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洞窟壁画

作者: 古数母守

 子供が洞窟で遊んでいた。ふと何かの気配を感じて子供は壁をじっと見つめた。そこには動物の絵があった。何の動物なのかはよくわからなかった。牛や馬かもしれない。とにかく四つ足の動物だった。

<僕ならもっとうまく描ける>

その子供は絵が得意だった。だがあいにく絵の具を持って来ている訳ではなかった。どうやって描いたのだろうと考えた。泥で描いたのかもしれない。そう思って子供は試しに壁に泥を塗りつけてみた。そして牛の姿を描いた。あまり、うまく描けなかったが、なんとなく牛の形はしていた。


 洞窟から帰って来た子供は壁に動物の絵が描かれていたことを母親に話した。母親は近所の人たちにそれを話した。その話が知れ渡り、まもなく学者がやって来た。

「これは旧石器時代に描かれたものに違いない」

学者は言った。驚くほど保存状態が良かった。人々が狩猟生活を営んでいた頃に描かれたものと推定された。いったい何のために描かれたのだろう? 狩猟の成功を祈るために描かれた。あるいはもっと深い宗教的な意味があった。若い世代に狩りを教えるために教育目的で描かれた。そんな論争が巻き起こっていた。部族の歴史が刻まれているのではないかという者もいた。


[論争の的になっている洞窟―――約二万年前―――]

「今日はお父さんにしっかり叱ってもらいますからね」

母親が子供を叱っていた。子供はうなだれていた。

「いったいどうしたんだい?」

父親が問いかけた。

「これを見てくださいな」

そう言って母親は壁の方に光を灯した。

「この子ったら、壁に赤や黄色の土を塗り付けて、いたずらして遊んでいるの。何のつもりか知らないけど」

そこには赤や黄色の土で動物が描かれていた。炭で黒く塗られている場合もあった。子供は絵が好きだった。その時、どうしても動物の絵を描きたいと思ったのだった。


[再び、現代]

「もうすでにこの時代に人類は美的感覚を持ち始めていたのかもしれません。原始に生きる人々の精神は私たちが想像する以上に発達していたのかもしれません」

あれから、洞窟壁画に関する論争が盛んに行われていた。現地を訪れる学者も増えた。その中の一人が、最近描かれたらしい動物の絵があるのを見つけた。

「誰だ? こんなところにいたずらするのは?」

これではせっかくの壁画が台無しになりかねないと学者はたいそう腹を立てていた。

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