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もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜  作者: あまぞらりゅう


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31 東部の洪水

 帝国東部での大洪水は想定内の現象だった。

 その規模は過去に記録のないほどの大きさで、ほぼ全ての農作物に影響を及ぼした。これは過去六回と全く同じだ。


 レオナルドはこの災害には毎回心を痛めていたが、いくら帝国一の魔力を持つ彼でも、自然現象を防ぐことができなかった。毎回、復興と災害への事前準備に精を出すだけだ。

 皇后派閥の手前、予知を感じさせるような派手な振る舞いはできなかったが。


 それでも毎回なにかと皇后派閥から横槍が入り、復興作業が停滞することもあったが、今回からは違った。

 キアラが事前に小麦を買い占めてくれていたお陰で食料が滞りなく東部の民へ行き渡り、また二人の商会の連携で復興作業の手配も円滑に進められたのだ。


 それらの成果は誰が見ても文句の付けようもなく、皇太子の評判はますます上がっていった。

 これで帝国民の危機は回避できたと思われたのだが――……。




「反乱だって? 一体、なぜ?」


「それが、よく分からないのです。東部の領主から早馬で嘆願書が届いて、殿下に一刻も早く来ていただきたい、と……」と、アルヴィーノ侯爵も詳細が分からずに眉を下げる。


「レオナルド様、これは何らかの陰謀ですわよね……?」


「あぁ。君の想像通りに、また皇后が何かやったのだろうな」


 次から次へと悪知恵が働くな、とレオナルドは軽く舌打ちをした。

 キアラも頷いて、


「えぇ、そうとしか思えませんわ。現地で罠を張っているのでしょうね」


「だが、皇帝陛下の勅命とあらば、反対するわけにはいかない。――俺が向こうにいる間、君の警護は倍付けよう」


「そんな、私は今のままで問題ありませんわ。……有事の際は、魔女のマナを使いますから」


「それは駄目だ」


 珍しくレオナルドがキアラに鋭い視線を一瞬だけ向けて、彼女は思わず飛び上がりそうになった。

 普段は優しい婚約者でもたまに見せる軍人としての姿は、ぴりりと肌を刺すような緊張感を覚える。


「皇后は目聡い。どんな些細な事柄でも拾ってくる可能性が高い。だから、魔女のマナに関しては十分に警戒してくれ」


「……承知いたしました」と、キアラは首肯する。レオナルドの主張はもっともだと思った。


 彼女は、第二皇子と子爵令嬢に魅了魔法をかけている。

 今回は皇后派閥のマナの研究がどこまで進んでいるかを知りたかったのもあり、それは一時的な混乱を引き出せるだけで良かった。


 だから軽めの魔力量にしたので、そろそろ効果も切れるはずだ。

 皇太子と伯爵令嬢のスキャンダルは潰せて、さらに皇太子派閥は第二皇子に、キアラはマルティーナに恥をかかせたので成功だ。


 だが、皇后は少しの隙も見逃さないかもしれない。


 それに離れ離れになって皇太子という縦がなくなれば、どんな強引な手を使ってくるか。

 皇后は己の美貌のために、人間を生贄にするような女だ。おそらく手段は選ばないだろう。


「魔女の魔力を抑制するその指輪は必ず身に付けて、瞳の色を変化させる魔道具も忘れないように。効果が切れていないか、ジュリアに5分ごとに確認してもらいなさい」


「5分は……早過ぎなのでは?」


「なら10分だ」


「せめて1時間でしょうね。それも多いかも」


「……30分だ」


「要所要所で確認して貰いますから」


「……。絶対に闇魔法は使うなよ」


「心配性ですね」


「君を失いたくないからな」


「っ……!」


 婚約者の真っ直ぐすぎる言葉にキアラは頬を赤くするが、すぐに魔女のマナのことだと気付いて恥ずかしくなった。

 自分の価値は、この闇魔法のみ。だから皇太子と婚約をしたのだ。目的のための仮の婚約だ。


 ……もっともレオナルドとしては、キアラ自身のことを指しているのだが。




 翌朝、レオナルドは壮行会もせずに少数の騎士たちを率いて、再び東部へ向かった。万が一本当に反乱が起こった場合、大規模な軍隊だと刺激をする可能性があるからだ。


 皇都から東部まで通常なら馬車で一ヶ月、急いでも馬で二週間かかる。

 現地での反乱の鎮圧と事後処理、そして帰りの時間を考慮して、少なくとも約三ヶ月ほどは皇都で一人ぼっちなのだろうとキアラは思った。

 次の瞬間、自嘲気味に笑みを漏らす。


(ぼっち、って……。別に、契約の関係なのにね。それに過去六回もずっと一人きりだったから、慣れているし……)


 一人になっても商会の仕事で忙しいし、皇后の偽のマナの調査もあるし、特に構わないのだけれど……。

 何故か、キアラの心は妙な寂しさを覚えたのだった。







「なんでっ……! なんで、わたしが公爵令息なんかと一緒にならないといけないのよっ!?」


「それはこっちのセリフだ……!」


 それから半月もしないうちに、社交界を揺るがすとんでもない発表があった。


 第二皇子が婚約宣言をしたマルティーナ・ミア子爵令嬢が、なぜかダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息と婚姻を結んだのである。

 婚約もなく、速やかに。


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