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異界の喫茶店  作者: 睡魔ASMRer
0章 転生を通しての渇き
7/17

7話 ムーティア道中記3 慣れと錯覚

ベス虐ではないです特訓なんです。頑張れベスティ

 3日目、朝を迎える。

 寝不足+2日分の疲労もありぐっすり眠ることができて早朝から気分が良い。

 本日のメニューはパンと魔角鹿の骨から取った出汁ベースに近隣に生えてる食用キノコを使ったスープである。

 これに関しては転生後身につけた自身の知識と商会ギルドから持ち込んだキノコ図鑑が役に立った。

 図鑑といっても図解と特徴の箇条書きで物によっては判別しにくい。

 そのため判別しにくいものはあらかじめ除外することにした。

 食後に昨日と今日で大量に出た猪と鹿の脂肪分を鍋で加熱し油を採取する。

 諸々の準備を終えると進行を再開した。

 林道が整備されてるとはいえ地中にある木の根っこのせいで道はガタガタしており馬も上手く引けないことで少しストレスを感じてる様子だった。

 確かにムーティアと王都とを行き来で輸送する際この辺でスピードを落とし片道10日ペースで運ぶことが大半である。

 もっと木を切り土を均せば平野と変わらぬ進行速度を保てるだろうが200キロちょいの道全てを改善するのは中々大変である。

 それこそ王宮魔法師団のような人材が必須といえる。

 だが王国は近年まで南部にはあまり手をつけておらず王宮魔法師団を派遣すること自体あまりしてこなかった。

 今回の一件で南部の重要度が高まれば国を挙げて街道整備を行い経済活性化が見込める可能性がある。

 一商人としてはそうなって欲しいものである。

 途中近隣の村などへ続く分かれ道が出てくるが今通っているこの道は最南端の都市と王都を直接結ぶ際に作られた直線の道路である。

 それまでは各町村を繋いで南方へと続いていた曲がりくねった道だったという。

 実際、時折り廃道となったと見受けられる道などがいくつも交差して通り過ぎるのであった。

 午後以降は馬の様子を見て少しペースを落とすことになった。

 「そういえば盗賊の襲撃ありませんね?やはり王宮魔法師団のおかげなんでしょうか?」

 盗賊の襲撃、それは前世や今世限らず創作物としてよく作られてきた展開ではあるが実は多発してる案件である。

 理由は簡単、商人から奪って逃げてさえしまえば足を付けられることなく儲けをだせるからだ。

 だからこそ普段の輸送ならサーベイスギルドに依頼を出すところだが今回は王宮魔法師団小隊と同行のため依頼すら出していない。

 現に襲われても10秒足らずで全員拘束されることだろう。

 この3日間で嫌と言うほど分からせられた。

 「いや2回あったけどどれも未遂で終わってるな。」

 王宮魔法師団第二陣小隊長、ボーガン・グラファイトの言葉にゾッとする。

 「え、1回じゃなかったんですか!?」

 それに突っ込んだのは俺ではなくベスティだった。

 全員の視線が一斉にベスティへ向かった。

 ……口を滑らせた愚か者の末路は罰と称した特訓である。

 今度は短い時間のせいか負荷が上がり荷車一台まるまる持ち上げている。

 個人的には1回も分からなかったのだが彼が嘘を吐いてるとは思えなかった。

 「私は1回たりともわからなかったのですが、どこで狙われてました?」

 聞いた話によると1回は2日目の到着地点で夕方であり2回目はその深夜だったとのこと。

 こういう森は隠れる場所が多いからこそ彼らからしたら襲うには持ってこいの立地であろう。

 出入り口で待ち構えておけば森に逃げるにせよ平原を逃げるにせよ選びたい放題という訳である。

 近くに拠点を置き何日にも渡り待ち構えてるのは想像に容易かった。

 どうやら自分は平和ボケしているようである。

 「というかそれならベスティが2回目に気付けないのは致し方ないのでは?」

 ここで彼女が前日ぶっ倒れるように寝たのを思い出した。

 つまりこれは完全に罰の影響でありとばっちりに等しいといえる。

 だがそれについて帰ってきたのは意外な話だった。

 「ベスティ、お前にも知って貰わねば困るが、こういった罰をとばっちりだろうがなんだろうが与えるのはこれが魔法力向上の近道だからだ。

 向こうについてからも重大な業務からはお前は外される。

 必然的に空き時間も増えるだろう。

 そういう時にこの手の特訓も数を熟して早く強くなって貰わねばならん。

 王宮魔法師団員として早く一人前になってもらうためにな。」

 とんだスパルタ方式である。

 「……これって皆さんできるんですよね?」

 浮かせた荷車一台を引く2頭の馬を見て俺はそう尋ねる。

 「まぁ全員これくらいは朝飯前だな……。」

 「いえ、なんというかベスティの浮かせた荷車引いてる馬やけに軽そうだなと思いましてこれ皆さんで使えば早く移動できないかなと思いましてね。」

 荷車は計3台、王宮魔法師団は元も含めて9人、荷車一台につき3人の計算である。

 俺の発言を聞いて女性3人組が顔を青ざめさせた。

 ボーガンがその後何を言うか察したのだろう。

 「確かにそれもそうだな。1人一台ついて進行速度を上げる。シフトを組み上げる。」

 ベスティは罰としてシフトから除外、残り8人で2台を交互に持ち上げることにしたようだ。

 「なんだ思ったよりキツくないな。」

 一番手、ボーガンが呟いた。

 「昨日より重そうですけどね。」

 どうやら浮かすだけで後は馬任せで動かさずとも良いため集中力を必要としないらしい。

 「……。」

 ベスティは完全に黙り込んでいる。

 読めない、こいつのことはある程度知り尽くしたつもりではある。

 基本読みやすい性格をしているため必要とあらば飴と鞭を使い分けこいつと接してきた。

 集中力要らない状況なら彼女なら陽気に周りと接して自身を少しでも周りの心象良く魅せる努力をする人間だったはずだ。

 結局何も発することなく野営の時間がやってきてしまった。

 今回は森での野営となる。

 そして目の前で繰り広げられてるのは魔法を使った森林伐採であった。

 町村の管轄の土地でなければ誰が森を切り拓こうと法令違反になることはない。

 前世ではありとあらゆる土地は基本どこかの所有物のため自由に切り拓くなどあまり聞いたことがない。

 切り拓くなんてまるで屯田兵である。

 地面を隆起させ力技で木をへし折る者、高圧の水で木を切り裂く者、拳一つでへし折る者多種多様な方法でものの10分後には抜根作業へと移り変わっていた。

 流石にここまで見せつけられていたためこれくらい余裕なんだろうなとは思っていた。

 抜根した根で火を起こそうとするとヘリヤ・コーネリアに止められた。

 「待つっす。生木は燃えにくいし燃やすと煙がやばいっす。ここは自分が……。」

 そういうと1尺程度の短尺杖を取り出して魔法を唱えた。

 「アイシードア(水分凝固魔法)

 対象を凍り付かせる魔法で根から根と同じ大きさの氷がせり出した。

 「ほぉこんなに水分あるもんなんですね。」

 氷は確か水より密度が軽く体積が大きいはずだから水分凍り付かせて取り出したら取り出し元と同じ大きさというのも納得できないこともない。

 今の今まで見たことないため純粋に驚きである。

 3日目夕飯も魔角鹿が出てきたためそれを調理しいただくことになった。

 「ペース的には順調ですかね?」

 食事中、俺はふと気になったことを聞いてみた。

 「そうだな。恐らく順調だ。」

 「午後仰っていたベスティに特訓させる話って明日以降もやらせますか?」

 順調と言う話ならと1つ提案するために聞いた。

 「本人次第……だな……。」

 全員の視線がベスティへ向く。

 「うっ……。」

 返答に詰まっているようである。

 この反応は読める。恐らく休みたいがそうは弱音を吐ける状況ではなく言い出せない状態である。

 この状態なら無理はさせられないだろう。

 「休ませた方がいいなら良いです。」

 断りを入れて彼女への負担を無くすように決めた。

 「……何を考えていたのだ?」

 俺が何かを企んでいるとバレたのだろう。

 俺は答えるか迷いこそしたが答えることにした。

 「いえ今日切り倒した大量の木材売れそうだなと思いましてね。

 農耕馬とはいえ荷車無しじゃ数本が限界でしょうしそれならと思いまして……。」

 今度は全員の視線が背後に山のように積まれた原木に集まる。

 「確かにこのままは勿体ないな。」

 話し合いの結果、今回は半分無しになった。理由は簡単、農耕馬に引かせる分以外をここで使ってしまうという話になったからである。

 農耕馬に引かせる分はベスティが浮かせると言う話で纏まった。

 魂の抜けたベスティが自身のテントへと帰っていった。

 それを合図に皆が皆、自身のテントへと帰っていった。

 俺はその後ゲイル・アードアと協力して作業を進めていた。

 野営で木々を大量に使うなど限られてくる。

 だが1つお手軽で尚且つとても大事な作業があった。

 ゲイルに手伝ってもらうことは木々を細かくすることと肉を狩って捌いて量産してもらう事だ。

 そう燻製肉の量産という話になったのだ。

 拳3発ほどで一本の原木が全てチップへと変わっていく様はギャグ漫画でしか見れなさそうな光景だった。

 そうして散らばった大量のチップをかき集め火を焚き煙をだす。生木なので煙ボウボウであるが燻す分にはこれで十分だ。

 燻してる間に一頭狩って来てもらい、捌いてる間に捌き終えた物から吊るしていきまた燻す。チップが無くなるまでこれの繰り返しである。

 全て終わる頃には魔角鹿5頭が犠牲になっていた。






 翌日、誰よりも早起きし木々を紐で縛っていく。

 ヘリヤが起きてきた時点で残っている木6本の乾燥をお願いした。

 残した木はどれよりも太く真っ直ぐな方のやつである。

 所謂、建築向きの原木である。

 その間、ハイネ先輩には干しておいた燻製肉をひたすら綺麗な布に包んでは荷車に乗せていってもらっていた。

 「なんですかこの量は……。」

 ハイネ先輩ドン引きである。

 「今後も増えますよ。」

 にっこり俺は答える。

 「いやもう麻布ないですって……。」

 「……本当ですか!? 」

 今回の肉で自由に使える布全て消費し切ったのだ。

 後3日、この方法で売り物確保する計画は初日で潰えることになった。

 朝食も取り終わり片付けも済ませて4日目の進行開始である。

 ここで王宮魔法師団側にある提案をした。

 「浮かせるやつって別に体は自由なんですよね?ならベスティの体だけでも休ませてあげられますか? 浮かせてる木なんかに乗れば馬も嫌がらないでしょうし。」

 ボーガンは少し考えるとそれを許諾した。

 「ベスティ団員に肉体的休養を許可する。」

 ベスティが涙をボロボロこぼし始めた。

 毎日浮かせながら歩くというのは相当きつかったのだろう。

 4日目の進行も順調に進んでいた。

 順調すぎるほどに……馬のペースが早くて絶賛早歩き中である。

 手綱を抑えればゆっくりはしてくれるのだがボーガンの要望によりこのペースを維持することになった。脱落者が現れた場合はベスティが浮かしている丸太に乗せられる。昼過ぎ、2時間後俺も限界を迎えて王宮魔法師団の飛行を受けて乗せられた。

 急いだ末に夕刻に辿り着いた先は川だった。

 ここはテハスト運河、河口の川幅130メートルの巨大運河である。

 今いるところの川幅はせいぜい20メートルといったところだろう。

 それでも十分でかい。

 だが川は下手すると森より危険だという。

 ここには鰐っぽい魔獣のジャウダイルや鮫っぽい魔獣のジャウークなどが生息する。

 こいつらは会ったことない俺でもやべぇと知ってる生き物である。

 岩すらものともせず噛み砕くワニとそんなワニが持つ鋼鉄のような鱗を主食にする小型サメである。

 ワニは陸上で活動できるためここら辺は夜間の見張りは倍の人数を用意するのが提唱されるほどである。

 だが見張り関係は王宮魔法師団に完全に任せていれば問題ないというのは心強い。

 ここに生息する生物がやばいと分かっているが多分この人たちなら余裕で対処できるだろう。

 現にゲイルがいつものように肉としてジャウダイルを……。

 「ジャウダイル!? 」

 俺は驚き後ろに転倒し尻もちを突いてしまった。

 「なんだどうした? こいつの肉は美味いぞぉ? 」

 よく見ると上着を完全に脱ぎ去りびしょ濡れである。

 「あのどこでそれを? 」

 聞くまでもなく分かることをつい聞いてしまう。

 「どこって川に生息しとるんだから川に決まっておるだろう。お前さん頭良いんじゃなかったのか? 」

 川で、しかもこの様子恐らく泳ぎながら狩ってきたのだろう。

 水中なら人間なんてワニの餌でしかないはず……そういえば王宮魔法師団員に人間という規格は狭すぎることを何度も見てきたはずだ。

 いつからジャウダイルに水中では勝てないと錯覚していたのだろうか……。

 「今日のお肉ってことですかね? 初めて食べます。」

 大人しく現実を受け入れれば何も悩む必要性はなかった。

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