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長い夢の話



 そう、これは夢だ。

 目を開けた時、なぜか僕はそう思った。だってさっきまで病院のベッドの上で苦しくてナースコールを押したはずなのに。夜でもないのにここは真っ暗だ。


 身体が落ちていく中で、声がした。


「――おま……に、託し……い。俺はもう……でだ。あんなものはもう二度と、味わいたく……。お前なら、……を死なせず……。いや、好きにならずに……るか? ジュリエットに会わず、別々の――」


 これは死に瀕した最中での、夢なのか。若めな男の声で何かをか語りかける。でもあまりよく聞こえない。ただ悲しそうな声なのはわかる。



 さんざん苦しんだ後の、間。

 暗闇の中。


 僕はとにかくまだ呼吸が乱れていて、あまり目をしっかり開けられずにいた。意識が混濁したなか、苦しみからの助けを求めて、あいまいに頷いたような気がする。伸ばされた影は僕の額に触れて、なにかを植え付けて消えた。




 ――そんな夢を“この国”で十六になった今もなぜかずっと覚えている。僕が幼い時に、「病院にいた夢」をみたのか。それとも病院にいた僕が「今も」夢をみつづてるのか。どこかふわふわした感覚はずっと続く。なのにここでの生活は、ずっとリアルだった。

 

 イタリアのヴェローナにいながら、別のどころかの国で生きていたような気がしていた。三歳くらいの頭ではあまりはっきりしなかったけど、歳を重ねるごとに思い出して来た。


 僕のいた国は元々日本で、漢字やひらがながあって、それから電気やガスが当たり前にある。ここは、飲み水や下水の整備もまだ拙い。僕の中で日本で生きた十七年間を比べると、十四世紀イタリアの生き方は、全然違う。まぁ案外、慣れてしまったけど。


 ずっと普通に暮らしてるつもりだったけど、僕はどうしてかとんでもない家系に生まれてしまったらしい。

 

 7歳の時、のんびりモンタギュー家の一人息子として生きてきたけど、「ロミオ」と僕のことをみんなが呼ぶことに、突然、心に引っかかりを覚えた。ロミオって言えば、『ロミオとジュリエット』しか思いつかないけど、そんなことないよなって思うことにした。だけど、この町にジュリエットもいると聞いて、終わった。


 改めて、自分を眺めた。ロミオと僕のことを呼ぶ親や友人。鏡に映る僕は、明らかに日本人じゃない顔立ち。

 クリーム色の髪に灰色のような青ぽい眼で、少しくせ毛のセンター分け。鼻も日本人に比べれば高いし、どっから見ても欧州系だ。憎いことに、生きてた時より見た目はカッコイイ。僕が特別かっこいいわけでもなく、まわりのみんなも彫りが深くて絵画出みる綺麗な顔立ちなんだけど。

 

 

 どっちが本当の世界か分からずにいたけど、『ロミオとジュリエット』の話を知っている(・・・・・)なら、この世界の方が夢ってことなんだろう。

 暗闇で僕に話しかけた人は誰だったんだ? なんで僕がロミオに選ばれたのか。僕は入院中に読んだことはあるけど、たくさんある本の中の1つに過ぎない。少ししか覚えてないし。

 このままいけば、いずれこの町にいるジュリエットに出会い、お互い一目惚れして、あっという間に後を追い死んでしまうということになる。


 僕がジュリエットとね? 実感が湧かな過ぎる。そもそもなんなんだこの世界は。シェイクスピアの元にしたという、現実の叶わない恋をした二人の怨念が作り上げたとか?

「僕の名前はこうき。僕の名前は航生」


 ロミオになりたくなくて、自分の名前を呪文のように繰り返した。


「あーもう夢なら覚めてくれ!」



 


 

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