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異界の喫茶店  作者: 睡魔ASMRer
0章 転生を通しての渇き
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4話 出立前話

 この話での前振り露骨過ぎるような……まぁええか。


 交友も終わり足早で帰路に着く。

 明日からの仕事のために1つでも多く家で仕事をこなしたいからである。

 なぜなら3日後には王宮魔法師団の第一陣が出立するからだ。

 クーネルはその2日後の第二陣に同行するついでに出発することになる。

 運搬物の確保、確認も含めれば5日なんて有って無いようなものである。

 家に到着すると家前に課長が立っていた。

 正直に言うとお隣だからといって仕事外で顔は合わせたくない。

 何かあったのではと思えてならないからだ。

 「課長……何か御用でしょうか?」

 「残業お疲れ様、1週間分の仕事量前倒しとは洒落にならないよね。本当にお疲れ様……いや君の長期出張が決まってしまったからね。課長兼お隣さんとしてご挨拶に伺ったまでだよ。」

 相変わらず鋭い先読みと早い行動力である。

 玄関先では母が泣いていた。

 これではお隣さんに問い詰められ泣かされた図である。

 無論泣いてる理由はそんなモノではなくただただ寂しさから来るものであったが……。

 それから課長と家に上がり事情説明になった。

 母は説明中も俺に抱きついて泣いている。

 課長兼お隣さんの目の前で恥ずかしいどころの話じゃないのでやめて欲しいがお隣さんが課長をやってると理解した上で入社希望出したのは間違いなく自分な訳で……何も言えなかった。

 説明が一通り終わりご近所付き合いの雑談も終わり、泣き疲れたのか俺に抱きついたまま寝た母を振り解き外へ見送りに行った。

 「相変わらずエミリアさんは面白いお方だ。あれで武勲を立てられてるのだから誠に奇怪なお方よ。」

 顔から変な汗が噴き出すかと思うほどの恥ずかしさが溢れてきた。

 「わざわざ業務時間外にお越しいただきありがとうございました。」

 「固い固い。仕事中は上司と部下かもしれないが普段はお隣さんじゃないか。ご両親とはこれからも仲良くさせて貰うから君は何も気にせず目の前の仕事に集中するといい。

 後これは人生の先輩としてのアドバイスだが君ほどの人材なんだ出張ついでに王宮魔法師団から好みの女性でも見繕って結婚すると良い。

 適齢期逃すとせっかくの優良物件が勿体無いぞ。

 かくいう私の伴侶もね若かりし頃のね、出張先のね、農家の娘がね、これまた美しかったものでね、恥ずかしながら仕事外で毎日現を抜かし婚約まで漕ぎ着けたものだよ。君くらいなら王宮魔法師団のエリート様でも釣り合うだろう?何せアウスガルド学院首席な訳だからな。」

 唐突に結婚の催促に思わず苦笑いにならざるを得なかった。

 確かにこれも親孝行の一種だろう。

 だが前世含めても恋愛経験皆無である。

 こればかりはうんともすんとも言えずただ乾いた笑いが出るばかりだった。

 笑みを保ちながらも……何か……渇くばかりである。





 翌日、俺はひたすら書類と睨めっこを繰り返していた。

 的確に計算、照合し計上、自身のの印を押し受理する。

 また次の案件の紙を拾い上げては睨めっこ、計算、計上、受理、これの繰り返しである。

 本来1週間分の仕事量が前倒しなのだから手を止める暇もない。

 書きながら次の書類に目を通し始め印を押しながら計算し始め仕事を最適化させながらも照合だけは丁寧に……前世の社畜時代を彷彿とさせる働きぶりなのに前世とは違ったゆとりを感じられた。

 企業ライターは手を止める暇もない。

 様々な依頼を企業がかき集め平社員もとい社畜がその中から選び書き起こす。

 給料は新卒平均ちょい下、だが成績が完全に歩合制、つまりどれだけ会社に貢献したかで決まる。

 無論それはボーナスにも直接的な影響を及ぼすため必死に書いた。

 書いて書いて書いて、仕事に入り浸るあまり親の病状の悪化への反応が遅れ死に目にすら間に合わずそれを悔やみ精神を病んだ……。

 酷い後悔である。

 だが今はどうだろう。親は前世と違い五体満足、仕事も給料などは比べ物にならずボーナスというものがそもそも無いため成績に固執する必要もない……仕事に取り憑かれ脅迫めいたように追い込む必要はない……。

 ただあるのはやりがいとそれに見合う給料、そして帰るべき温かい家があるという事実である。

 これがゆとりの正体だろう。

 自立可能なのに実家勤めなのは実利を取る以外の理由があったのかも知れない……。

 ただ精神的なゆとりあるそんな中でも少しの渇きと焦りを感じていた。

 それは一件ずつ仕事を熟すにつれて徐々に積み重なって肥大化する……そんな感覚だった。

 ゴールに向かっているはずなのになぜかゴールから遠ざかっていくような不思議な感覚……。

 残業をしてでも全てを処理し終えた時にはえも言われぬ達成感に満たされていた。

 満たされていたのに渇きを覚える。

 これは喉の渇きではなかった。

 窓から外を眺めると宵闇が降り家々から漏れる光以外は闇といった街並み模様である。

 すぐさま支度をして帰路についた。

 家に着き母が拵えた晩御飯をいただき、家族を呼んだ。

 「父さん、書籍からいくつか本をいただいてよろしいでしょうか?」

 まずは向こうで役に立ちそうな物の確保である。

 特に南部の地理関係の本はそもそも数が少ない。

 だが家に一冊あるのだけは学生時代に把握済みである。

 「構わん好きなだけ持っていきなさい。」

 お礼を述べて次は母に向き合った。

 「母さん、しばらく一人暮らしすると思うからいくつか料理のレシピを書き起こして貰ってよろしいでしょうか。しっかり自炊しようと思いますので……。」

 嗚咽して泣きながら頷きそそくさと書き始めた。

 妹のアルメリアには……特に言うことなかったから撫でたら手を弾かれた。

 どうやら思春期らしい……ちょっと悲しかった。








 翌日からはひたすら出張のための前準備である。

 商会ギルド管轄の馬小屋に行き管理人に届け出を提出、長期貸出で荷車用4匹とと農耕馬を1頭借り受ける手続きを済ませておく。

 こういうのはなるべく早く手続きを済ませてキープしておく必要がある……。

 次に荷車の確保、2台確保するとギルドの敷地内の庭に一時的に仮置きしておき今のうちに持っていく商品やら必要物資などを詰め込む作業が待っている。

 前日までに残っていた業務は終わらせたため今日からはひたすら各地へ赴き商品確保である。

 ギルド内倉庫、ギルド外部の大型倉庫、手続きを済ませて商品を運び出す。

 だがこれではまるで足りない。

 お得意先に出向いては3日後までに納品可能な個数を聞き出し普段より少し色を付けて取引する。

 4件目を巡り終えた頃にはすでに日が傾き始めていた。

 売り上げを期待できるのは何も医療道具だけではない。

 武具のメンテナンス用品、日用品、長期保存可能な加工食品などなど多種多様である。

 さらに翌日も王都内を駆けずり回りどんどんと取引を行っておいた。

 慌ただしい5日間はあっという間に過ぎ去り出発の朝を迎えていた。

 「商品の数合わせ完了、必要物資も欠品無しっと……馬の状態良し、荷車の安定良し、道中の水・食糧良し、……。」

 まだ朝日が昇りきらぬ中、最終の確認作業を行なっていると出張の道連れに選んだ人がやってきた。

 「朝早うございますね。」

 指名したのはもちろんハイネ先輩だ……先輩側の許諾も無事取れて良かった。

 「ハイネ先輩、持っていく荷物をここの空きスペースに積み込んでおいて下さい。

 私はもう一台の荷車の方の確認作業をしてまいります。」

 入社してから1年間ずっと世話になった人でありこの人以上に信用できる人は居なかった。

 引越し必須なのに引き受けてくれたことには感謝しかない。

 チェック作業も終了し待ち合わせ場所の王都城門まで向かうと集合時間の1時間前だというのにすでに王宮魔法師団の面々は揃っていた。

 「商人一同到着なされた。一同、敬礼!」

 第二陣の隊長と思しき男性の声に合わせてビシっと整った一礼を見せられ思わず身構えてしまう。

 「どうも本件のご指名をいただいたクーネル・ボスティマフティアと申します。

 こちらは私の助手としてお呼びしたハイネ・グライツです。

 よろしくお願いいたします。」

 軽い自己紹介の後に深い一礼を行なった。

 「王宮魔法師団、第二小隊長を務めさせていただくボーガン・グラファイトと申す。

 こちらは今回の一件に同行してもらう王宮魔道具開発局、局員のチャイル・ポーツマス殿だ。

 予定時刻より早いが全員揃ったのでこれよりムーティア市に向けて出発する。」

 総距離350キロ弱にも及ぶ約1週間の長い旅路が幕を開ける。


 

誤字等ありましたらご協力のほどよろしくお願いします。(他力本願寺派)

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