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異界の喫茶店  作者: 睡魔ASMRer
0章 転生を通しての渇き
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5話 ムーティア道中記1 王宮魔法師団

長尺杖適当に造語したんですけど、大体5尺くらいをイメージして下さい。

 目的地に向けて歩き始めて早々に王宮魔法師団員全員と挨拶を交わす流れとなった。

 「改めてボーガン・グラファイトだ。一応伯爵家だが王宮魔法師団は完全な実力至上主義、現に団長は子爵かつ女性だ。

 ここには貴族ばかりだがここには実力あっての在籍となる。敬語も不要だ。ボーガンとでも呼んでくれ。よろしく頼む。皆も自己紹介しとけ。」

 「はいはい!自分ヘリヤ・コーネリアっす!

 得意魔法は水系統の幻影っす!よろしくお願いするっす!」

 我先にと小柄で活発な女性が挨拶してきた。

 しれっと魔法で生成した水を商会ギルドの馬に与えて手懐けている。

 「クラウド・エフ・フォーリア、公爵家の面汚しです。」

 今度は体格が良い男性が自虐混じりで挨拶してきて反応に困る。

 だがそんなことは次の自己紹介で吹き飛んでしまう。

 「小隊の副隊長やってるフォンナ・ボーティ。どうぞよろしく。」

 ボソボソとか細い声で流された情報に脳の処理が追いつかずつい質問を返してしまった。

 「フォンナさんも貴族?ボーティと言いますともしかしてご家族がフラッツ男爵子息と婚約されたボーティ伯爵で合ってますでしょうか?」

 俺が発した内容に周りが驚愕の眼差しを向けてきた。

 「あら?詳しいのね。まだ公表すらされてなかったはずだけどその通りよ。」

 ここで自身のやらかしに気がつく。

 婚約がなされたことは聞いた日から5日経ってもまだ公表されてなかったのだ。

 「ほうほう。流石首席で卒業なされた商人。情報網、広いですな。」

 関心するクラウドに反して自身からは乾いた笑いしかでてこない。

 「ぶっちゃけると私あの人嫌いなのよね。ガサツで声も五月蝿く初対面から距離感近すぎる人……。」

 フォンナはどうやらライナスと面識があるようだ。

 だがそれも次の言葉で裏切られることとなる。

 「だからアリシア先輩から無理矢理席ぶんどって逃げてきた。」

 ボソボソとか細いながらもとんでも発言連発である。

 つまりこの人がライナスの婚約者のボーティ伯爵三女でありそしたライナスを毛嫌いしているようである。

 「あ、あのぉこの後私たち自己紹介し辛いのですけど……どうしてくれるんですか?」

 ずっと静観していたベスティがついに我慢できなくなり突っ込む。

 「あんたは別に初対面じゃないから良いでしょ。5日前もうきうきで……「それは今関係ないかと!」

 何やら興奮した様子で声を荒げるベスティに俺は少し引いていた。

 彼女は何に対しても一生懸命で情熱的であるが故に声を荒げる段階は危険信号である。

 「ほらベスティ……落ち着けよ……な?とりあえず貴方からお名前教えていただいてよろしいでしょうか?」

 咄嗟にベスティの隣にいた男性に無理矢理振った。

 「え?あ、あぁ僕はガーディ・パーディア、この中ではベスティと僕だけが貴族じゃないね、よろしく。僕は北部のセネドラ出身です。」

 唐突な振りにも見事答えて自己紹介をしてくれたので軽く返した。

 「セネドラといえば低めの山脈が連なっていて鉱石採掘とかが主産業でしたよね?商人としてお恥ずかしいながら行ったことないんですよね。」

 少しでも場の空気柔らかくなればと思って転生後1番勉強に力入れることになった地理の知識がここで役に立った。

 「そうです。まぁ山とヤギ以外ほんと何もないところなんですけどね。そんなところで育ったせいか土系統の魔法が得意です。野営時に披露できると思います。」

 この肉体は父方似のせいかあまり魔法に才覚がないようなので魔法を扱えるのはそれだけで羨ましい限りである。

 野営が少し楽しみになった。

 「じゃあ次自分が……。私はパイル・セネドラです。名字で分かると思いますがセネドラ辺境伯の令嬢やらせていただいております。私はこれといった得意不得意はなく満遍なく鍛えて参りました。」

 今気がついたが流石歴戦と例えられる王宮魔法師団員達、誰もが自信に満ち溢れておりそれなのにどこか謙虚さすら垣間見えるのである。

 商人の中には自信喪失した輩がちょくちょく湧くのでこうも全員が全員自信家なのはちょっと新鮮である。

 「ゲイル・アードア、強化魔法が得意だ。この中で最年長の45だ。よろしく。」

 差し出された手を握り挨拶する。

 その腕には無数の切り傷、何より筋骨隆々で少し困惑する。

 「筋肉も鍛えてらっしゃるのですか?」

 ふと質問すると笑いながら教えてくれた。

 「ふははは俺を知らんのか……まぁそんなものか。俺は強化魔法が得意と言ったろ?そのまんまで肉体強化して暴れ回るのよ。西南部のカセドラで発生したスタンピード沈めたんだがなぁ……まだ日が浅く歴史書には載らんかぁ……。」

 ここで少し脳内のピースがハマる音がした。

 20年前の西南部のスタンピード、それをたった1人で沈めた武勇伝記が家にあったからだ。

 だが名は載っていなかった。

 「その話なら武勇伝記が家にあって読みました。狼系の魔獣の大群で統率の取れた動きが厄介なスタンピードとお聞きしております。

 名は載ってなかったのですが貴方だったんですね。

 ちゃんと調べず申し訳ないです。」

 無知を謝罪するとさらに声高らかに笑い背中をバシバシ叩きながら教えてくれた。

 「それ書いたの俺だ。……ふはははは。ありゃな武勇伝記と見せかけた指南書だ。

 魔獣たちの急所、噛まれた時の対処法、その後の病魔の危険性とその対処それらを武勇伝記に忍ばせてある。

 パッと読んだだけじゃ気づかんほど巧妙にな、ふははは後で読み直すといい。」

 常に上機嫌な方であった。

 「で王宮魔道具開発局のチャイル・ポーツマスです。元王宮魔法師団員でしたが10年前、王宮魔道具開発局を併設するとなった際に王宮魔法師団から5人移動となったうちの1人です。

 なので一応戦えます。得意魔法は錬成術と火と水系統あたりですかね。よろしく。」

 王宮魔法師団8名、王宮魔道具開発局1名全員の自己紹介が終わった。

 相手側が終わったとなればこちら側である。

 「では私も再度……クーネル・ボスティマフティアです。名字呼び辛いのでクーネルとお呼び下さい。知っての通り首席でしたが魔法の才はありません。知識は蓄えてるつもりなので何かありましたら頼って下さい。まぁベスティの知識量で足りないことはまずあり得ませんけどね。」

 どこか鼻が高そうな同級生を置いてハイネ先輩に挨拶を促した。

 「ご、ごごご機嫌麗しうごごご、ございます。はは、ハイネ・ぐ、グライツです。」

 がっちがちに緊張していた。

 無理もない。自分は学校生活で慣れたが有名貴族ばかりである。

 ハイネ先輩は俺と同じ普通の家庭、ちょっと頭の良い学校卒業、名家は通えど貴族との面識は皆無である。

 「ハイネ先輩、貴族相手だからって緊張することないですって。王族相手なら不敬罪で処罰対象になり得ますがここでは大丈夫ですから。私の助手として自信満々に……ほら!」

 そう発破をかけ水を手渡すとぐびぐびと飲み干し深い深呼吸をした。

 「ハイネ・グライツ、25。

 助手として身を粉にして働かせていただきます。商会側に何かありましたら私を訪ねてください。」

 まだ口調は堅苦しいながらも詰まることなく自己紹介を終えた。

 もう平野をかなり進みもう王都は見えない。

 だがまだ旅路の0.1%も進んでいないのである。





 出発から12時間後、夕暮れが迫り出したあたりで野営の準備に取り掛かった。

 商会側は仮設テントの準備をしようとしたらガーディ・パーディアに制止された。

 何やら魔法陣を特殊なチョークで描き錫杖のような変わった杖を取り出して短く詠唱した。

 「土創造物生成魔法(クリエイティ・アース)

 魔法陣に記された情報を元にモコモコと地面が膨れ上がりあっという間に人1人が寝泊まりできる仮設テントの完成である。

 「おぉ。テント、要らなかったですね。」

 「そう、ですね。」

 驚いてる裏で他の人たちも同じ魔法を発動させてモコモコあっという間に建てていた。

 どうやら彼らにとっては基本的な魔法らしい。

 ハイネの分もガーディがサクっと作ると今度はテント群から少し離れた位置に何やらでかい魔法陣を描き始めた。

 それ以外の王宮魔法師団員はというとその間にも仮設トイレ、調理場や水桶等の準備を始めていた。

 手際が良すぎて完全に2名置いてけぼりである。

 慌てて調理器具や食糧を荷車より取り出す。

 そうこうしているうちにゲイル・アードアが猪型魔獣、プレーリーボアを2匹担いで帰ってきていた。

 こんなだだっ広い草原のどこにそんな魔獣がいたのか突っ込みたくなったが彼らにとってはこれくらい朝飯前なのだろう。

 そして調理開始し始めた頃響いたゴゴゴゴゴという轟音に驚き背後を見ると……ガーディが豪邸のような仮拠点を完成させていた。

 なんでも上位魔獣の咆哮が鳴り響いた際の避難所にもなるとのこと。

 建築後は強化魔法を組み込み硬質化させていた。

 商会ギルド2名は初めて目撃する王宮魔法師団の野営にただひたすら驚くばかりであった。

 夕飯はプレーリーボアの肉で作ったサンドイッチに生野菜をふんだんに使ったスープである。

 旅の初日の特権ともいえる生野菜をふんだんに使用した料理に皆がっつくように食しそのまま休眠を取ることになった。

 いつもより寝る時間が早いためせっかくなので持参した本を読むことにした。

 既に何人か男性陣のいびきが響き始める中、自分が使える数少ない魔法、火種を一瞬発生させる魔法を唱えてオイルキャンドルに火をつける。

 中のオイルは雑穀製の粗悪品の植物油脂である。

 本と睨めっこをし、南部の特産品になり得る物を本の情報から読み解けないものかと思案していると誰かがノックした。

 仮設テントのドアを開けるとそこにはベスティが立っていた。

 「ちょっと時間いいかしら?」

 特段断る理由もないので応じて外へでる。

 縮こまっていた身体を解きほぐすように背伸びをすると仮設テントに寄りかかって話すことになった。

 「気づいてると思うから言うけどさ……その迷惑じゃなかった?推薦したんだ私が……。」

 「だろうね。王宮魔法師団なんて面識あるの君くらいだ。迷惑も何も仕事だからね。特にはしてないな。」

 なんだかベスティの顔色は優れない。

 「そう、仕事……だもんね。学生の頃は負けたくない勝ちたい一心だったけど結局勝てなかった君を推薦したのは都合が良いからだったんだ。

 だって依頼することが決まった所に同級生がいて尚且つ自分が勝てなかった人だったんだから推薦価値はあるし何より知らない人よりも知ってる仲が1人保証されるのが嬉しかった。

 親元から離れて長いとはいえ仕事とはいえ知ってる仲が1人でも多いことを願う私って弱いかな?」

 なんだがお悩み相談な空気感である。

 そして悩みの正体を察するのは容易だった。

 「王宮魔法師団のみんな流石に手際良いな。

 凄いとは思っていたが想像を遥かに超えていた。

 1一般人の俺には立ち入る隙さえ見当たらなかったよ。もしかしてベスティも同じこと感じたりしたことある?」

 声には出さずこくりと頷いた。

 「だよなぁ野営ってそんな頻繁にあることじゃないだろうにあぁも手際が良いとこうして本開く暇さえできてしまう。」

 手に持った本をアピールしながら話すと軽く笑われた。

 「暇してたの?ならさ軽く空気吸いに行かない?野営時限定おすすめの場所があるんだ。」

 首を傾げる俺に魔石が散りばめられた長尺杖を押し付けてきた。

 「おい俺は大した魔法使えないぞ?知ってるだろ?」

 「良いから落ちないようにしっかり握りしめといて。怪我しても知らないよ。」

 落ちる、その言葉にゾッと背筋が凍る感覚を覚えた。

 2人が強く握りしめた直後、杖に引っ張られるように足は足場を見失う。

 辿り着いた先は豪邸かのような建造物、仮拠点の屋上だった。

 「よし!誘拐成功!先輩〜連れてきましたよ〜。」

 さっきまでのしんみりムードが嘘かのような陽気さで呼ぶと3人が顔を見せた。

 ヘリヤ・コーネリア、フォンナ・ボーティ、パイル・セネドラの3人である。

 「遅い。」

 「フォンナ先輩しょうがないじゃないですか。口説くの慣れてないんですって。」

 「へいベスティ!どうやって口説いたんすか?」

 「黙秘権を行使します。」

 「まぁまぁお二人さん座って座って〜」

 状況をいまいち飲み込めないが1つわかるのはしんみりムードはまるで嘘かのような彼女の真意が読み取れないことだけである。

 口説く口実かのように言ったが彼女のあれはどうにも本音に聞こえた。

 だが今の陽気な様子は学生時代となんら変わりないから余計に混乱する。

 「はーいでは野営恒例王宮魔法師団女子会夜の部始めまーす。」

 パイルの合図を元に女子会に巻き込まれる形になってしまった。


誤字等ありましたらご協力よろしくお願いします。

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