騎士団は今日も残業です
「そうだろう。本来のアイリスは、優しくて愛らしくて可憐で清楚で小鳥の様な翼を持つ、純白の天使だぞ。俺も表向きのヨハンネス伯爵の顔に騙されていた。……フォルカー伯爵家のケヴィンと改めて婚約したと聞き、好き合って幸せになってくれるかと思っていたら、先日ケヴィンがアイリスの妹のピオニー嬢と婚約を結び直したと、とんでもない知らせが届いた。さらに驚いた事にアイリスがオイゲン侯爵へ売られると言う話が聞こえて来て、慌ててアイリスを助け出したんだ」
痛ましそうな表情で語るリヒターの話の内容に、ギルベルトとミヒャエルが衝撃を受けて憤る。
「略奪か⁈婚約者を奪ってエロ爺に売り飛ばすとか、性根が腐り果ててる!」
「ピオニー嬢の正体が嫌って程、理解できました。……可哀想なアイリス嬢。リヒター様、是非アイリス嬢を護ってあげて下さいよ」
「ああ、もちろんだ」
護る方は有能だが、恋愛ポンコツらしきリヒターに、そこはかとない不安を感じる。
ギルベルトは先程のリヒターの発言を思い出して、コホンと咳払いした。
「あー、先刻の酒場のおっさん的発言だが、その……ちゃんと節度を守るんだぞ?好きな女性と結婚できたからと言って、欲望のまま暴走するなよ?」
良くも悪くも猪突猛進なリヒターの行動力に釘を刺すと、リヒターは「もちろん」と力強く頷いた。
「赤ん坊が出来たら、アイリスに構ってもらえなくなる。そんなの泣く。暫くふたりきりでイチャイチャするんだ……!」
つける薬が無い程重症な副団長に、部下二人は、まあ面白いから良いか、と見守る事にした。
堅物のリヒターに、とにかく春が来たのだ。これはめでたい事だ。
「じゃあ、早く帰って奥さんと仲良くしてくれ。仕事を少し手伝ってやるから……ん?何だこれは?」
ギルベルトがリヒターの机にある書類を取ろうとして、一番上に置いてあった冊子に気付いた。
――〈素敵な夜をお約束♥紳士のナイトガウンカタログ〉
「…………」
「…………仕事中に、なんつーもの見てるんですか」
無言になったギルベルトの脇から、ひょいとミヒャエルが冊子を取り上げる。
呆れた眼差しを向けられたリヒターは、「すまん」と謝った。
「アイリスに素敵な旦那様♥と思われたいんだ。だが、そこに載ってる占いで俺に似合うガウンを占ったら、ヒョウ柄やリザード柄のレザーがお勧めでな……アイリスから怖がられそうな気がして悩んでいた」
確かに。一部の肉食系の女性にはウケそうだが、ごく普通の貴族のご令嬢には怯えられそうだ。
だが、リヒターにはワイルド系が似合うので、占いは外れてはいない。
真剣に苦悩するリヒターに向かって、部下二人は適当なアドバイスをした。
「ワイルドに、パンいちで良いんじゃないか」
「全裸に毛皮とか」
「――お前ら、面白がってるだろう⁈」
……ギャーギャー騒ぐサファイア騎士団の仕事は、遅遅として進んでいない。
愉快な部下と上司のせいで、今日も残業になりそうだった。
今回、いつも小説を読んでくださる方々への感謝も込めて、ゴールデン
ウイークのお供にお話を書いてみました。
ほのぼのラブコメです。
他の連載があるので、この続きはまた次のイベントの頃になると思い
ますが、楽しんでいただけると幸いです*