山本基地防衛
西暦2025年。
竹閣諸島付近から発掘されたエネルギー資源を巡り和雅国と大真栄帝国は断交した。
大真栄帝国は和雅国からの経済制裁に対する報復として和雅国首都・総都を中心に各主要都市へミサイル攻撃を行う。
和雅国と大真栄帝国は交戦状態となり三ヶ月が経った。
○
和雅国山本県森川村。
集落の上を走る国道沿いにある森川学園のだだっ広いグラウンドに、山林を切り開いて建てられた部室棟へ、弁当の入った袋を片手にセーラー服姿の少女、花咲こまりがいそいそと駆け足で向かっていた。
こまりの向かった先は機械研究部の作業用ガレージだった。
「お姉ちゃん! 差し入れ持ってきたよ」
油まみれの作業服姿のこまりの姉、花咲ひまりが作業を止め振り向く。
「ありがとう。一緒に食べよう」
二人は折りたたみの軽量テーブルと椅子を広げて昼食を摂る。
部室棟の四階分が吹き抜けになったガレージには全長およそ一〇メートルの巨大な人型ロボット、機動歩兵しきしまが直立していた。
「お姉ちゃん凄いよ。こんな大きいロボットを作っちゃうなんて」
「軍部関係者の知り合いから研究資料と引き換えに試作機を譲ってもらって改良を加えただけだから一から作ったわけじゃないよ」
「それにしてもプログラムは新型なんでしょ。充分凄いよ」
「ありがとう。今日も起動実験するから記録手伝ってもらっていい?」
「もちろん」
ウーンウーン。
「警報だ!」
ひまりは窓から外の様子を確認すると学園に隣接する和雅国軍山本基地へ爆撃機能搭載ドローンの大群が猛スピードで特攻していた。
「まずい! お父さんが!」
山本基地では基地内総司令官の花咲姉妹の父、花咲英政が務めている。
轟音と共に山本基地から爆炎が上がった。
ドドドドッ。
森川村の集落と森川学園にも空爆が襲いかかる。
「うわぁああああ!」
ガレージの屋根に被弾し、こまりが悲鳴をあげる。
「しきしまに乗って。中の方が安全だから!」
花咲姉妹はしきしまに搭乗する。
「教習シミュレーション用に複座式になっているんだ。状況確認のため基地に行こう」
ウイーン。機動歩兵が起動し足部のキャタピラを全速力で走行させる。
基地は大規模な火災に見舞われた。
宿舎も官舎も倉庫も壊滅し、戦車や戦闘機、機動歩兵が迎撃できる状況ではなかった。
ひまりは地下に司令本部のある基地内中心部の棟へと向かった。
山本基地司令本部は地下にあったため戦火を免れた。
「和雅国製の機動歩兵を確認。回線を受電。繋げます」
「お父さん。私。ひまり。こまりも一緒に乗ってる。ドローン追い払うから火災を免れた武器貸して」
「ひまりか。軍人でないお前に弾を貸す事などできない。避難していろ」
「でもこのままじゃ負けちゃうよ。私、まだ死にたくない」
「司令官。戦況的にこのままでは応援部隊が到着する前に基地が陥落してしまいます」
「くっ……仕方ない。武器を貸す」
「ありがとう!」
ひまりはしきしまを地下格納庫に入れ、作業員から弾薬と機動歩兵用ライフルを譲り受け、しきしまの右手に装填した。
こまりは一旦降りて司令部に避難した。
「しきしま、発進します」
格納庫から射出され地上に降り立つとドローンが台風の雨嵐のように襲いかかってきた。
ドドドドッ。
標的追従型自爆プログラムによる特攻をかけてくるドローン達をしきしまの逆探知軌道演算システムで補足し、ライフルでくまなく全て迎撃する。
ゴゴゴゴッ。
ライフルの反動と、砲身の熱射と機動演算能OS冷却システムがフル稼働し、操縦席は轟音を立て振動する。
ドローンの大群はいくら撃墜しても新たに山の向こうからやってくる。
このままでは機体が熱暴走し溶解する恐れがあるが基地本部棟の地上部分が焼き払われてしまった。
地下司令部が首の皮一枚で繋がっている状態の今、一時退避は軍の全滅を意味する。
ひまりは父と妹を失いたくない一心で地下司令部を防衛する。
ドドドドッ。
敵のドローンを全機撃墜し終えた。
ハッチへ戻れ。機体を冷却する。
しきしまは一旦退がって格納庫へ入り、庫内のスプリンクラーを作動させ機体を冷却した。
「東方より高エネルギー反応確認。」
「ふそうが二機。こちらに向かってきています」
「ひまり。また出撃だ」
「うん。行ける」
しきしまの冷却は完了した。しかし、装甲のダメージはそのままだ。すなわち撃たれたら死ぬ。
敵の攻撃を受ける前に撃墜しなくてはならない。
しきしまは予備のライフルに代えて再出撃した。
先ほどと同じ地点の格納庫から出たため敵に位置は知られている。
ふそう二機は並走して一直線でこちらに向かってきている。
ドドドドッ。
敵が捕捉圏内に入りライフルを連射する。
しきしまは先手を取られてしまった。
山林に身を隠す。
どこから襲撃されるか予測のつかない敵は攻撃対象を基地へと切り替えられない。
そこまではひまりの計算通りの状況となった。
このままふそう一機を射撃してももう一機が基地を襲撃し陥落してしまう。
これから二機をほぼ同時に撃墜せねばならない。
「そうだ」と、ひまりは思いついた。
しきしまは急発進し、基地の方へ移動する。
ドドドドッ。
敵の迎撃を素早く避けて、基地の前へ行き着いた。
二機がまとめてかかってくる。
ドドドドッ。
二機をライフルで打ち返した。
標的は基地としきしまなのだから同位置に捕捉されれば、攻撃を返す方向も一直線に定まる。
基地司令室は地下にあるからここまで来ないと攻略できない。
しかし、相手もこれを読んで二手に分かれる。
ドドドドッ。
ふそうの二方向からの射撃により、しきしまは袋叩きにされる。
しきしまの装甲が限界を迎える。
「もう死ぬっ……」
ガコーンッ。
装甲が撃ち破られ、操縦席が剥き出しの状態になる。
そこへ容赦なく銃撃を浴びせられる。
キンキンキンキンキンッ。
「なんで私……無事なの?」
謎の金色に輝く光の粒達がひまりの盾となりふそうの銃撃を弾いている。
「なんだ。これは……」
山本基地司令室内でも困惑の声が上がった。
「(もしや、ひまりにも……あの力が……)」
花咲基地司令官は嫌な考察がふと頭をよぎる。
ブゥウウウン。ブゥウウウン。
和雅国の量産型機動歩兵やしま数機が西方の総都からやってくる。
「ひまり! 一旦下がれ! 総都から応援が到着した!」
と、花咲基地司令官がひまりに呼びかける。
「間に合った」
ひまりは地下格納庫へ一時退避した。
敵も和雅国軍の援軍に勝てないと判断し撤退した。
ひまりとしきしまは父と妹、そして和雅国の防衛の要所、山本基地を守ったのだった。
「しかし……あの光は一体……」
ひまりは生きた心地がしなかったが、あの謎の光には暖気とは違った心がほぐれていくような温もりを感じた。