6話 ムーティア道中記2 女子会と罰ゲーム
日常回風味のナニカ……なんだろうねこの話……日常風味の道中記ってことで……。
「……では私はこれにて失礼します。」
開始早々すっと逃げようとしたが逃げられる訳もなく。
「高さ5メートル、そっから無傷で帰れるならどうぞご自由に……。」
フォンナ・ボーティの言葉が突き刺さり立ち止まった。
旅はまだ初日が終わったところである。怪我なんてしようものなら馬のお世話になるしかない。
着いてからも怪我はつきまとうし5メートルとなれば当たりどころ悪ければ死すらあり得る。
大人しく参加する他なかった。
「でなんで私が呼ばれたのでしょうか?」
純粋な疑問を投げかけた。
「???なんとなく?そもそもみんな君に興味あったんだよね。有望な新人が推す若き商会のエースって子に……。」
パイル・セネドラが答えた。
「まぁ契約に際しての会議で一悶着ありましたっすしねぇ。アリシア先輩とベスティの問答はバチバチしてたっすよねぇ。」
「アリシアさんというとフォンナさんが席を奪い取ったって言ってた方ですよね?」
「そそ。」
ヘリヤ・コーネリアに何があったか聞かされていた。
そもそも本来指名する予定はなく契約すると話が取りまとめられ始めた頃に突如としてベスティが推薦人として熱弁、賛同人が思いの外多いため議題として上がり……反対派代表のアリシアと賛成派代表のベスティが熱弁合戦を繰り返した末、団長の一声で決まったとのことだった。
「……とまぁこんな経緯でして、自身の進退賭けてでも推します!の一言には痺れたっすよね!」
「分かる〜ベスティが一瞬男に見えたもの。」
ヘリヤの発言にパイルが賛同した。
「一応私は反対派、だから君の能力低ければアリシア先輩に報告するからよろしく。」
フォンナは反対派だったようである。
そこから話は俺とベスティの学生時代に話が飛ぶ。
「で??2人が知り合ってライバル意識し始めたのどこらへん?」
「気になる……アリシア先輩への報告ネタ枯渇してるから話せ。」
出会いは最初の成績発表に遡り俺は全教科満点で過去の人生含めて初めて学年一位を獲得した時である。
発表終わって教室へ戻ると隣から顔も知らぬ女子が他人の目すら気にせずずかずかと入ってきて頭下げだしたのだ。
これが俺とベスティの出会いである。
勉強を教えることになり放課後、1時間、を毎日付き合っていた。
俺としては他者に自身の理解したことを教える形を取ると定着効率が良いことを理解していたための行動のつもりだったが2回目の成績発表後なぜかライバル宣言、そっからは教えることなく成績で競い合ってくるようになった。
「はぁ青春してますなぁ。というか彼氏彼女の関係にはならなかったの?」
ウキウキしてパイルは聞いてくるがそもそも当時の俺は人生設計を何度も脳内で試算していたのだ。
ベスティも勉学で一位取ることに固執し始めたため知り合って仲良くはなれど恋愛に発展することはあり得なかった。
「うーん?じゃあなぜあぁまでして推薦したんすか?てっきり……「私なんかより優秀だからじゃないですか。他意はないです。」
食い気味に批判されるとそれはそれで悲しいものである。
「そういうことにしておくっすけど怪しいっすよね。パイル先輩!」
「そうねぇフォンナ。」
「他意ありまくりね。」
どうやら賛同リレーはお家芸らしい。
完全にベスティが追い込まれていた。
「そんなことで自身の進退を賭けませんから。」
そんなこんなでこの話はここで終わり、話題は第一小隊へ移る。
王宮魔法師団に在籍している方の話の流れで第一小隊メンバーに飛び火した形である。
「そうそう。決定下した団長も今回の作戦に参加してるから顔合わせる機会あるかもね覚悟しといて下さい。」
「覚悟した方が良いっす。」
「腹括れ。」
3人とも顔を青ざめさせたためベスティに聞くことにした。
「どんな方?」
「えっと……凄く強い。多分ここの4人が結託しても一蹴されて後はフルボッコで負けるかな。彼女自身が指導に回った際は容赦ない扱きにヘリヤ先輩や私は泣かされたこともある。」
訓練とはいえ反骨精神のあるベスティの心を折るとは相当な腕前のお方のようである。
「あれは人間技じゃないっす。なんで複数の魔法をあの速度で断続的に発動できるんすかね。」
「それほどの強さの人が護衛につくとかあのゴミ大臣は幸せ者だな。」
先程からフォンナの口調がかなりきついがゴミ大臣で思い当たる大臣が1人、確かにいた。
「エウデア外務大臣……ですか。」
この国の外務大臣はかなり保身的な人物である。
自身の家に保身的すぎて彼が取り付けた北側諸国との輸出入契約で我が国の農家と鉱山に大打撃を与えたのは記憶に新しかった。
その後王命で保証金をだしたことでことなきを得たがあれが原因で農家が飢え死んだら大問題である。
「まぁ今回は相手国へ書状を渡すだけだから大丈夫だと思うけど……大丈夫よね?」
「私に聞かないで。」
「私が知る訳ないじゃないっすか。」
「……ここでこそ首席に聞くべきでは?」
ベスティの一言で一斉に視線がこちらへ向く。
「……あの大臣のことだから他国の特産品聞いて外交関係結ぼうとするんじゃないんですかね。
今回の話って自国民が殺害されたことに起因してるので悪手も悪手だと思いますけど彼ならそれくらいしてもおかしくないかと。」
自身の見解を述べると4人とも顔色を変えた。
「団長、あのデブ止めてくれ。」
「止めないと他国にいいように解釈されるっす。」
「嫌な想像してしまったわ。」
酷い言いようであるが正直あの大臣には同意できない。
それもこれも過去の失策の数々が原因だから致し方ない。
「ちなみにですけどそのエウデア大臣からスカウト来たこともあります。」
ちなみに大臣は辺境伯であり家柄最重視の思考である。
無論名家でもない俺は相当低く見られてなんなら半分命令口調でスカウトしてきたためヴァーミリオン公爵の名を出し断った。
「ヴァーミリオン公爵もスカウトしてたのか。」
「ツェリー・ヴォー・ヴァーミリオン子息ですね。書記官としての雇用を提案されましたがそちらも断りました。」
4人とも呆れた顔でこちらを見ている。
「普通そんな提案断らないわよ。」
「勿体ないっす。」
「なぜ断った。」
前世の後悔故とは言えないため言葉を濁す。
「将来設計の結果です。家継ぐことまで考えた結果商会ギルド職員を希望したまでです。」
家なんて捨ててまでそちらを取るべきと言わんばかりの視線は無視する。
「ねぇベスティ、こいつ変人?」
「おかしいっす。高名貴族のお抱えになれるというのに断るの本当におかしいっす。」
「親思いってことかしら?そういうことにしましょう。でなければ意味が分からないわ。」
思い思いに言いたい放題である。
「同級生の貴族に媚びてないし元から権力に対して欲ないんですよ多分……。」
ベスティまでこの始末である。
ちなみに権力への欲はある。
だからこそ商人で貴族と取引増やして関係先に名前が常に上がるように立ち回る予定ではあった。
結果として指名出張で距離を置くことになったがこれも若いうちの経験として受け入れる所存である。
結果として打ち解け合うことができた。
少し偏見持たれたが……その辺は月日重ねて修正させていこう。
翌日見事に睡眠不足に陥っていた。
現在朝食の支度中である。
「クーネルさん眠いんですか?まさか夜遅くまで勉強を?」
ハイネ先輩は俺を生涯現役系ガリ勉とでも思っているのだろうか……。
「読書に夢中になって眠り損ねました。」
無論嘘である。実際はあの後魔女4人に安全装置など存在しないジェットコースターのような飛行に付き合わされて恐怖心が抜けきれず眠れない体にされてしまったためである。
口は災いの元を身をもって体験した訳だ……。
朝食の用意を終えると仮拠点やら仮設テントやら全てが魔法によって解体され元の平原になっていた。
朝食は大量に作り置いた前日のスープを温め直したやつに前日の猪肉を燻製にして保存可能にさせた肉、それとパンである。
完成し器に注ぎ終え、さぁ食べようのタイミングでお寝坊さんが1人起きてきた。
ベスティである。
無言の朝食を終えるとボーガンの指示もとい指導を受けベスティは罰ゲームを受けながらの出発になった。
限界まで魔法で王宮魔法師団全員の荷物を浮かせて運ぶ罰である。
「……これってどれくらい大変なんですか?」
口は災いの元と知っておきながら知識欲が湧いてきた。
一見地味なそれがどれだけ大変か魔法をあまり扱えない自分には理解できないからである。
「……黙ってて。」
ベスティからの返答はこれだった。
「あーあれね。そうねぇ魔力で物を支えるってそれだけで一定の技術いて〜それで重ければ重いほど持ち上げにくくて〜常に集中して魔力操作行わないといけないわね。
これの重力増やせれば増やせるだけ負荷がかかり熟した後の飛行能力向上が見込めるわ。
長時間やればやるほど魔力操作の集中力が上がり魔法全般の訓練にもなる。」
どうやら結構実用的な特訓といった感じらしい。
「……ただ、魔力消費は激しいし疲労の蓄積は全力疾走し続けるモノだから彼女は一体いつまで保つかしらね。それと今回は限界までとのことだから多分終わったら身動き取れずウマの世話になるわね。」
サラッとゾッとさせるような内容を教えられた。
良い特訓になる罰だけど普段の業務考えるとそうお手軽に行えない特訓といった感じだろう。
2日目の旅路では平原の終着、こっから林道に差し掛かる手前で終わることになった。
王都から約115キロメートルあたりである。
全体の3分の1ではあるのだがここから先はずっと林道であり進行ペースが鈍ることを考えれば7日目夕方につけば上出来といったところだろう。
そして野営の準備を終わらせているとゲイル・アードアがまたしれっと獣を狩ってきていた。
今度は魔角鹿である。
こいつの角は杖、錬成術の素材や磨けば宝石にもなり得るかなり商品価値の高い一品である。
だが問題はこいつがとてつもなく脚力、跳躍力に優れているため素早く罠なんてお構いなしで破壊して中々捕えられないことである。
それを一頭とはいえ10分足らずで索敵、仕留め、持ち帰るまでを済ませてしまうのだから相変わらずでたらめな御仁である。
もしや市場に出回っている魔角鹿の角の大半は王宮魔法師団からの売却なのではと思えてならなかった。
「おい。魔角いくらで買い取る?」
ゲイル自身が手際良く解体してる最中に角を切り出して差し出してきた。
血濡れたそれを受け取らず答える。
「今すぐお金必要でしたら取引いたしますが着いてからでよろしいのではないでしょうか?後それ王宮魔法師団必要な素材なんじゃないんですか?」
今は買い取らないと伝えると邪魔と言わんばかりに背後に投げて捌きを再開し出した。
「こんなもの必要な時に狩りにいけばよかろうて……。まぁ今金は要らんしお前さんの言う通りだな。おい半人前!これの血洗ってしまっておけ!」
半人前、それだけで誰か分かってしまうのは少しくるモノがあった。
当の本人が杖を支柱に這いずり歩いてくる。
「承知、いたし、ました……。」
見てるだけで不安になる。
声を掛けようとしたが掛ける言葉が見つからない。
言葉が出てこないので洗うための道具を貸し出すことにした。
何も言わずに桶と布切れを角の側に置き、桶に水を注いだ。
夕飯を済ませ自由時間になると前日読みきれなかった本を読む。
寝る前にふと気になり外に出るとやはりベスティ抜きで女子会が行われていた。
毎晩開くと話題が尽きそうなものだが彼女らは永遠と話せる人間なのだろう。
外の空気も吸い背伸びもし終え水分も補給し万全の体勢で眠りについた。
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