崎こいわであります!」
「私は綾瀬みう。よろしくね。たまりちゃん」
「よろしく……」
○
みうとこいわの暮らす栄南市の集落は農村地帯だった。
若い人手を必要としていたのでたまりは綾瀬家の養子として迎え入れられた
「なんで和雅国を追放されたの?」
「私、不思議な力が使えるの。それを村の人達が気味悪がって忌子だと言われて村八分にされた」
「不思議な力ってなに?」
「ちょっと見ててね……」
たまりは両手を広げ目を瞑って念じ始めた。
ピュゥウウウウウンッ。
たまりの身体から蛍の光りのような暖かいオーラが放たれた。
「すごい。魔法みたい」
「ミオンの力というらしい。各地の神話の伝承にある」
「あのミオンの力……実在したんだ……」
「この力の事は内緒にしてほしい」
「うん。でも……」
「何?」
「この力で集落の皆を救ってほしいの」
「えっ?」
「うちの集落はここ数年凶作が続いたから農地を国に安く買い叩かれて工業化する話が出てきているの」
「それでミオンの力を使って解決してほしいと」
「私、こいわちゃんと離れ離れになるのも生まれ育った集落がなくなるのも嫌だ。見返りはなんだってするから!」
「なら、一生私の友達でいてほしい」
「うん。もちろん!」
「だったらやるよ。私」
○
翌日。
綾瀬みうの声かけによって、集落の人々が寄り合い所に集められた。
「この女の子がミオンの使い手だって言うのかい?」
長老が半信半疑で訊く。
「はい。昨日私は彼女の力を見ました。彼女……たまりちゃんならきっとこの大凶作からこの集落を救ってくれます」
「できるか分からないけどやってみます」
「ではやってみてくれ」
たまりは農地に案内された。
「ミオンの力よ。我に真の世界を提示したまえ」
ミオンの力が農地を分析する。
「なるほど」
たまりはミオンの見解を感じとる。
「負の霊力、リオン粒子がこの農地一帯に満ちています」
「リオン……神話でミオンと対をなし現世に災禍をもたらすと言われている荒ぶる神の意志か……」
「ミオンの力でリオンを海の向こうで追い払います」
ピュゥウウウウウンッ。
たまりは両手を広げ気を貯めて放出した。
農地一帯の邪気が一気に晴れた。
数ヶ月後。
農地は再び芽吹きだした。
集落は活気を取り戻し、工業化立退計画も廃案となった。
「凄い……神のようだ!」
「奇跡じゃ! 現人神じゃ!」
たまりはそれから国中のありとあらゆる諸問題をミオンの力で解決し、奇跡を起こす神話の現人神とされ国民的な人気者となった。
それから国の政治腐敗を暴き、クーデターを起こし栄都国の女王、霊璃となった。
女王となった直後に栄都国と大真国との統一戦争が起きた。
腐敗を招いた政治家達が他国と共謀して霊璃女王と栄都国を潰しにかかったのだ。
女王はミオンの力で戦線を導いた。
その時、機動歩兵使いの二人の少女、綾瀬みうと高崎こいわは後に「統一戦争の仁王」と呼ばれ恐れられるほど大活躍をした。
そして栄都国と大真国を併合に導き、大真栄帝国を建国したのだった。