14話 建築談義
翌朝、王宮魔法師団に革を調達に向かった際に俺は3人を呼び出し座らせて尋問することになった。
「……で昨日のことですけど、3人とも一体何企んでるんですか? 」
きょとんとするベスティを置き去りに問い詰める。
「黙秘。」
「内緒っす。」
「ちょっとした悪巧みよ?」
既に裏で何か画策してる事には察しがついているがどうやらしらばっくれるつもりらしい。
「そうですか。貴方たちの会話内容の全てをベスティに報告することにしましょうか。」
「待て待て待て。」
「待つっす。」
「軽い冗談じゃない。」
ここでようやくベスティも察したようで表情が変わった。
何の話かさっぱりだった顔からまるでゴミを見るかのような蔑む目をして3人を睨みつける。
彼女が何を察したかまでは分からないが彼女にとって相当なことみたいだ。
その後俺1人を置いて4人は仮拠点の奥へと入っていった。
5分ほど経って戻ってきた時にはベスティから何もないから帰るように促され必要なことだけ説明して帰ることにした。
「……という事で建築士見つかり次第土地も押さえて建設という流れになる。
建築士の作業ペースに関しては私が補助に入り2日ほどで完成させるように取り計らう。」
「ならそれに私も同席するわ。見つかったらその時に一報よろしく。」
こうして商品を手に販促をかけるここ二日間と同じ流れである。
違うとすれば……昼に王宮魔法師団の魔女4人が同席することになったくらいだろうか。
「クーネルさんなんでこんなことになってるんですか。」
「まぁヘリヤさん経由ですね。」
「そういうことっす。」
「へぇクーネル今ここ通ってたんだ。」
「良い雰囲気のお店ね。」
当然テーブル席に6人はかなり狭くお互いが肩を押し付けながらの食事となった。
どこかハイネ先輩の肩身が狭そうであるがそれは席の幅のせいにしておこう。
「それでこれがミネストルコフィ……と。今日で最終日なの!? 」
1週間限定メニュー、まさかの最終日である。
「ハイネ先輩明日からは別の店も探してみましょうか。」
「そうですね。」
食いづらいからという理由は飲み込んだ。
「あ、クーネルさん、こちら本部からの書簡です。」
食べ終わると同時に渡された書簡に目を通してからしまうと席を立つ。
「それじゃあ仕事終わりに送り返す必要ありますね。」
「え、もう行くの?」
「はい。この後業務が差し迫っておりますので……。」
「ねぇ今日、いや明日でも良いからさ夜一緒に食べにいかない?」
「良いですけど……ちょっと待って下さいね。」
毎日持ち歩いているメモ帳を1枚切り取り自信が寝泊まりしてるところを書き出す。
「ここが俺の今住んでる所なんで君の空いてる時間に来てくれ。
君の勤務日程知らないしな……。」
そう言ってベスティに住所を手渡してから店を出た。
「知らないなら知る努力しなさいよ。」
彼女が最後に残した言葉はクーネルの耳には届かないのであった。
結果的に建築士は見つかった。
それはかなりの大物でありそもそも彼らの中に建築士がいる事自体予測していないほどの人の中にいたのだ。
「ご紹介に預かりましたシャルロット・ムーティアと申します。」
「というわけで妹のシャルロットだ。」
見つけてきたのはベスティで第一陣小隊のモーリアス・ムーティアの妹、貴族令嬢である。
「ムーティア辺境伯ご令嬢が依頼を引き受けて下さるということですか……。」
王宮魔法師団に貴族は多い、そもそも歴史上魔法に才能がある家は貴族へ成り上がりやすいだけでなく貴族に婚約という形で組み上げられやすく必然的に貴族の魔法に対する才能の生まれやすさは高いといえるからだ。
だからこそ王宮魔法師団に貴族は多いし彼らと接する時は実力至上主義の公務員として貴族感覚なく付き合うことはできる。
だが依頼となると話は別だ。
取引先であることには変わりないが一貴族として扱う必要がどうしても出てくる。
「兄の所属先である王宮魔法師団がお世話になっているそうでいつもありがとうございます。」
「いえ、こちらは王宮魔法師団にご指名を頂いた身、指名されたおかげで働かせて頂かせております。」
「そう、優秀なのですね。」
その後話し合いは進み実際に引き受けてくれる事になった。
依頼費用は金貨2枚、結局当初の試算と同額に戻ってしまった。
だが建築士はケチることができない。
設計も施工指示も彼らにしてもらえるから巨大な施設も建てられるというものでそれなしでは事も進まない。
肝心の条件だが口の堅さは貴族は基本的に大丈夫である。
口が軽い貴族はそれだけで家の沽券に関わる。
実績については凄まじく流石は南部の僻地を任せられた辺境伯の一員、街の門から街の区分け、道路整備等街の設計の大半をこなしていた。
ムーティアに来てまだ4日目だが街の出来に関しては文句の付け所はなかった。
その上魔法へも精通しておりこの上ない人材といえる。
「ではベスティ、君に彼女の仕事管理一任していいか?どうせ色々要望出すだろ?」
「えぇ良いわ。よろしくお願いします。シャルロット辺境伯令嬢。」
「よろしくお願いしますわ。ベスティさん。」
どうやら俺の介入点は無く仕事にも集中できそうで一安心である。
「クーネル、一応買取時に相談させて貰えるかしら。」
介入する余地ないはずなのに無理矢理入れられる。
だがこれも仕事なため快く引き受ける他ない。
「良いけど彼女ほど建築方面で活躍は出来ないからな。」
「??何言ってんの? あ、シャルロット辺境伯令嬢。この人ね私が卒業時首席だった人です。アウスガルド学院の! 」
なぜこの人は他人の紹介でウキウキしてるのか俺には分からない。
「あらそうでしたの。それはそれはとても優秀なのですね。是非私の方からもご相談させていただけませんか? 」
「まぁ業務内容ですし構いませんが買取は朝早いですけどいかがなされるおつもりですか? 」
流石に午後の業務を助手1人に任せっきりにも出来ない。
「あぁそれなら空き部屋くらいいくらでも作れるから問題、ないんじゃない?」
ベスティが提案するがそれは果たしてありなのだろうか。
王宮魔法師団の仮拠点は屋根こそあるがこと睡眠に関しては野営と対して変わらない状況である。
「あらそれは良いですわね。是非お願いしますわ。出来れば兄の監視もさせて下さいまし。」
監視とかいう貴族らしからぬ発言が飛び出したことに驚いた。
もしかすると野営の経験くらいはあるのかもしれない。
「貴女がよろしいのでしたらそれで行きましょう。ではベスティまた明日、よろしく。」
翌朝、いつものように買取に向かうと既に議論が加熱していた。
ようやく日が顔を出したくらいの時間だというのにこの人たちはいつからこの様子なのだろうか。
「おはようございます。お早いですね。」
挨拶するとすぐに理由がわかった。
彼女たちの目が少し充血しかけており目の下に隈ができているからだ。
「え、もう朝!? 」
ベスティのこの発言が決定的すぎた。
「あら。いけませんわ夜更かしなんて……お肌に悪いというのに……まだまだやりたい所だらけですわ。」
ひょっとしたらこの人もベスティタイプなのではと思えてきた。
「えっと……始めて大丈夫ですか?一旦出直しましょうか?」
「「いえこのままで大丈夫です。」」
食い気味での返答からして大丈夫なのだろう。
「ではまず買取の方から……。」
金貨3枚分を買取りこれで増加した費用込みの金貨10枚分の革を買い取ったことになる。
無事目標達成である。
「……で問題の設計図はどんな感じですか?」
彼らが設計を一晩中詰めていたことは言わずとも分かっている。
「あーえーっとね……。」
ベスティの歯切れの悪さに要領を得ないため直接覗き見ると外装段階であった。
ちなみに内部構造は基礎部分は既に決定済みだが部屋とかはまだまだである。
「なんで外装だけで一晩かかるんですか……え、待ってこれ……正気ですか?」
円柱上の建物に球体設計、その球体にあれやこれや施設詰め込む予定なのは理解できた。
そして円柱、この2人はこれに魔法陣を組み込むつもりなのだ。
魔法陣の魔法は術者の供給で発動するタイプと何かしらの媒体に込められた魔力で発動するタイプがある。
建物に使おうとしてる時点で後者なのだが魔法陣が大きければ大きいほど規模も必要魔力量も半端ない。
発動時間もそれに乗算されて魔力消費を後押しする。
建物にそんな労力、はっきり言って無駄である。
「えっとね。これ魔法陣の模型ね。要は要塞化もして緊急時の避難所になるようにしようという話になっていてどでかい地下室が主な避難所になるんだけどね。後この魔法陣を媒体だけでなく術者による供給との2タイプ併用にしようかなと思ってたんだけどこの調整というか設計が難しすぎてさ……んでね、転移門を屋上に設置しようとするんだけど干渉し合わない絶妙な高さも検証段階でね。後ここが倉庫予定地なんだけどちょっと足りないかな?」
要は建物の形に合わせて魔法陣複数組み込もうとしたら上手くいかず夜が明けたということだろう。
「それは両立する必要があるのですか?かなり無謀な設計であることはお二人とも理解できますよね? 」
「実を言いますとお恥ずかしながらこの街には避難所と呼べる場所が作れていないのです。
周辺を密林に囲まれておりスタンピードの危険性が高いというのに発展に重きを置くばかりに疎かにしてまいりました。そして気がつけばそういう施設は役所とムーティア家邸宅の2箇所のみ……これではこの街の4分の1程度しか避難させられませんわ。
この機会に地下シェルター併設した建物を建てたいと考えておりますわ。」
どうやら2人の要望を一晩で詰め込んだ結果が今の惨状といったところだろう。
魔法陣は近すぎると発動後に発せられる魔力派による干渉を受け機能しなくなる。
それは魔法陣のサイズに比例して距離を空ける必要がある。
建物サイズとなるとどうしても設計に無理が出るのは致し方ない。
「……計算するんで少々お待ちください。」
建物半径が現状15メートル、高さは30メートル、設計図に下書きされた魔法陣は建物の半径通りの15メートル、と必要な情報を式に当てはめていくと地上に硬化魔法の魔法陣を描いたとしたら屋上の転移門は機能しなくなる。
「……この設計では無理ですね。」
「……やっぱり?でもなぁ硬化魔法ないと避難所としては心元ないしなぁ……。」
「どちらも外せませんわ。なんとかなりませんでしょうか? 」
距離を開けるか硬化魔法の魔法陣を小さく、つまり脆くする必要がある。
悩ましい問題なわけだ。
「……これ避難所は地下の予定ですよね?」
必要な確認事項を尋ねる。
「えぇ、一階の受付裏に螺旋階段を用意する予定よ。」
しばらく考えた後計算し始めてその結果を見て1つの結論を導きだした。
「方法なくはないですけど建物外装の強度は保証できないです。ま、王宮魔法師団の皆さんならそもそも建物防衛なんてあまり問題ではないでしょう? 」
どう考えても最優先は避難場所の安全確保である。
「地下に魔法陣ということですの?」
「いえ、柱に魔法陣を描きましょう。」
全ての柱に小さめの魔法陣を描く、柱を等間隔にかつ魔法陣も柱の周りを一周する程度の大きさなら互いに干渉することもない。
壁際の柱と近い柱同士は干渉するため壁際優先で魔法陣を描き足す。
「……これなら地下の安全は確保できます。一応このサイズなら地上に描いても問題ないはずなので多少の強度は保証されます。無論建物全体を強化するわけではないので支部は守れませんが。」
転移門、どうしても魔法陣が大きいためこればかりはどうしようもない。
「……となると入り口になる螺旋階段の地上部分に描方がよろしいでしょうか?」
「そうなりますわね。」
ベスティとシャルロットの意見も合致したようである。
「……では私はこれにて……あのお二人ともちゃんと寝て下さい。脳が鈍ってはどうしても見落とすことがあります。」
そもそもこれくらい2人の頭脳なら導き出せていても不思議ではない。
深夜テンションのまま夜更かししながら書き上げたせいで思考力が鈍っているのは間違いなさそうである。
「あの。同行させて下さいませんか?」
「……はい!?」
唐突の申し出に自分でも驚くほどの素っ頓狂な声が出るのだった。
ブクマありがとうございます1人増えるだけで狂喜乱舞しております。
誤字等ありましたらご協力よろしくお願いします。