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三八小隊


 和雅国と海を隔てて並列に並ぶ東方側の縦に細長い島国、大真栄帝国。


 首都、京朝(けいちょう)市。


 霊璃(たまり)女王は山本基地侵攻作戦の顛末を配下から聞いた。


「失敗したじゃと。その新型機動歩兵というのはどこから出てきたのじゃ?」


 と、霊璃女王は尋ねる。


「報告によりますと、基地に隣接する森川学園の敷地内から突如として現れたようです」


 配下が答える。


「森川学園……森川村……気に入らぬ。体制を整え次第、再度侵攻作戦を立て直せ。次はこちらも機動歩兵部隊を派遣するのじゃ」


「承知しました。軍部に伝えておきます」


 女王の令は和雅国山本県から海を隔てて東方に隣接している大真栄帝国の栄南(えいなん)市の栄南基地の山本基地侵攻作戦本部に伝えられた。


   ○


 大真栄帝国。栄南基地。山本基地侵攻作戦立案会議。


「今回の作戦では四小隊で計二〇機のふそうを投入予定です」


 士官が立案計画書を読み上げる。


「敵の機動歩兵は新型と訊いたが、その辺はどう対策するんだ?」


 栄南基地司令官が問いただす。


「敵の新型はやしまと違い特殊な素材を用いた装甲と敵の動きを予測する最新鋭のプログラムが搭載されており非常に手強いです。しかし、前回の実戦報告データを検証すると長時間の連続攻撃に機体が耐える事が難しいと判明致しました。この点はやしまやふそうにも言える欠点ですが、敵の新型は従来型より高演算能な分、エネルギー消耗が激しく、冷却からの立ち直りにも時間を要します。今回はそこにつけこみ新型に対しベテランパイロットの操縦するふそう二機で集中攻撃を仕掛ける算段です」


「ベテランパイロットとは誰だ?」


「統一戦争の仁王です」


「彼女達か。ならば活躍を期待できそうだ」


 司令官は不適な笑みを浮かべながら言った。


   ○


 和雅国。山本基地仮設収容所。面会室。


「お姉ちゃん。まだ釈放してもらえないの?」


 こまりが軍部に収容中のひまりに訊いた。


「うん。事情聴取は終わったんだけど政府の都合で処分をどうするかまだ検討中なんだって」


 ひまりは軍部の対応にうんざりした思いをこめながら質問に答えた。


「国内だとお姉ちゃんは英雄扱いだけど海外中から非難されているもんね。向こうから襲ってきたくせに」


「文句を言ったってしょうがないよ。お父さんは元気?」


「うん。基地防衛の立て直しで忙しそう。総都の機動歩兵部隊が常駐してくれる事になったから、その配置とかの戦略会議があるみたい」


「そうなんだ。総都だって空爆が来て大変なはずなのに」


「うちが占領されたら総都まで山脈一つで侵攻できちゃうからね。もうしのごの言っていられないんだと思う」


 私達の雑談に監視役が割って入る。


「時間だ」


「明日も来るね。身体に気をつけて」


「ありがとう。こまりこそ気をつけてね」


「分かった」


   ○


 和雅国。山本基地仮設本部棟地下司令部室。


「先日の新型機動歩兵しきしまの実戦投入について各国からクレームが来ており、当機体の運用は外交上厳しいと思われます」


 士官が見解を述べる。


「先制攻撃をしていないのに散々な言われようだな」


 総都から来たお偉いさんがぼやく。


「しきしまがなければあのオカルト国家に領土を盗られるとこだったんだぞ」


 もう一人のお偉いさんもぼやく。


「向こうに口達者な回し者でもいるのだろう。相変わらず東の奴らは印象操作が上手い」


 さらにもう一人のお偉いさんがぼやく。


「しかし愚痴だけ吐いていても何も解決しません。司令官はどうお考えですか?」


 士官が花咲基地司令官に話を振る。


「一度使ってしまった事実を覆す事はできない。政府が先送りにして見逃しているうちは使おうじゃないか。娘の乗っているしきしまはまだ実験段階で戦場に出したくはないが、あれなしでこの地を守るのは現実的ではない。総都からの派兵もいつまで駐留してくれるか分からん」


「では花咲ひまりの保釈申請を通し、しきしまを今後の作戦に組み込む指針でよろしいですね?」


「そうしてくれたまえ。しきしまの技術研究成果を戦争後に五大国と共有したいと打診しておけばいくらでも暴れさせてくれる。向こうもやっている事だ」


「しかし向こうは五大国との協定に加盟するとの噂があります」


「そうなる前に戦いを終わらせるのが今回の戦争の目的だ」


 花咲基地司令官は強い口調で言い放った。


   ○


 翌日。


 和雅国。森川学園部活棟機械研究部ガレージ。


 無事釈放されたひまりはこまりが作ってきたおにぎりを二人で食べていた。


「結局、任期付きで特務予備官になったの」


「そうなんだ。お姉ちゃんが軍隊……心配だなぁ」


「まあこうなった以上やるしかない」


「(お姉ちゃんより軍の人達がお姉ちゃんに迷惑かけられないか心配なんだよなぁ……)」


 こまりはひまりとその周囲の今後を憂いた。


   ○


 その日の午後。


 和雅国。山本基地仮設演習場管理棟。


「本日付けで特務二等予備官となりました。花咲ひまりです。先日まで一介の学生だったため至らぬところも多いでしょうがどうかよろしくお願い致します」


 パチパチパチ。と、花咲ひまり二等予備官は拍手で迎え入れられた。


「皆ももう知っているだろうが花咲二等予備官は先日のしきしま操縦者かつ開発技術者でもある。兵士としての階級は低いが国策上、その人命を優先される護衛対象である事を留意してくれたまえ。隊員全員がエース級で若き精鋭と評判の総都基地第三八機動歩兵小隊の君達を高く買っての配置だ。仲良く切磋琢磨してくれたまえ」


「「了解!」」


 簡単な紹介を済ませ上官は持ち場へ帰って行った。


 三八小隊の面々もひまりに向け簡単に自己紹介をした。


「佐藤あおい。小隊長で階級は中尉」


 ワンレンのロングヘアの佐藤小隊長は強気な口調で言った。


「平井みどり。副隊長で階級は少尉」


 セミロングヘアをツーサイドアップにくくった平井副隊長は朗らかな声で言った。


「田沼あかね。階級は少尉よ」


 ロングヘアをツインテールにまとめた田沼少尉は自信満々の口調で言った。


「宮本しろです。階級は曹長です」


 前髪の長いショートボブで小柄の宮本曹長は自信なさげな声で言った。


「よろしくお願い致します」


 ひまりは敬礼した。


 四人ともひまりと同じくらいの年齢の女の子だった。


 自分の配置になった部隊が同じ年頃の少女だけでひまりは少し安堵し緊張がほぐれた。


「あの……今から何をするんでしょうか?」


「今日は訓練がないから待機ね。待機の時は家や宿舎にいてもいいのだけど、総都から派遣されて来てからは、なんとなく皆ここに集まっているわ。外出にも制限があるし、基地が仮設だからWiFiが繋がっててくつろげる場所もここしかない」


 ここにいないと落ち着かないし、いるのが当然であるというのが小隊の面々の共通認識だった。


「そうなんですね。じゃあ私はこれで失礼します。隣の学園のガレージでしきしまの整備がしたいので。学園も今では軍の関連施設となったので外出許可も不要ですし」


「ちょっと待ちなさい」


 立ち去ろうとするひまりを佐藤小隊長が呼び止める。


「今からささやかながらあなたの歓迎会をしようと思っていたのだけど」


「そうだったんですか。待機だからこれで解散かと思いました」


「いや、これから仕事仲間になるわけだし少しは打ち解けようとか考えなかったの?」


「そう言われてみればそうですね。皆さんと打ち解けようとする事にします。歓迎会を企画してくださりありがとうございます」


「いえいえ」


「変わった子だとは聞いていたけど少し想像を超えたわ」


 ひまりは少し嫌気が差した。どこへ行ってもこう言った含みのある冷笑をされてしまう自分を呪った。


「食べ物はないけどジュースはあるよ。何が好き?」


「グレープの炭酸が好きです」


 歓迎会はつつがなく終わったが、小隊の面々はひまりの奔放さに振り回され疲弊し、ひまりはひまりで感覚が合わずに居心地の悪い時間を過ごした。


   ○


 和雅国山本基地仮設演習場。


 ひまりが軍属となって三日が経った。


 今日は体力作りの訓練。


 ひたすら演習場内を何周も走らされていた。


「ハァ……ハァ……」


 ひまりはすぐにバテてしまい周りの兵士より周回遅れを取っていた。


「どんなに息苦しくても足を止めるな! シャキッとしろ! 戦場でなす術もなく死にたくなかったらもっと必死に走れ!」


 佐藤小隊長が喝を入れる。


 機動歩兵の操縦士といえ身体にかかるGに耐える筋力と長時間の操作に耐える体幹と持久力と集中力を鍛えなくてはならない。


「よし!今日はここまで!」


「ハァハァ……」


 ひまりは日陰までのろのろ移動して芝生に倒れるように横になった。


「お前ほんと体力ないな」


 平井副隊長がせせら笑いながら言って支給品のスポーツドリンクを手渡す。


「私、もやしっ子なんでぇ〜」


「全く、こんな足手まといを護衛しながら戦うなんてとんだ災難だわ」


「あかねちゃん言い過ぎだよぉ」


 田沼少尉の小言に宮本曹長はフォローを入れる。


「もやしっ子をいくら走らせたところでもやしよ。大豆には育たない」


「田沼少尉……辛辣……」


 ひまりはボソッとぼやいた。


「もう。言い過ぎよあかねちゃん。ひまりちゃんは先日私達が来るまでこの基地を守ってくれた英雄よ」


「甘やかしてはいけませんよ。軍に入ったら階級が全てです。少尉まで戦果を上げた私がここ数日で入ってきた予備官を守るために命を張らなきゃいけないんですか」


「腑に落ちなくても現実を受け入れなくてはならない。田沼少尉」


「平井副隊長まで擁護するなら、もう何も言わないわ」


 田沼少尉は拗ねてどこかへ行ってしまった。


「(ちょっと悔しいな……)」


 ひまりは当然の扱いと受け入れつつ不遇な現状を嘆きたい気持ちをぐっと堪えた。


   ○


 和雅国。山本基地。


 ウーンウーン。


「緊急警報。総員、第一種戦闘配置」


「三八小隊は機動歩兵に搭乗し持ち場につけ!」


 山本基地。仮設本部棟地下作戦司令部室。


「敵は前回同様、東方から襲来。今回は機動歩兵およそ二〇機が輸送機に積載し田畑県上空を通過、山本基地に向かって南下中。森川山脈頂上付近まで接近し機動歩兵ごとパラシュート降下を開始、和雅軍の自動迎撃システムが作動するも撃墜数は二機です」


「パラシュート降下後。機動歩兵編隊は二列で山本基地包囲網を形成しようとしており三五から三七小隊で応戦中」


「三八小隊は遊撃を狙うため山脈西方秋野山麓付近の山陰に潜伏中」


 和雅国山本県森川山脈秋野山。


 和雅国陸軍機動歩兵三八小隊。


「敵は真っ正面から基地を狙いに来ているね」


 と、平井副隊長は言った。


「しきしまの事は既に向こうにも知れ渡っているだろうから我々は潜伏して隙を狙うしかない」


 と、佐藤隊長。


「なんで隠れる必要があるんですか?」


 と、ひまりが訊く。


「向こうはおそらくしきしまの鹵獲を目的としているわ。地理的に山脈を隔てて攻めにくい山本基地をミサイルによる空爆でなく機動歩兵を導入して再侵攻している。しかもこんな短いスパンで。それだけ相手にとって山本基地としきしまは総都占領の障害ってわけ」


 と、田沼少尉が補足する。


 ドドドドッ。


 三八小隊は銃撃を受けた。


「後ろから来た!」


 ひまりはバックモニターを確認するとやたら無駄のない軽やかな挙動の機動歩兵ふそう二機が現れた。


「麓の市街地側からどうやって!?」


 と、田沼少尉は困惑した。


「パラシュート降下時に撃墜を装っていたんだ!」


 と、平井副隊長が推察する。


「まずい! 挟まれた!」


 ひまりは横着かましているうちに敵に前後を取られ、銃口を突きつけられた。


ドドドドッ。


「うわぁああああっ!」


 機関銃で機体胴部のコックピットを重点的に狙い撃ちされ、機体は高温となっていく。


「くそっ! やめなさーい!」


 ドドドドッ。


 佐藤隊長と他の隊員が敵の二機へ射撃を行う。


 しかし弾丸は跳ね返る。


「もしやこれはっ……磁性反転シールド!?」


 佐藤隊長が推察する。


「実用化されていたんですね……」


 宮本曹長が恐れ慄く。


「どうすりゃいいのよ!」


 慌てふためく田沼少尉。


「あっ! 一つ策があるんだけど……」


「平井副隊長。教えてくれ」


「各敵の横に二機ずつ付いて、高速で周回するんです」


 佐藤隊長は少し長考した。


「……なるほど。良い案かもしれない」


「賛成だわ」


「私も賛成です」


 三八小隊の四人はしきしまに連続射撃しているふそうの左右に付き、左手根部に内臓された磁場発生装置を作動、強力な電磁波を発生させ、ふそうに向け左右両方から放ち互いに一八〇度ずつ反復する。


 ジリジリジリジリ。


「なるほど! たしかに名案だ」


 ひまりが勘づく。


 磁性反転シールドに磁性をぶつける事で反転させる算段だと。


 精密兵器破壊用のオプション機能を上手く応用している。


「これでどうだ!」


 ドドドドッ。


 佐藤隊長が磁性反転シールドが無効化した一瞬の隙を狙い右手のライフルを射撃した。


 ヒュイイインッ。


 しかし、ふそうはこれを回避。


「強い。もしやこいつら統一戦争の仁王!?」


 佐藤隊長が勘付く。


「あの仁王ですか? 大真栄のエース級パイロットの!?」


 宮本曹長が驚きつつ言った。


「だとしたら相手にとって不足なし!」


 と、田沼少尉が言い放つ。


 ドドドドッ。


 田沼少尉も佐藤隊長と同じ要領で射撃したが外してしまった。


 しかし、しきしまを仁王の集中攻撃から引き剥がす事はできた。


「ハァハァ……」


 ひまりは連続射撃の被弾の熱を浴びすぎて失神寸前となっている。


「こんなとこで……やられるわけにはいかない!」


すぐさま体勢を整え、原生巨木の陰に周り、ふそうを射撃する。


 後方は宮本曹長が付き、左右は平井副隊長と田沼少尉が付いた。


 これでまた二方向同時射撃の餌食になる事はない。


 ふそう二機はひまり達の射撃をうまく避けつつ、再攻撃の機会を伺う。


「やっぱり目的はしきしまの鹵獲か」


 佐藤隊長は勘繰る。


「そう易々と渡される気はありませんよ。皆さん5秒間だけ隙を作れますか? 新技術を使いたいんです」


「数はこちらが有利だし可能だ。お前ら二機ずつでふそうを囲おう」


 佐藤隊長達は敵を二機共囲った。


「ありがとうございます。V線レーザーを使います」


 ビュイイインッ。


 軍に配属後、しきしま頭部に新搭載した高エネルギーV線レーザーをふそうめがけ撃った。


 バァアアアンッ。


 ふそう一機の頭部が熱傷し破裂した。


「もう一機!」


 同じようにもう一機のふそう頭部にV線レーザーを照射し、当てた。


「これで攻撃駆動系は麻痺しました。とどめを刺します!」


 ライフルを構えたが、ふそう二機は後退りし逃げてしまった。


 ひまり達に足部の走行駆動系統を破壊する余裕はなかった。


 山本基地侵攻作戦の大真栄帝国軍は全軍撤退したらしい。


 ひまりは少々の火傷を負ったが、しきしまの特殊材料装甲のおかげで大事には至らず、しきしま機体も破損はあれど無事に防衛作戦を完了する事ができた。


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