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2人の帰る場所②

例のスキー合宿だ。

スキー合宿に行くには授業料とは別に費用が掛かる。

スキーウェアやグッズのレンタル、宿泊費。合わせて約8万円。

仕事も順調になってきた将来有望な兄が支える神崎家の家計だが、残念ながらまだ一般的な家庭に比べると予算が乏しい。

それをナナは正確に理解していた。

兄ならば自分のために、より無理をしてしまうだろうことも。

だが、それはナナが求め、目指している光景とは程遠い。

だからこそ、不参加を譲らない。

譲るわけにはいかないのだ。

だが兄も、ナナに楽しい思い出を作って欲しいがために、自分が無理をしてでも参加させることを譲らない。


これは、ナナ史上初の、兄妹大喧嘩であった。


「お兄ちゃんの気持ちもわからなくもない。…でも体力使う仕事だから、もっと休むべき。

自営業で何の保証も無いからって頑張りすぎ。

お兄ちゃんイケメンなのに仕事を優先して彼女作らないようにしてるって知ってるんだから!


ここだけの話、お兄ちゃんはセンスあるから、これからぜったい成功すると思う。

だから今は、頑張りすぎたらダメ。ゆっくりでいい。

これからまだまだ頑張ることになる。無理は禁物。

HPを意識してSPスタミナは効率的に使わないと」


お互いに、相手のことを思う気持ちをぶつけ合う。

これまでにもしょうもない喧嘩はあったが、ここまで重大な内容の喧嘩をしたのは……重ねて言うが、ナナ史上初だ。

コウキもいつもより語気を強めていたが、ナナなんて目を眇めすぎてもはや瞑っている。


そして睨み合いが続いたが、それは互いに、相手に負担をかけてしまっていることを思い知るという、なんとも後味の悪い結果に終わった。

そもそも、両者がお互いを思い合っての喧嘩である。

相手を大切に思っているが故に主張がぶつかり合っているのだ。

睨んだところで、憎む気持ちなど一欠片たりとも持ち合わせてはいない。


結局すぐにいたたまれなくなったナナは、戦略的撤退を選択し自室に駆け込み、ベッドに潜り込んだ。

そしてしばらく唸り続けた末に、健康優良児であるナナはあっさりと眠りに落ちたのだった。




――そして冒頭の、両手両足を蠢かせる状態に至った。

これまでにない大きな喧嘩をしてしまったナナは、朝目覚めるやいなや兄への不平不満と申し訳なさで苦悶していたら、またもベッドから落ちた。

そして痛みにのたうち回った結果、こうなったのである。


少し落ち着いたナナは喧嘩のことを思い返しては「恥ずか死……」と呟く。

窓から見える真っ青な空、そののどかな広場をゆっくり散歩する、これまた真っ白な雲を目で追いかけながら思考を巡らせる。


(うう、どれもこれもお兄ちゃんが分からず屋なのが悪い気がしてきた。

朝からいろんなところが痛いし。

……でもあんなことがあったからさっきのダイナミックな奇跡が起きたのかもしれない……)


ナナは兄の至らないところをぶつぶつと呟くついでに、直接兄が関与していない朝の事件による体の痛みも兄のせいにしていたが、すぐに先ほどの奇跡を思い出して目を煌めかせた。


そして、ナナはさらに思考を深める。ナナは頭の回転が早く、発想が独特だ。

ナナの友人たちいわく、『よくわかんないけど、超すごい』らしい。

友人たちからはよく二度見されている。

ナナがよく考えた末に出した結論は回り回って紆余曲折を経てまるで予想もしなかったところに落ち着くことがあるのだ。


(私たち、大変なこともあるけど、いい家族だよね。今はまだ謝ってあげないけど、部活から帰ってきたら仲直りしてあげようかな)


などと、とても上から目線なことを考えて、ふふんと鼻を鳴らしたナナは勢いよく立ち上がる。


家事全般を担当しているナナにとって、よく帰宅したまま玄関で力尽きている兄は、いつまでも子供のような、手のかかる可愛い兄なのである。

ナナにとっての兄は、もちろんかっこいいところも沢山あるが、玄関で倒れているのが意外とデフォルトだったりする。

玄関の兄はちょっかいをかけにいくと、ちょっと嬉しそうに生き返るのだ。


喧嘩の原因となった事象は放置したまま、すっかりご機嫌になったナナは、今日の予定を考える。

今日は土曜日だが部活があるため、ナナは支度をして家を出ることにした。


(ちょっとまだ、『行ってきます』って言うのは悔しい。言わないで家を出よう。ふんっ)


と、まあ諦め悪く意地を張っているが。

仕方がないだろう。喧嘩中の兄妹にはよくあることだ。


こうしてナナ史上初の『いってきますを言わないで家を出る』を実行したナナは、ほんの少し憂いを帯びた表情のまま、学校に向かった。

なんだかんだで、ナナの中で兄という存在が占める領域は大きいのだ。






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